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【書籍化】ごめんあそばせ、殿方様!~100人のイケメンとのフラグはすべて折らせていただきます~  作者: 巻村 螢
第二章 推し継続中につき、刈り続行!

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9.またつまらぬものを、刈ってしまった。

「あーあ。そうやってお前が愛想振りまくから、勘違いする奴が後を絶たないんだよ」

「あら、だって少しはレイランド家の為にも、イメージは良くしておかないと」

「ラブレター燃やした張本人が今更イメージとか……笑っていい?」


 顔色を赤やら青やらにしていた者達は、顔を覆って憐れになる程の悲痛な叫びを上げながら、窓辺から走り去っていった。他の野次馬の者達も、見世物が終わったと皆元通り窓辺から散っていった。


「まあまあ、手応えも歯応えもない子達ばかりですね」


 これでまた明日からは普通の日々である。出る杭は、根元から引っこ抜いて遠投して存在を消してしまうのが鉄則だ。


「さて、焼き芋でもします? せっかくの焚き火ですし」

「やめてあげてよ。ただでさえ自分の想いが灰になったのに、それで芋なんて焼かれた日にはあの子達、女性不信になるよ」

「それに俺達もそんな怨念のこもってそうな芋、食いたくねぇよ」


 ブリックは「ご愁傷様」と呟きながら、バケツの中の水を焚き火に浴びせた。炎はツンとした匂いを立ち上らせ、ただの灰色の塊になる。


「それにしても、今日の手紙はいつにもまして多かったな」

「まあ、先輩達もそろそろ卒業ですからね」


 ガルツとブリックは「なるほど」と頷いた。

 顔を赤や青に変色させていた生徒は、六年生の中にもいた。

 スフィアのかつての凶行を知るはずなのに、こうして無謀な行いをするのは、最後のチャンスというものなのだろう。万が一、億が一のもしかしてがあるかもしれないという欲と、当たって砕けてもすぐに卒業だし、という打算が彼等を突き動かしたということか。

 しかしまあ、やはり結果は、ご愁傷様なのだが。


「……俺達もいよいよ最上級生か」


 ガルツは、灰の塊を燃え残った枝先でつつきながら、しみじみとした声を漏らした。


「来年こそはスフィアと…………って、絶対にまたこの面子は同じクラスなんだろうね」

「光栄に思ってくださいね」


 バケツを片付けるブリックの肩が垂れ下がった。手に取るように彼の胸の内が分かる。失礼な。


「ちなみに、同じなのはクラスだけじゃねえと思うぞ」


 ガルツの意味深な言葉に、スフィアとブリックは心当たりがあった。


「二人とも、生徒会にって打診を受けてんだろ?」


 冬の淡い青空に流れる灰白の煙を眺めながら、ガルツは「俺もだよ」と溢した。

 確かに、冬休みが明けてすぐ、現生徒会の者から打診があった。

 生徒会に入る者は、先代生徒会の者から指名されるというのが、代々の伝統らしい。元よりロンバルディア貴幼院の生徒会は、生徒の自治性を養うための組織である。自分達で後任を選ぶのも、一つの自治性という事だろう。足下にいる者達を把握し、適材適所に配置する能力は、将来的に必ず必要になってくるものだ。


「当然、受けたんだろ?」

「まあ、そうですね」


 スフィアは、何でもないように平然と「そうですね」などと言ったが、打診を受けた際、食い気味に了承していた。その間髪入れなさに、打診をした上級生の方が引いたほどだ。


 ――生徒会に入っておけば内申点も稼げるし、そうすれば、アルティナお姉様と同じ貴上院への進学も希望できるもの! 貴幼院は違ったんだから、せめて貴上院くらいは! 一年でもいいから、お姉様とのハッピースクールライフをっ! 神よ! なにとぞお慈悲を!!


 その神こそが、アルティナの敵対キャラであるヒロインにスフィアを転生させたのだが、天地開闢の頃より、祈る時の相場は神と決まっている。仏がいるとは思えないし致し方ない。ダブルスタンダード万歳。


「もちろん、僕も受けたさ! まさか僕が生徒会の打診を受けるなんて……夢にも思わなかったよ」


 話を聞けば、ガルツは生徒会長に、ブリックは会計にとの打診だったようだ。ちなみにスフィアは副会長にとの話だった。

 奇しくも、かつてのロクシアンと同じポジションに着くことになろうとは。


「やはり副会長たる者、男遊びはした方が良いんですかね?」

「そんな伝統はねえよ」

「あら残念です。色々考えましたのに……」


 さめざめと泣くふりをするスフィアを、二人は白い目で見つめる。


「と言うか、スフィアの男遊びは普通のとは意味が違うでしょ」

「お前のは男遊びって言わねぇんだよ。男殺しだ。主に自尊心の破壊活動だ」

「精神破壊検定があったら一発殿堂入りだよね、スフィアは」

「あら、そんな恐れ多い。まだまだ一級保持者程度ですよ」

「頂点じゃねえか」


 ぐちぐち言いながらも、三人は手際よく片付けた。

 するとブリックが空を仰いで「雪だ」とこぼす。つられて空を見上げれば、フワフワとした綿帽子のような雪が舞い落ちてきていた。

 この雪が薄紅の花弁に変わるのもあと少しだ。

 最上級生という肩書きに多少なりの高揚感を覚えつつ、スフィアは帰路についた。



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