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【書籍化】ごめんあそばせ、殿方様!~100人のイケメンとのフラグはすべて折らせていただきます~  作者: 巻村 螢
第三章 もしかして恋愛ルート突入ですか!?

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18.次なるイベント

 創立休も開け、一週間ぶりの学院だ。

 本当なら「久しぶり!」と一週間の空白を惜しみ合うのだが、なにぶん数日前まで顔を合わせていた為、まったく新鮮味はない。


「何か、あっという間の創立休だったよな」

「休暇ってより、バタバタしてた感は否めないよね」

「まあ、そのバタバタの原因がいつも通り、今ソファで呑気にクッキー食ってるアイツなんだがな」


 疲れたように会長机でぐでっと上体を寝かせたガルツが、湿った目で応接ソファを見遣る。合わせてブリックも視線を移す。

 二人の視線の先では、アイツことスフィアが、リシュリーとクッキーを仲良く頬張っている真っ最中だった。

 二人の視線に気付いたスフィアは「ん?」と、無邪気に首を傾げる。


「そうですか? 私はとても良い創立休だったと思うんですが。リシュリーとも夜に沢山お話しできましたし、カドーレとも一緒に海を眺めましたから。より親睦が深まって満足でしたよ」

「は!? お前カドーレとそんな事してたのか! おい、カドーレ!!」

「やめてください。痴話喧嘩に巻き込まないでください」


 机に向かっていたカドーレは顔を上げると、淡泊な顔で迷惑だと訴える。


「ていうか、ガルツが一人バタバタしてただけでしょ」


 リシュリーに暗に決闘の事を言われたガルツは、うっと声を詰まらせる。

 確かに、今回の合宿で最初から最後まで騒がしかったのはガルツくらいだ。


「そ、それはそうかもしれねえけど……いや、やっぱり全ての元凶はスフィアだろ! つーか、レイランドのせいだわ!」


 レイランドにスフィアと誰が含まれるか察した面々は、宙に視線を飛ばすと「あぁ」と引きつった笑いを漏らしていた。


「……強烈だったわね、スフィアのお兄さん」

「僕、『血を分けた兄弟』って言葉は、レイランド家の為にあるんだなって思ったもん」

「殿下達への対応は凄かったですね。グレイ殿下へは特に」


 あれが日常茶飯事のスフィアにとっては苦笑することなどまるでないのだが、やはり端から見るとジークハルトの態度は異常に映るのだろう。


 ――まあ、幼馴染みだし、必然的にああいう関係になるのかしらね。


 先輩後輩というか。しごき役としごかれ役というか。

 皆がおののきに動きを止める中、スフィアは我関せずとクッキーに手を伸ばす。口の中でサクサクとほどけていく食感が実に美味である。

 リシュリーにどこのクッキーか聞けば、フィオーナからレシピを教えてもらったらしい。

 そう言えば以前、リシュリーとフィオーナは、互いの料理人が作ったマカロンとマドレーヌを殊更に気に入っていた。まさか本当にレシピの交換まで行われているとは思わなかったが。

 二人は交換視察からも個人的に交流が続いているようだ。


「あ、そうそう。フィオーナがスフィアにも会いたがってたわよ。今度三人でお茶しましょうよ」

「まあ、それ良いですね」


 すっかりリシュリーとの会話に花を咲かせるスフィア。しかし、蚊帳の外には置かせないとばかりに、ガルツの咎める視線が再びスフィアに向けられる。


「いや、しれっとクッキー食ってるけど、強烈なのはお前もだからな」

「どこでもスフィアは精神破壊に勤しむよね。どうか子爵には気を強く持ってほしいものだよ」


 今度は子爵に思いを馳せ、皆の表情が同情的なものへと変わる。


「まさか、剣を折った一発がスフィアの兄貴のだったとはな……」


 実は、ウェリスの剣を折ったのがジークハルトによる狙撃だと皆にバレてしまった。故意に隠していたわけではないが、知らない方が幸せなこともあるだろう。

 訓練場から屋敷に戻った皆が、何とはなしに談話室に集まっていた時、階上から下りてきたのであろうジークハルトが、談話室の前を通り過ぎたのだ。


『風の噂で、僕の妹がどこかの馬の骨と付き合いだしたと聞いたんだけど……どこの駄馬だろうね?』と、肩に担いだ銃を見せつけるようにして。


 皆、察した。

 ガルツは顔を青くしていた。

 強制的にタップダンスを踊らされ、しかも今後も立ち向かわなければならない相手だと知って絶望したのだろう。


「良かったね、子爵が真面目な人で。じゃなきゃ、ズルだって騒がれててもおかしくなかったよ」

「そんな事言わせませんよ。だって戦いですから、自分の持ち得るものは全て武器で(使いま)す」


 ガルツとブリックの口が引きつる。


「なるほど、俺らに人権がないわけだ。あいつ俺らのことを装備品として見てやがる」

「捨て駒じゃないだけありがたいって思うべきなのかな……まあ、ガルツは同じ装備品のお兄さんに勝てるよう頑張らないとね。じゃないとスフィアは手に入らないよ」

「あれだけ格が違うんだよな……」

「神の加護付き長距離発砲可能聖剣ってところかな」

「この世のものじゃねえな」


 がっくりと項垂れたガルツに、ブリックがドンマイと肩を叩いていた。

 だから知らない方が幸せだったというのに。

 すると、会話の区切りを察したカドーレが手を叩いて注目を促す。


「すみません、連絡事項です」


 カドーレは書類を手にガルツの会長机へと向かう。スフィアとリシュリーも顔を見合わせると、クッキーに伸ばしていた手を止め、同じようにガルツの元へと集まる。


「明日、クラスでも周知されると思いますが、書類が出来たので一足先にどうぞ」


 会長机に置かれた書類。


「僕達貴幼院六年生の為のイベントですよ」


 そこには『貴上院見学会』との見出しがついていた。


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