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【書籍化】ごめんあそばせ、殿方様!~100人のイケメンとのフラグはすべて折らせていただきます~  作者: 巻村 螢
第一章 ヒロイン転生したので、フラグ刈りを始めたいと思います。

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34・だって仕方ないの。腹の虫が治まらないんだもの

「ねえ、ジークハルト兄様。私、港町に行ってみたいです」


 ジークハルトが部屋で本読んでいたところ、唐突にスフィアがドアから顔を覗かせた。

 ドアから半身だけ覗かせ上目遣いにおねだりする姿は、人間界に迷い込んでしまった天使の様だ、とジークハルトは一人心の中で歓喜する。


「どうしたんだい、急に。マイ・スウィート・エンジェル」

「呼び方がおかしくありませんか」

「これは失敬。つい考えていた事が口から溢れてしまっただけさ。マイ・エンジェル」


 ジークハルトが何を考えていたか手に取る様に分かり、スフィアは呆れ半分に眉を顰める。

 その顔も可愛いと言わんばかりに、ジークハルトの顔の筋肉は情けない程に緩んだ。

 付き合っていると話が先に進まなさそうなので、スフィアはもう一度用件を口にする。


「私、港町を見てみたいんですけど、兄様一緒に行きません?」


「デートですよ」と、愛らしく小首を傾げながら付け加えれば、ジークハルトは悶絶しながら、声も出ないとばかりに何度も頷き了承した。


 ――年々落ち着くどころか、ヤバさ増してるんだけど……。



「――っはぁ、天使」


 何か言っている。


「それで、どこの港町に行きたいんだい?」


 息が整えば、ジークハルトは顔の筋肉を戻し、いつもの爽やかな顔を作る。


 ――本当、残念なイケメンってこういうのを言うんだわ。



「えっと、ライノフ家領にある港町ですけど――」


 ジークハルトはライノフの名を口ずさみ、思案しながら天井を仰ぐ。


「ライノフは……伯爵家か。確かここから南東の方に領地を……ああ、パンサスだ!」


 指を鳴らし、思い出した港町の名を口にするジークハルト。

 港町パンサス――王都から遠くなく、多国からの玄関口になっているレイドラグ国の貿易港の一つだった。


「大きい街ではないんだけど、異国の文化も入っていてとても素敵な街だよ。よし、今度の休日にでも一緒に行こうか!」

「ええ、お願いします兄様! 私、大きいお船が沢山見たいんですの」


 スフィアが両手を身体の前で楽しみとばかりに跳ねさせれば、ジークハルトの顔が再び溶ける。


「よしよし、沢山見せてあげるさ。何なら船の中も見せて貰おうか?」

「そんな事出来るんですか!?」


 スフィアが驚きの声を上げれば、ジークハルトは反らした胸を叩く。


「お兄ちゃんに任せなさい! 例えライノフ家の方が金持ちでも、爵位はレイランドの方が上だからね!! マイ・エンジェルの為なら権力でも何でも使っちゃう!」


 スフィアは感情のない声で「わーい」と喜ぶ振りをした。


 ――彼の将来が心配すぎるわ。


 このシスコンの愛が落ち着く日が来るのだろうか、と。それに職権乱用のような気もする。

 しかし今はありがたくその権力を使わせて貰う事にした。何かあればジークハルトが責任を取るだろう。


「それでは今度のお休み、楽しみにしてますわ」


 そう言ってスフィアはジークハルトの部屋を後にした。




       ◆




 自室に戻ると、そのままスフィアはベッドに飛び込んだ。

 沢山の空気を含んだ布団は優しくスフィアの身体を受け止め、綿菓子に包まれている様な心地だ。

 肌触りの良いスルスルとしたカバーに顔を擦り付け、スフィアは綿菓子の中で呻く。


 ――あー……今思い出しても腹立たしいわ。

 布団を握る手に力が入れば、小動物の鳴き声の様な衣擦れの音が鳴る。


「何がつまらない女よッ! 誰がすぐ泣く女ですって!?」


 昨日のことなのに、今思い出しても腹立たしい事この上ない。再びむくむくと頭をもたげた怒りに、スフィアは思い切り拳を布団に叩き付けた。

「ポスッ」という間の抜けた音と共に綿埃が舞う。

 レニはスフィアが余計なことをしなければ、金輪際関わらないと言った。

 ブリックにも関わらない方が良いと言われた。

 それも良いだろうと思った。

 元々の目的が、攻略キャラから自分へ向けられる好意を摘み取り、将来的に自分に関わらせない様にする事なのだから。

 向こうからそれを約してくれるのならば、これ程ありがたいことはない。


「だけど……」


 腹の虫は未だに怒り踊り狂っていた。まるで熱した鉄板の上で水が跳ねる様に、それは激しく、うるさく、沸騰の音を上げていた。

 この怒りを無視するな、とでもいう様に。

 スフィアは勢いよく身体を起こすと机に向かった。


 ――レニ先輩には、私をつまらない女扱いした事を後悔して貰うとしましょうか。


 引き出しから一揃いの便箋を取り出し、彼女は筆を執った。


 ――貴方はゲームでも、今この世界でも、私に攻略される側だという事を教えてやりましょう。


お読みいただき、ありがとうございます。


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