22.スフィアと涼花
とっても短いです
交換視察も無事最終日を終え、来週からは普段通りの学院生活が戻ってくる。攻略キャラも無事片付け終わったし、全てが順調だった。
しかし、スフィアの気は晴れなかった。
「…………」
家へ帰る馬車の中で、スフィアは膝の上で拳を握った。巻き込んだスカートが皺くちゃによれる。
スフィアの憂鬱の原因、それは最後に学院を去る際に、ストーゼンとラヴィーユが口にした台詞のせいであった。
『好きになったのは間違いだった』
好きという感情に、間違いも正解もあるのだろうか。それは誰にとっての正解で、間違いなのか。
スフィアは俯いた顔の下で唇を噛んだ。
家に到着するなり、バタバタを荒々しい足音を立てながら、二階の自室へと上がる。階下から、ジークハルトの「どうしたんだい、スフィア」という心配の声が聞こえたが、スフィアは自室のドアを、音をたてて閉めることで返事とした。
着替えるのも面倒臭く、鞄をそこらへんに投げだし、制服ままベッドに倒れ込む。
「結局、皆、自分の身が一番可愛いのよね」
はぁ、と肺の奥から絞り出したような憂鬱な溜め息は、上質な羽毛の中に吸い込まれてゆく。
「……やっぱり思い出しちゃうわ、こういう場合。前世の記憶って厄介なもんね」
ゲームの情報だけ残して、あとは綺麗さっぱり消してくれても良かったのに。
それは、スフィアが涼花だった頃の記憶。
それは、スフィアの行動原理を裏付ける主因の記憶。
それは、スフィアに『信じる』という言葉を消失させた記憶。




