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【書籍化】ごめんあそばせ、殿方様!~100人のイケメンとのフラグはすべて折らせていただきます~  作者: 巻村 螢
第三章 もしかして恋愛ルート突入ですか!?

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32.来ましたセヴィオ!

 目立つ貴族服は脱ぎ捨て、髪は全て可愛く巻いたターバンの中に押し込んだ。これで、今この場所で『赤髪』なのは彼女一人――そう、噂の赤髪の美女のみ。


「やってきました、セヴィオ!」


 スフィアは馬車から降りると、猫のように気持ち良さそうに身体を伸ばした。


「思ったより栄えた場所だな。西側ってあんまり行く用事もないし、俺も詳しくねえんだよな」

「僕も僕も。王都が北東よりだからそっちばっか賑やかになりやすいし、どこかに行くってなるとやっぱり東に固まるもんね。それに西のイメージは田園地帯って感じだったんだけど……案外普通に賑やかだね」


 続いてそれぞれの家の馬車から下りたガルツとブリックも、長らくの馬車詰めから解放され、腕や首を回している。

 二人ともスフィアが指定したとおり、派手な貴族服ではなくちょっと身なりの良いお坊ちゃん風の格好に抑えてくれていた。


「セヴィオって綺麗な街だったんですね」


 二人の言った通り、セヴィオは予想に反して中々大きな街だった。オレンジや青などの瓦屋根が美しく、通りも窓辺に花々が飾られ、明るく活気のある雰囲気だ。

 もう少し草木繁る農村風景を思い描いていたのだが。港のないパンサス、もしくは貴族の少ないこぢんまりした王都という様子である。


「つか、お前はよく兄貴が許したよな。男と遠出するのをよ。前回の別荘合宿みたいに、着いてくるかと思ってたわ」

「実はこっそり付けてきてたりする?」


 ガルツはぶるっと身を震わせた。『駄馬』と言われた時の、ジークハルトの冷ややかな目を思い出したのだろう。

 しかし今回は、ガルツに地獄のタップダンスを踊らせる心配はない。


「兄様は来てませんよ。今回は別の方に私が保護者を頼みましたから」


 というより、セヴィオへ行くと行ったときの彼の反応から考えると、彼は付いてこないだろう事は分かっていた。




 夕食の席で、スフィアが『冬休みに入ったらセヴィオにガルツとブリックと行きたい』と伝えれば、案の定両親は『まあまあ』と驚きながらも、二つ返事で了承してくれた。


『スフィアももう十四だし、来年には貴上院生だものなあ』

『可愛い子には旅をさせよって言うし、お友達も昔からのそのお二人なら安心だわ』


 あまりにのほほんとした返答で、思わずスフィアの方が、本当に行って良いのかと念押しに尋ねてしまった。


『御者がいれば大丈夫だろう、うちは』

『ええ、そうね。うちの御者はしっかり者ですしね』


 スフィアはいつも学院に送迎してくれている御者を思い出した。

 筋骨隆々というわけでもスナイパーというわけでもなく、どこにでもいそうな壮年の男だ。全幅の信頼を寄せるほどの安心感は、今のところ彼には見受けられない。少なくともスフィアには。


 ――一応大人の男の人だから、って事なのかしらね。もしくは密かに格闘術が得意とか。


 しかし、スフィアにとって、なるべく同行人数は少ない方がありがたい。噂を潰しに行くのだから、下手したら家人には見せられない手段を使うかもしれない。


『……それで、ジークハルト兄様はどう思います? きっと一週間くらい家を空けることになるんですが。あっ、一応保護者といいますか、向こうで面倒見ていただける大人の女性もいますし、身元の保証もありますが……』


 最大の難関は彼だ。

 恐る恐る、スフィアはジークハルトに視線を向けた。

 パンサスの時は日帰りで行ける距離だった為、密かに行動できたのだが、さすがに一週間の留守は捜索願を出されかねない。

 しかし、予想外にジークハルトは『楽しんでおいでね』とあっさりと了承したのだ。


『スフィアはしっかりしてるし、向こうでの面倒を見てくれる人を自分で手配できているのなら、良いんじゃないかな。それで……セヴィオだっけ?』


 思わず、唾を嚥下する喉が絞られた。


『セ、セヴィオですが、な、何か?』


 声は裏返ったが、目を逸らさなかった事は褒めてほしい。

 ジークハルトは、『ふぅん』とフォークを持った手で顎杖をつき目を細めた。


『いや……しっかりとやっておいで』


 何を。


 ――いえ、その『何を』をでしょうね。


 やはり、今回も彼には自分のする事などお見通しなのだろう。

 噂の事も、スフィアがセヴィオに遊びに行く理由も。


「――という事がありましたので、今回の件は自力でどうにかする方向です!」





 スフィアの話を聞き終えたガルツとブリックは、「怖いよ~怖いよ~」と、二人して肩を抱き合っていた。


「はいはい、お二人の仲の良さは分かりましたからさっさと行きますよ」


 手を叩いて、スフィアは先頭を歩き始める。

 それぞれの家の御者や執事に少しばかりの休暇を与え、スフィア達は街の中へと溶け込んだ。


「つか、行くって目的地はあんのか?」

「それより、噂を消しに来たのは分かるけど、どうやって消すか方法はあるの?」


 迷いを見せることなく、どんどんと進んでいくスフィアの後ろを、二人は訝しげにしながらも付き従う。


「もちろん、噂は潰します。けれど、何事もまずは正しい情報ですよね。噂に踊らされるのは最も目標達成から遠ざかる事ですから」

「わかる。情報は大事だよ」とブリックがしみじみとした声で呟いていた。

「そして目的地は、その目標達成のお手伝いをしていただける方のところですよ」


 スフィアは肩越しに、ひらりと一枚の紙を振った。



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