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【書籍化】ごめんあそばせ、殿方様!~100人のイケメンとのフラグはすべて折らせていただきます~  作者: 巻村 螢
第四章 推しとハッピースクールライフ!

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34 そうは問屋が卸さない!

「しっ! あまり大きな溜息は吐かないでください。見つかってしまいますから」

「溜息の音量まで指定されるだなんて……」

「理不尽の極み過ぎるが、それでも大人しくこうして召喚されてる俺らって、もう骨の髄まで子分精神が染みついてるよな」


 二人――ブリックとガルツは顔を見合わせると、ボスの指定通り、先ほどより息量を減らした溜息を吐いた。

 呼び出した張本人は、壁にへばりついて角から顔をチラチラと覗かせている。

 話を聞けば、どうやらスフィアの侍女が、文通相手からデートに誘われたのだとか。それを、こっそりと一緒に見守ってくれという用事だった。要するに出歯亀


「スフィアの侍女って言うと、あのマミアリアさんだよね。セヴィオでの……」

「そうですよ。彼女、春の舞踏会でどこかの貴族家の使用人の方と良い感じになりまして、ずっと文を交わしていたんです。そして、ついに会いましょうと言われたようで……彼女、顔を真っ赤にして、当日は何を着ていけば良いのか、どこをまわったらいいのかなど、とても初々しい反応をしていて可愛かったんですよ~!」

「へえ、あれだけ男を手玉にとってたあの人がなあ」

「商売事と恋愛は別物なんですって。文を交わすうちにどんどんと想いは募り、そしてデートのお誘い! ……っはぁ、恋愛の醍醐味ですねえ」


 頬に手を添えて瞼を閉じ、うっとりとした溜息を吐くスフィア。


「マミアリアさんより恋愛上級者みたいな風格醸し出してるけどさ、スフィアの恋愛経験値ってガルツだけじゃん。しかも恋人ってより友情の延長線で実質ゼロ」

「俺に効くからやめてくれ、ブリック」


 まったくダメージを負っていないスフィアの隣で、ガルツの背がドンドンと丸くなる。顔を両手で押さえて「あぁぁぁ」と、地を這うようなうめき声を漏らしている。


「春の舞踏会以来だったからよ、てっきり俺に会いたくなって手紙を寄越したんだと思ったのに……」

「まあ、あの文面は勘違いしちゃうよね。僕は最初から怪しいとしか思わなかったけど」


 スフィアから届いた手紙は時候の挨拶に始まり、そして主文にはこう記してあった。


《今度、王都へ行くのですが、私ひとりでは少々寂しく、ぜひ一緒にいてくれたらと思います。ひとりよりも二人のほうが、楽しみも増えると思うのです。》


 デートのお誘いともとれる文面である。


「しかも、ひとりより二人っていうか、三人だし……」

「ひとりより二人、二人より三人。という文の後半を省略しただけですよ」

「省略しちゃいけない部分だと思うんだ、ソコ」


 おかげで被害者が出たわけだし。

 意図的かそうではないか――いや、彼女の場合、意図も意図。計算の上でだろう。

 恋の芽を乱獲していく彼女は、子分と言えど、そうそう男の好意を満たすだけの手紙は送らないはずだ。そこまで裏を読んで、きっちりと心構えしてきたブリックはそこまでのダメージを受けなかったが……。


「……どうして学ばないの、ガルツ」


 隣で膝を抱えて、すっかりといじけてしまっている子分二号ことガルツは、よほど期待していたのだろう。


「だってよ……つい最近まで、俺はあいつの彼氏だったんだぜ。期待するなって方が無理だろ」

「スフィアにそんな普通を期待する方が無理だよ」


 分かってたでしょ、とガルツの肩を叩けば「そうだな」と生気の抜けた返事が返ってきた。

「まあ、元々色恋なんざに興味を示さない奴だったしな。そうだよ、仕方ないよな」


 ハハッと乾いた笑みを漏らしながら、どうにか精神を立て直すと一緒に顔を上げたガルツに、ブリックは生温かい笑みを向け、壁際を指さす。

 そこには壁から顔だけを覗かせ、大通りの歩く男女を眺めては鼻息を荒くする少女の姿が。


「その元彼女さん。今、めちゃくちゃ他人の色恋にかぶりついてるけど」

「うっひょーーー! その焦れったい距離が堪らないっ!」

「チックショォォォォォォォ!!!!」


 ガルツが再び顔を上げるまで、しばらく時間を要したのであった。






「ああ、もう! ガルツのせいで見失ったじゃないですか! せっかくいいところだったのに」


 ガルツの回復を待っていたら、すっかり通りからマミアリアと男の影が消えていた。


「お前、他人の色恋にはドキドキすんのな。覚えてる? 俺達最近まで付き合ってたんだが?」

「ええ、覚えてますよ。無事にアルティナお姉様と挨拶を交わし、ドボンした元彼さん」

「それだよそれ! まさか、条件の『とある人物』ってのが、ウェスターリ大公令嬢とか絶対回避できねえよ!」

「普通じゃ思いつかないもんね。まあ、普通じゃないからスフィアなんだけど……」


 二人して強く頷いている。失礼な。


「でも、付き合っていても付き合ってなくても、関係性は変わってませんし、別にそこの肩書きにこだわる必要はないんじゃないですか」

「本当皮肉なことに、まったく関係性が変わらないんだよなあ……。泣いていい?」


 ブリックがそっとガルツにハンカチを差し出していた。


「あら、ガルツ。ものは考えようですよ。つまり私は、ガルツとは何があっても関係を続けていくって言っているわけですし。それじゃご不満ですか?」


 下から見上げるようにしてコテンと首を傾げれば、ガルツは頬を赤くして、うっと言葉を詰まらせる。しかし、それも一瞬。


「――って、騙されねえからな。おためごかしだろ」

「てへっ。子分が成長してくれて嬉しいですよ」


 がっしりと大きな手で頭を掴まれてしまった。


「さて、そんなことより、早くマミアリアさん達を見つけませんと。手を繋ぐドキドキとした瞬間を、ぜひ目の当たりにしたかったんですから」


 頭にあったガルツの手をぺいっとはねのけ、再び大通りへと視線を巡らす。

 そう、こうして三人で久しぶりに会話に花を咲かせるのも良いが、今日の目的はそれではない。マミアリアの恋をドキドキ観察するのもそうだが、彼女の相手がまともな相手かどうか見極めるという目的もあるのだ。

 すると、再びのっしりと頭が重くなる。


「あの人の相手の男って誰なんだ? 使用人って言ったが、どこの家のだ」


 ガルツがスフィアの頭の上に肘を置いて、同じく角から顔を覗かせていた。地味な仕返しである。


「それが彼女も相手の仕える家名を忘れたらしく、私にも分からないんです。だから今日こそ確認しようかと思ったんですが……まだ後ろ姿しか見られてなかったんですよ」


 さすがに相手も使用人服で来ているわけなく、ごくごく当たり前の平民服で、背後だけではさほど特徴はなかった。せいぜい背が高いくらいだ。


「大丈夫だよ。マミアリアさんならすぐに見つかるから――って、ほら、いたよ」

「お、向こうの通りに入っていったな」


 ブリックが指さした方を見ると、確かに目立つ赤髪がするりと角を曲がっていくのが見えた。こうして端から見ると、冴えた赤髪が街中でどれだけ目立つかよく分かる。人混みに紛れても、こうしてマミアリアの頭はすぐに見つかるのだ。


「さて、それじゃあ私達も後を追いかけましょうか」


 目を好奇心に輝かせたスフィアが角から飛び出していく。

 ガルツとブリックは顔を見合わせ、ヤレヤレと肩を竦めつつも、こそこそと先を行くスフィアの後を追った。


 こうして、三人はマミアリアの恋の行方を追ったのだった――ということには、しかし、残念ながらならなかった。

 



「――あなたこそ、俺が探し求めていた運命のつがいだ」


 颯爽と馬車から降りてきた異国の服を纏った青年は、スフィアの手の甲に口づけを落とした。



少しでも面白い、続きが読みたいと思ってくだされば、ブクマや下部から★をつけていただけるととても嬉しいです。

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