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【書籍化】ごめんあそばせ、殿方様!~100人のイケメンとのフラグはすべて折らせていただきます~  作者: 巻村 螢
第二章 推し継続中につき、刈り続行!

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27.こういう奴だよお前は

 スフィアが先を歩くようにして、校舎内を案内して回る。


「こちらの南棟が下級生の教室(どうしてウチが)が入る、下級生棟です(視察先なんですか)

「へえ、棟が分かれてるのです(俺が選んだからね)ね」


 副音声で立派に会話できていることに関しては、深く考えてはならない。以心伝心に他ならない芸当なのだが、それを認めれば何か負けたような心地になるので、これは都合の良い乙女ゲーム世界のなんたらかんたらの力であると、スフィアは自分を納得させる。


上級生棟と下級生棟(会えないからって、)を繋ぐ東西の棟(わざわざ押しかけてく)には、特別教室(るなんてストーカー)などが(ですか)

図書室などの特別教室(スフィアの制服姿も)も見てみたいですね(見てみたかったし)

うわっ、変態(うわっ、変態)

「逆ぎゃ――いや、逆ですらないな」


 本音と建前が一致した稀有な発言であった。グレイの顔に哀愁が滲む。

「ヤバッ」とスフィアは慌てて口を押さえたが、皆、スフィア達からは少々離れて付いてきていたため、今の発言を聞かれることはなかったようだ。

 スフィアはホッと胸を撫で下ろした。


 ――隣に面倒の象徴がいるってのに、これ以上の面倒事は勘弁だわ。


 教師達はそれぞれの仕事に戻り、校内の案内は生徒会の面々と、グレイの僅かな側近のみ。他の生徒達は授業中だという事もあり、粛々として案内は進む。




「ねえ、なんだか殿下とスフィアの距離って近くない?」


 先を歩くスフィアとグレイの様子に、リシュリーがぼそっと呟く。

 何を話しているかは分からないが、グレイは楽しそうに笑っていた。時折、耳打ちするような仕草もあり、初対面にしては少々距離が近すぎのような気もする。


「まあ、スフィアは綺麗だからね。殿下も気に入ったんじゃないの」


 いつものことだ、とブリックは特に気にした様子もない。


「あ、じゃあもしかしたら今回もスフィアは、あの精神破壊活動をするのかしら」

「いや、さすがに王子相手にはしないでしょ」

「何ですか、その不穏な活動は……」


 カドーレがリシュリーの言葉に眉を顰めるが、スフィアの破壊活動を知っている他の三人は首を横に振った。知らぬが仏だと。


「この世には、知らない方が幸せなことがあるんだよ」


 ガルツの有無を言わせぬ言葉の圧と、肩に乗せられた手の重みに、カドーレは分からずとも、触れてはならぬと口をつぐんだ。


「いやぁ、けれど本当に、殿下とスフィアってなんか親しげだよね。僕だったら、殿下の隣とか緊張しちゃいそうだけどさ」

「隣が殿下じゃなければ、あたしが割り込んで行くものを……っ! あたしのスフィアを独り占めしてずるいわ!」

「スフィアはリシュリーのものではありませんよ」

「お黙り、カドーレ!」

「ちょっと、他の生徒達は授業中なんだし静かにしてよ」


 リシュリーが叫喚するのをブリックが宥める。


「ほら、ガルツも会長らしく何とか言っ――」


 八つ当たりでカドーレの首を絞めはじめたリシュリーの凶行に、ブリックは「止めてくれ」とガルツに目を向けた。しかし、ガルツはまるで騒ぎなど気付かないとばかりに、足を止め廊下に視線を落としていた。


「ガルツ……?」


 俯いていたことで、ブリックにはガルツがどのような表情をしているのか、分からなかった。



 

「――こちらで、案内は最後になります」


 案内の最終地は温室であった。半円形のドーム天井に、真っ白な支柱。天井も壁面も全てガラス張りであり、内側で咲き誇る花々の色艶やかさが、外からでも見てとれる。

 まるで、花を生けられた巨大な鳥籠。


「では、どうぞ。赤髪のお姫様」

「……ありがとうございます、殿下」


 案内役であるスフィアより先にグレイが温室のドアを開け、紳士の如くスフィアの入室を促した。スフィアの表情は遺憾千万とばかりに歪められていたが、ここで下手に抵抗するのも変なので、大人しくグレイと共に温室へと入る。

 後ろからガヤガヤとした声も聞こえるので、控え目に付いてきていたガルツ達一同も、温室に入ったのだろう。


 ――案内っていっても温室だし、さらっと一周して終わりましょ。


 今のところ、最初に手に挨拶をされたくらいで、他には何の問題も起こっていない。グレイはしっかりと王子としての公務を果たしているし、スフィアも『殿下』と言い、訪問先の一生徒を貫けている。実に順調である。

 だからこそ、順調のうちにさっさと幕を下ろしたかった。


「それでは殿下、歩道に沿って――ぇえええええええ!?」


 しかし、予定通り進まないのがこの世界。


 突然腕を引かれたかと思えば、そのままグレイが猛スピードで駆け出した。後方でもスフィアと同じく驚きの声が上がっている。


「ちょちょちょ!? グ、グレイ様!?」


 あまりの唐突なことに、思わずスフィアの殿下呼びも崩れる。制止の言葉をかけるも、振り向いたグレイは口の前で人差し指を立て、ウインクでスフィアに返答する。実に楽しそうである。

 温室といっても、通路にまで木々や花々がせり出してきている所もあり、見通しはすこぶる悪い。人の背丈ほどの巨大な葉もあれば、天井近くまで育った背の高い樹もある。歩道を歩いていれば、人を見つけるのも比較的容易であるが、ひとたび木々の中に紛れてしまえば、あっという間に要捜索隊である。


 そして今現在、慌てふためいた護衛と生徒会一同という名の捜索隊が、絶賛活動中である。


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