13・絶体絶命!?
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その部屋は談話室のようだった。
部屋のあちらこちらに、華美な装飾の施された座り心地の良さそうなソファと、真っ白なクロスが掛かる長方形の卓が置かれていた。
壮麗な木目と優美な装飾に飾られているであろう卓は、白いクロスに足元まですっぽりと覆われ、それを観賞する事は出来ない。
隠れる場所を探して、スフィアは部屋の中を一通り歩き回る。
「やっぱり、ここしかないわね。セオリーだけど……」
幾つかあった卓の内の一つに身体を潜り込ませる。
「これだけテーブルがあれば、一発で見つかる事はないでしょ」
鬼が他の卓を調べている間に上手く動き回れば、見つからないかも知れない。
「あら、いつの間にか本気で遊んでたわ」
懐かしい遊びに夢中になっていた自分に気付き、思わず失笑してしまう。
――だって、もう気を張り詰めている必要はなくなったんだもの!
アルティナの思い人を盗ってしまう可能性もなく、また、彼女には友達になっても良いと言われた。
こんなに幸せな事はあるのだろうか。
卓の下で、スフィアは嬉しさに声を押し殺しはにかんだ。
すると、扉の開く微かな音が部屋に落ちた。
慌てて息を詰め、身を固くする。
――アルティナお姉様かしら?
部屋に入ってきた気配は、暫く扉の前で留まっていた。その後、ゆっくりと部屋の中を動き回る。
その足音は部屋にまばらに置かれたソファや卓の間をすり抜けてゆく。
――アルティナお姉様……じゃ、ない?
入ってきた者は、隠れた者を見つけようとする様子がまるで感じられなかった。
足音はゆっくりとスフィアの隠れる卓の前を通る。
スフィアはその目的の分からない足音に、身を縮め息を殺してやり過ごす。
幸い、足音は通り過ぎて行った。
――ふぅ……。セーフね。もしかしたら王宮の見回りの人とかかしら?
しかし、そう安堵に胸を撫で下ろした瞬間、通り過ぎたと思った足音が不意に目の前で鳴り響き、スフィアを守ってくれていた白い幕が巻き上がった。
「――ひっ!?」
目の前に現れたのは、グレイだった。
「ご機嫌麗しく、スフィア嬢」
卓の下を覗き込むようにして首を傾げたグレイは、スフィアを見てにこりと綺麗に笑った。
そして、彼女の意思も聞かず、何故か自分も同じ卓の下に身を潜らせてくる。
「え! あの、グレイ様!?」
――いやあああああ!! 誰か助けてえええええ!
目を白黒させながら、口をアホほど鯉のようにパクパクさせる。混乱の極み。
「しーっ、ですよ。スフィア嬢」
わなないているスフィアの唇に、グレイの人差し指が軽く触れた。
――ひゃああぁぁぁああぁ!!!?
スフィアの肌が鳥の肌になる。フルスタンディングオベーション状態。
きっと普通の令嬢ならば、ここでノックアウトK.O.なのだろうが彼女には逆効果でしかない。
「グ、グレイ様、何か御用でしょうか? でしたら、何もこんな遊びの最中に――」
平静を装いながら、ひきつる顔でグレイへの疑問を口にする。
「だって、こうでもしなければ、貴女と二人きりにはなれなかったでしょう?」
――いえ、ならなくていいです。結構です。辞退させていただく!
グレイの高貴な身分の為、その言葉はスフィアの心の中だけにとどめる。
白い幕に覆われた卓の下。
その空間は幾ら子供だと言っても、二人も入ればそれなりに窮屈になる。
互いの息遣いが聞こえるような、密室と言えるこの状況。
正直、スフィアの頭はどうにかなってしまいそうだった。
桃色の意味で、ではなく。
「貴女と私は婚約者なのですから、互いを知り合わねばというもの」
何を考えているのか分からない、ただただ画に描いたような綺麗なだけの笑みで、グレイはスフィアとの距離を詰める。
――さすが乙女ゲーム。顔がいい。
そんな事を思いながら、スフィアは腰を引いて後退る。
いくら、もうフラグを回避する必要がなくなったからといって、受け入れるとは言っていない。
他の男達なら適当にあしらうのだが、相手が相手だった。王子相手にそんな事も出来ず、かといって「喜んで」と親交を深める事もしたくない。
スフィアは心中で頭を抱えた。
――私は、アルティナお姉様をお側でずっと見ていたいだけなのに……!
「……確かにお父様達がその様な約束をされた様ですが……グレイ様も私のような幼稚な者ではなく、年相応の美しい姫の方がよろしいでしょう?」
スフィアは適当な愛想笑いを浮かべながら、尚も後退る。
「いえ? 私は年など気にしませんから」
――気にしろ! ロリコン!
グレイは言葉と一緒にジリジリと、彼女が離れた分だけ詰める。
――オブラートに包んだとはいえ、こうも私の拒絶意思を無視で来るとは。顔に似合わずメンタルが鋼なのね!
一定の距離を保ったままスフィアは次第に端に追いやられ、とうとうその背に何かがぶつかった。
ハッとして振り向き確認すれば、彼女の背には卓の脚が「これ以上は下がれないよ!」と言っていた。
「――それに、こんなに美しい姫をお相手出来るのなら、身に余る光栄というもの」
まるで家に居る誰かを彷彿とさせる、甘ったるい台詞を事もなげに吐くグレイに、スフィアの顔はひきつりを通り越して痙攣を起こしていた。明日は間違いなく筋肉痛だ。顔面の。
――労災おりるかしら……。
半ば現実逃避を始めるスフィアの脳内。
しかし、そんなスフィアを置いて現実はすすむ。
それ以上退く事の出来なくなったスフィアに、グレイの腕が伸びた。
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