◆ブリック
ずっと三人だった。男が二人に女が一人。
よくある話で、その中の二人がくっついちゃったんだよね。
スフィアにはガルツとちゃんと向き合ってなんて言ったけど、まさか付き合うだなんて思ってもみなかったよ。てっきり、真面目に振るかと思ってたのに。
ガルツも相当驚いてたからね。
自分から『これは俺の妄想だし、ちょっと殴ってくれ』って言われた時は、ちょっと涙が出たよね。自分から告白しておいて、振られる気満々だったんだって。
すっかり不幸思考が染みついちゃってかわいそうに。
まあ、思いっきり殴ったけどさ。
幸いなことに、僕にはその気がないから三角関係なんてややこしいものにならずに済んだけど。
僕にとってスフィアは今でこそ友人……というかもう悪友というか、親友みたいなもので。今更恋愛対象としては意識できないんだよね。
でも、最初会った時はびっくりしたよ。
クラスにすごく目立つ赤髪の女の子がいてさ、しかもとびきり可愛いんだし。
多分、あの時、僕もガルツと一緒で一目惚れしてたんだと思う。すぐに砕け散ったけど。
それを思うと、ガルツはすごいよね。
穴に落とされても、生け贄にされても、池に沈められても、それでもスフィアが良いって言うんだから。本当、公爵家令息の神経の太さは尋常じゃないよ。
顔の良さでも補えないくらいの罪状が彼女にはあるってのに。
とは言いつつ、僕にもちょっとは分かるんだ。
スフィアと一緒にいたいって気持ちが。
貴族にしかなれない僕らが、貴族らしからぬ彼女と一緒にいる時だけは自由だったから。いつまでも自由でいたいって願うのは当たり前でしょ。
けれど、その時間もそろそろおしまい。
きっと僕たち三人は別々の道をいく。
そして、それを誰も惜しみはしないだろう。
僕たちが抱くのは寂しさとは別の感情。
離れて寂しいね、なんて言うような関係はとっくに過ぎている。
どうせ、僕たちが貴族である限り必ずまた会うんだし。
僕たちはどこまでいっても、この輝かしくもがんじがらめの世界からは逃げられないんだもの。
だからせめて、そんな世界の中でも好きな人達の傍にいれるように、それぞれの道を行く必要があるんだ。それぞれが足りない役目を補えるような関係になれるように、歩む道は違っても君たちと並ぶためにも。
と、まあ立派なことを述べてみたけど、当然三人の中でボッチになってしまった僕の心境が穏やかなはずもなく。
「――で、二人はいつ別れるの?」
「別れねえよ!?」
「そうですねえ、危険度から言うと恐らく舞踏会あたりでドボンするのでは?」
「別れないって言ってんだろ!?」
「じゃあ、あと半年未満だねぇ」
「だから別れねえってば!!」
とうとう机に突っ伏して、ガルツは「別れないもん」と半べそをかきはじめた。
その姿を見て、僕とスフィアは密かに視線を交わして笑うのまでがお決まり。
彼がこんな格好のつかない姿を見せてくれるようになったことを、実は僕は密かに喜んでいる。
だから、つい揶揄うのをやめられないんだよね。
貴族同士の結婚がそんな簡単じゃないのは知ってる。
特に二人みたいに、それぞれの家が特殊な場合は。
今だからこんな冗談を笑い合えるけど、きっといつか笑えなくなる。
けど、どんな結末が来ようとも、二人には幸せでいてほしいな。
二人とも、僕の大切な親友なんだから。
あと、僕にはどうか悪どいことしない彼女ができますように。




