1・愛続行!
咲き誇る多彩な花々。綺麗に整えられた庭園の木々達。
しぶきをあげる噴水は見る者に清涼感をあたえ、その背後に立つ屋敷は、もはや王宮と言って良いほどの絢爛豪華な装飾がなされている。
「アルティナお姉~様ぁ~!」
庭園で花を摘んでいたアルティナの元へ、全身から喜色を滲み出させ、甘い声で彼女の名を呼びながら駆け寄る珍しい赤髪をした令嬢――スフィア。
思わずアルティナの整った顔が崩れ、令嬢らしからぬ声が漏れる。
「げぇっ! ス、スフィア! どどど、どうしてこちらに!?」
「もっちろん! アルティナお姉様に会いに来たんですの~!」
スフィアは駆け寄るスピードそのままに、アルティナに抱きついた。否、突進した。アルティナは「ぅぐっ!」と、重鈍な声を漏らして身体をくの字に曲げるが、脚を踏ん張ってどうにか転倒だけは避けた。
「――っす……少しはご自分の体格を考えなさい!! もう幼子ではありませんのよ!」
アルティナは、身体に巻き付いて離れないスフィアの顎を、目一杯押し戻しながら叫ぶ。しかしながら当然のごとく、スフィアはそう易々とは離れない。『離れてたまるものか』という執念さえ見える。
二人のその姿は、以前の幼児が戯れているような可愛さなど微塵もない。薔薇園のど真ん中である事を忘れそうになる程、二人の間ではまるで歴戦の格闘家のような気迫が満ちている。堂々のがっぷり四つ。
「大きくなるほど私のお姉様への愛も大きくなってますから~」
「大きくなるのは身長だけでよろしくってよ!!」
二人とも最初に王宮で会った頃と比べ、随分と背が伸びていた。
それもそのはず。スフィアは貴幼院五年生に、アルティナは貴上院一年生となっていた。
あれから今日まで、スフィアはアルティナと会わなかったわけではない。
スフィアはアルティナに会う為に、ローレイとジークハルトを骨抜きにする『天使の微笑み』というただの微笑み(力技)を使い、二人の社交界に付いて行っていた。そうして、パーティで彼女を見つけては、このように全身全霊全力で愛を伝える事を繰り返した。
もちろん、その度にアルティナも必死で逃げているのだが、なぜか毎度捕捉されてしまう。よって、最近では逃げるより、このように受け止めて引き剥がすという方法をアルティナはとっている。隠れている時に、段々と近付いてくるスフィアのヒール音に、何かの危機を覚えたからだとは、アルティナは意地でも言わないが。スフィアに対する恋敵認定もいつの間にか解けており、現状彼女とスフィアは比較的安定した関係を築けていた。
「アルティナお姉様は本日も変わらずお美しいですわぁ~! 万物創世の頃よりこんなに眩しい生き物は生まれておりません! 流石ですお姉様! いよっ! 女神降臨! レポートにして学会に提出しても?」
「良いわけがないでしょう!?」
賛美の美辞麗句を口にするスフィアは、アルティナの押しの一手で、彼女からはもはや顎しか見えなくなっていた。それでもアルティナに巻き付いたスフィアは、うふふと朗らかに笑って頑として離れない。狂気の沙汰。
アルティナは、スフィアの背後で苦笑していた青年――グレイに「どういう事だ」と、問い詰めるような眼差しを向けた。




