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 マルコ少年の事件簿

 書籍化報告記念の番外編です。

 時間軸としましては、第4部、ハーランドに戻ってから少し経ったくらいです。

 本編では使わない表現があります。

 また、人物イメージを損なう場合がありますので、ご注意ください(笑)


 ……初めての方のための登場人物紹介……


 オヴェリア……本編主人公。白薔薇の剣を持つ事になってしまったお姫様。

 カーキッド……元傭兵隊長。オヴェリアと共に竜退治の旅に出た。

 デュラン……神父。魔術に秀でている。色々あって、師の仇を追いかけて旅をしている最中に、オヴェリアと行動を共にする事に。

 マルコ……水の魔術は物凄い、大人しい少年。


 フェリーナ……オヴェリアの侍女。姉妹みたいなもの。

 グレン……オヴェリアの剣を仕込んだ張本人。武大臣

 コーリウス……文大臣。大臣ではリーダー的な存在。


  ◇


 恐ろしい絶叫で、マルコは目覚めた。

 悪夢は見慣れている。今日もいつものそんなような物かと思い直し、もう一度眠ろうとしたら。

 部屋の外が随分と騒がしい。何人もの走る音がする。

 胸騒ぎがして、少年は布団から這い出した。そしてそっと扉を開けて外を盗み見ると。

「カーキッドッ!!」

「しっかりしろッ!!」

 ……カーキッド?

 廊下に誰かが倒れてる……見覚えのある手足が人垣の間に見えて。

 マルコは唖然としながら、廊下に出た。

 そこに、人が倒れていた。

 ――カーキッド・J・ソウル。

 マルコもよく知る最強クラスの剣士が。今廊下に、大の字に横たわっていた。


  ◇


「一体何が起こったのだッ!」

 武大臣グレン・スコールは居並ぶ兵士たちに向かって叫んだ。

「これはどういう事だ」

 問われても、誰にもわからない。

 ただわかっている事は、廊下に頭から血を流したカーキッドが倒れている。そして彼はゆすっても叩いてもピクリとも動かない事。

「死んでいるのですか?」

 怖々尋ねたのはデュランだった。

「おい、カーキッド、起きろ」

 乱暴に揺さぶるデュランを、茫然とマルコは見つめていた。

 そんな彼の隣で、ヘタリと膝から崩れた者がいた。オヴェリアだ。

「カーキッド…………」

 マルコは慌ててオヴェリアの傍に寄った。

 ――ゴルディアからハーランドに戻ってきたのは数日前。色々あった。父王の事で憔悴し切っていたオヴェリアも、ようやく気持ちを取り戻そうとしているのに。

 そんな今、こんな事が起きるなど。

「カーキッド……なぜ、なぜ……」

「死因は頭部の打撃か……この男を殴り殺すなど、相当の猛者と見た」

 グレンが膝をついて、カーキッドの頭を検証している。

「恐るべし。的確な一撃だ。誰か、不審な者を見た者はおらぬか」

 ――ハーランド王が殺されてから、城内の警備も厳重になっている。特に要人が行き来する場所の警備は24時間体制だ。

「申し訳ありません、ほんの少し持ち場を離れた瞬間に」

 兵士の一人が、震える声で報告する。

「何をやっているのだ!!」

 その兵士をグレンは恫喝した。

「しかし一体何者の仕業か……やはりバジリスタの刺客でしょうか?」

 デュランが唸る。

「だが今までと戦法が違う。バジリスタか……もしくは、こやつに個人的な恨みを抱く者の犯行か。誰か心当たりはないか?」

 尋ねられたデュランは一瞬固まり。

「申し訳ありません。ありすぎて、思い至りません」

 そこにはマルコも同意した。

 これまで共に旅をしてきたが、カーキッドの嫌われっぷりは半端なかった。

 嫌われ……いや、恐れられっぷりと言った方がいいだろう。

 宿屋の主人に始まり、道端の年寄も。彼が歩くと自然と道ができる。

 原因はその目つきだろうとマルコは思った。

 とにかく目つきが悪いのだ。極悪なのだ。何でそんな目つき何だろうかとよく思った。普通にしてても睨みつけているように見える。これは、生まれつきなのかと。赤ん坊の頃からこんなだったのかと。

 やはり異国で……何と呼ばれていたんだっけ? とマルコは首を傾げた。死神だったか、生霊だったか、招き猫だったか……そんな感じの呼び名。そう呼ばれていただけはある。

「ううむ、怨恨の線も濃厚か」

 グレンは唸った。

「む、そうだ。カメラに何か映っているかもしれん」

 ハーランド王が殺された後、警備の更なる警備の厳重化を図るために、グレンはホームセンターで監視カメラをゴッソリと買い占めてきた。

 脚立を小脇に抱え、城内のあちこちに彼がセットしている様は兵士の誰もが見ている。

「誰か、機械室へ!! モニター画面のチェックを!!」

 腕を振りグレンは指示を出した。

 チェック用機材は、現在すべて、文大臣コーリウスの部屋に置かれている。ある日突然「これで安心ですぞ!!」と言って部屋に現れたグレンにより、現在コーリウスの執務室の半分は先進の最新機器で占拠されてしまった。

「も、モニターとは……」

「申し訳ありません、まだチェックの方法が……」

 兵士たちは行あぐねた。チェック用のPCの操作方法の研修が始まったのは一昨日からである。

「む、使えんやつらだ」

 そう吐き捨て、グレンはその場を去って行った。その手には最近出たばかりの最新のスマホが握りしめられていた。

「あの方は一体……」

 残った全員が、唖然と武大臣を見送った。剣の鍛錬をしている以外の時間、彼がどこで何をしているかは謎に包まれている。

「しかし一体誰が」

 デュランが腕を組んだ。

「姫様、お嘆きめされるな」

 そして彼はそっと泣き崩れたオヴェリアの頭を抱いた。

 その姿を見てふとマルコの脳裏に、妙な推理が浮かんだ。

 怨恨……カーキッドに恨みがある者の犯行として。

 デュラン・フランシス。彼もその容疑者になるのではないか?

 常日頃2人の仲はそれほどいいとは言えない。「エロ」と「馬鹿者」とけなし合って1日を過ごす事もあった。

 まして、デュランにはカーキッドがいなくなったら徳になる事がある。むろんそれは、オヴェリアだ。

「大丈夫です。オヴェリア様には、私がついているではありませんか」

 完全に体ごと抱きしめた。泣いているオヴェリアは拒絶しない。それをいい事に、頬をスリスリ寄せている。

 危険だ、とマルコの体内レーダーが反応をした。案の定、デュランの右手の動きがおかしい。オヴェリアのお尻をさわさわしようと画策している。

 張り倒さなければ。カーキッドからいつも言われている……彼が亡くなった今、それは遺言に等しい。

 ――カーキッドがいなくなれば、オヴェリア様に好き放題できる。

 ならば、やはり、デュランが怪しくないか?

「デュラン様ッ」

 痴漢を現行犯で逮捕しようと、マルコがドキドキしながら一歩踏み出したその瞬間。

「この不埒者――――ッッ!!!!!」

 強烈な鉄拳をデュランに下したものがいた。

「離れろ、不届き者ッ!!」

 オヴェリアの側近たる侍女、フェリーナだった。

「畏れ多くもハーランド国唯一無二の姫君にあらせられるオヴェリア様にッ!! 貴様、気安く触れてよいと思っておるのかッ!!!」

 握りしめた腕に炎が宿っているのが見えた。

「す、すみません」

 デュランすら尻ごみする。確かこの人は、悪魔と取引したとか言ってたなとマルコはぼんやり思い出す。

「オヴェリア様、お部屋に戻りましょう。食べかけのパンケーキ、トッピングしたアイスが溶けてしまいますよ」

 オヴェリアが初めて顔を上げた。カーキッドとパンケーキ、少しパンケーキに心惹かれたようだった。

 改めてマルコはカーキッドを見た。

 普段、あれだけ自分は強い強いと豪語しているのに……剣に命を懸けてるんだ的にふんぞり返っているのに……これほど簡単にあっけなく、そして無様に倒れているなんて。

 ツンツンと触ってみたが、やはり反応はなかった。死んでいるのだ、当然かもしれない。

 カーキッドが死んだ、死んでいる。しかしマルコは驚きこそ大きいが涙が出ない自分に気づいた。

 自分は薄情なんだろうか?

 それとも、人は本当に悲しい時には泣けないという、アレなんだろうか?

「カーキッドさん……」

 カーキッドとの思い出が蘇る。「馬鹿ガキ」と言ってどつかれた事、「ノロノロすんな」と蹴飛ばされた事、「何でお前ばっかりオヴェリアと一緒に風呂に入れるんだ」と言って死ぬほど睨みつけられた事。……いい思い出が浮かんでこなかった。

 でも本当は優しくて穏やかな人……だったかもしれない、よくわからないけれども。

「とにかく遺体を動かそう」

「いや、鑑識がまだ来てない。現場は保存しておかなければ」

「米沢はまだかッ!!」

 兵士の間で怒号が飛ぶ。

 改めて犯人に関してマルコは考える。

 カーキッドに恨みを持っている人物……そういえば彼は、薔薇の御前試合に出て決勝まで上り詰めてる。並み居る兵士・騎士を根こそぎ倒している。

 準決勝で戦ったのは女性人気も高い騎士だったと誰かに聞いた。その騎士のファンである女性たちの襲撃を受けたのかもしれない。

 それとも、その時倒された者が今になって復讐に現れたとか?

 そしてカーキッドは準優勝者の栄誉として? オヴェリアと旅を共にしてきた。オヴェリアのファンたちの仕業という可能性も高い。

 敵が多すぎる。改めてマルコは唸った。

「どうした、マルコ?」

 背中に声を掛けられ、少年はビクリと振り返った。デュランが不思議そうに見ていた。

「いえ、大丈夫です。……でもやっぱり、カーキッドさんに恨みを持つ人の犯行なんでしょうか?」

「否定できん……むしろ確率としては高いかもしれんな。ハーランドの警戒態勢は目を見張るほどだ。この中で、誰一人兵士に見つからずにこの男をぶちのめす事ができるなど。外部からの侵入者では容易にできぬ。ここはしかも城の深層部だ。出入りできるのも限られた人物……ゆえに、カーキッドに恨みを持ち、かつここに出入りできるような者。それは必然、顔見知りの犯行となろう」

「第一発見者は?」

「あの兵士たちだ。それから私、グレン殿、姫様、マルコ……」

 犯人は現場に戻るというのは通説である。

「デュラン様は違うのですね?」

 はったりを駆けてみる。するとデュランは笑って「馬鹿を言うな」と言ったが。

 一瞬彼が見せた奇妙な表情が、マルコの心に残った。

「恨み、と言えば兵士はもちろん、グレン殿とて論外ではないぞ?」

「え? グレン様?」

 うむ、とデュランは頷いた。

「グレン殿にとってオヴェリア様は目に入れても痛くないほどかわいがっている愛弟子。それをだ、旅の中一つの部屋で一晩も二晩も明かし……風呂も覗き放題、着替えも覗き放題の状況。私がグレン殿の立場なら、気が狂う。何度殺しても足りぬ」

「そ、そうですか」

 やはり犯人は実はデュランなのではないかと思った。

「そういう点では、フェリーナ殿も同じであろうな。あの侍女はオヴェリア様を溺愛している」

「しかし、あの方は女性ですよ?」

「……おぬし、先ほどの彼女を見ておらなんだか?」

 確かに、たった今フェリーナにぶん殴られたデュランの頬にはすでに青あざができている。

「彼女なら、鬼神であろうが倒すであろう。オヴェリア様のためならば」

「……」

 マルコは腕組みをして考え込んでしまった。




 間もなく、機械室(コーリウスの執務室)からグレンが戻ってきた。

 モニター映像を確認したという彼は、一言結論として、「わからなかった」と呟いた。

 怪しい影はあった。ただそれは、カメラの死角になっていた。

 映っていたのは、カーキッドが何者かに声を掛けた瞬間と。

 見事に宙を舞ってひっくり返った、その瞬間だけだったらしい。

「だがやはり画期的だ。カーキッドがひっくり返る瞬間ははっきりと鮮明に映っていた。これをぜひ今度の議会に提出しようと思う」

 彼の後ろからトボトボとついてきたコーリウスが、邪魔だからあの機械何とかしてくれと懇願していたが。グレンは完全に無視していた。



  ◇



 一時散会になり、マルコは部屋に戻った。

 寝台に座り込み、腕組みして考える。

 材料は揃った気がする。

 カーキッド殺人事件、犯人は一体誰なのか。

 死因は頭部への強打。相当の鉄槌。あのカーキッドを凌ぐほどの者の犯行だ。

 外部犯は考えにくい。厳重なセキュリティ、監視は兵士と最新機器にまで及んでいる。

 やはり怨恨の線か? カーキッドを恨む人物は山ほどいる。もし全員が同時に殴り掛かったなら、もっとタコ殴りの痕がついているだろう。

 単独犯で、完全に一つの拳骨ゲンコツによって成された犯行。

 死の直前、カーキッドは誰かと話していた。

 顔見知りの犯行。

 ――だとすれば。

「……みんなを集めなければ」

 マルコは独り言を呟いた。

「犯人が、わかった――――!!!」



  ◇



「何事だマルコ。今、ちょっと休もうと言って散会した所ではないか」

 デュランがブツブツ言う。それに対してマルコは「すいません」と頭を下げた。

「集まってもらったのは理由があります。犯人がわかりました」

「――」

 その場が一瞬、凍り付く。

「な、何を言っているんだマルコ」

 なぜかデュランの声がどもっている。

「犯人がわかった、とは?」

「この事件は、最初からおかしかった」

 マルコは鼻の頭を撫ぜながら視線を落とした。

「僕が事件に気づいたのは声です。そう……皆さん、聞いたはずです。恐ろしい叫び声を!」

 そう、あの絶叫。

 あれはカーキッドの物だったのか。

 だが死ぬほどの打撃を頭に受けて、叫んでられるほどの余裕があるのか? 結構な音量だった。

「みなさんも経験があるはず……本当に痛い時、人は一瞬叫ぶのも忘れる事を!!」

 机の角で足の小指をぶつけた時、夜中、少し開いていたトイレの扉におでこを激突させた時。

 そこにあるのは、ピンと張りつめた沈黙。

 叫べるのは、一瞬間をあけた後。命があるからだ。

「カーキッドさんには、叫ぶ余裕があった。つまり、」

「つまり?」

「カーキッドさんは、一撃でのされてはいない」

「――」

「鑑識さん、カーキッドさんの足の指を調べてください。恐らく打撲の痕があるはず」

 生憎まだ鑑識は到着していない。仕方なくグレンが代わってカーキッドの足に顔を寄せた。

 途端、今度はグレンが叫び声を上げた。鼻をつまんだまま倒れ込み、彼はそのまま動かなくなった。

「毒ガスだッ!!!」

 マルコの叫びに全員が驚き、その場を逃げ出した。

「……」

 だが、たった一人、逃げなかった人物がいた。

 その人物に対して、彼と共に逃げなかったマルコが……フッと笑って、そして指を突きつけた。

「あなたが犯人だったんですね?」

 そこにいたのは。

 腰を抜かし、動けなくなった、文大臣コーリウス・ロンバルトであった。





「何もかも、今回の事件はおかしかった」

 マルコの言葉を、コーリウスは「あわわ」と言いながら聞いている。

「こ、腰がっ……すまぬ、驚いて、立てぬ……」

「今回の犯行、あなた以外に考えられないんですよ、コーリウスさん」

「ど、毒ガス……」

 ――問い詰めながらも。

 マルコは冷や汗が出る思いだった。

 なぜ、コーリウスはここで腰を抜かしているんだろう……。

「あなた以外に考えられません!」

 と、もう一度叫んでみたが。

 この人の動機は、まったくわからなかった。

「さぁ、白状してください!」

 とても武芸が達者なようには見えなかった。こんな人物が、カーキッドを叩きのめせるのか?

「あなたは、弟の仇であるカーキッドさんが許せなかった。そうでしょう!?」

 弟さんであるエンドリアの領主を殺したのは、カーキッドではなかったが。

 もう面倒だったので、そういう既成事実を作ってしまおうとマルコは思った。

「あなたの弟、ブルーム・ロンバルトを殺したのはこのカーキッドだっ!!!」

 マルコのその発言に、コーリウスは目を見開いた。

「そ、そうなのか!?」

「そうです。彼はカーキッドによって殺されたのです」

 コーリウスの目に、怒りの色が灯り始める。

「てっきり、バジリスタの末弟にやられたと思い込んでいたが……そう報告を受けたが……」

「違います。すべての真実は捻じ曲げられている。エンドリアを滅ぼしたのもカーキッド」

 もうこうなったら、コーリウスを何としてでも犯人にしようとマルコは思った。

「カーキッド・J・ソウル、異国で彼は死神と呼ばれていたそうです」

「鬼神じゃなかったか?」

「いいえ。彼の行く先々で死がまとわりつく、死神です」

「そ、そうか……」

「すべての元凶。カーキッドはエンドリアを滅ぼし、あまつさえこの国を滅ぼさんとしているんです」

 いい感じだ、とマルコは思った。

「ご覧ください、証拠に、カーキッドは足に毒を仕込んでいる。グレン様もやられた」

「惜しい人を亡くした……」

 コーリウスはヨヨヨと泣きながら手を合わせた。マルコもそれにならった。

「さあ、カーキッドを倒しましょう」

「もう死んでいるのではないのか?」

「いいえ! あなたの手でっ!! 今すぐっ!!!」

 元気よくそう言って、マルコはカーキッドの剣を引き抜いてコーリウスに渡そうとした。

「これでとどめをっ!!」

 ――しかし。

 その手を、ギュッと握る手があった。

 あれ? とマルコはその手を凝視した。

 でかい手だ。

 ごつい手だ。

 全然柔らかさのかけらもない。

 剣ダコも、もういっそ石になってしまっている。

「……」

「……誰を、殺せって?」

「…………」

「……誰が、毒ガスだって?」

「………………」

「誰が、極悪非道な目つきをしてるって?」

「そ、それは、口に出して言ってないです」

 ――カーキッドとの思い出リストに、新しい1枚が加わった。

 暗殺しようとしたら、タコ殴りにされた。

 ……マルコ少年の脳に、確かにそれは鮮明にインプットされた。



 ◇



「死んでないっ……!」

 起き上がって動いているカーキッドの姿に、誰もが戦慄を覚えた。

「待てカーキッド。今安らかに道を示してやるゆえに」

「死んでねぇ」

 神父が出てきたが、邪見に追い払った。

「くそ、いててて」

 そして男は頭を押さえて呻き、

 最終的に、一人の人物を凶悪に睨みつけた。

「オヴェリアッ!!!!!! てめぇ、よくもやったな!!!!」

 え、と一斉に視線がそちらを向く。

「え、あ、何?」

 当のオヴェリアはしどろもどろにオロオロと所在を失ってしまう。

「無礼者!! 何を申すか!!」

 フェリーナが彼女の前に盾となり腕を広げたが。

「引っ込んでろ、ドブス!!」

「なっ、なっ、なっ」

 フェリーナも絶句して固まってしまう。

「俺はな、何も、全部くれって言ってないぞ? 一口だけくれって言っただけなのに」

「え」

「さっきお前、これ見よがしにパンケーキ持ってスキップしてたじゃねぇか」

 ――要約すると。

 フェリーナが作ってくれたパンケーキが大好物なオヴェリア姫は、喜びの余り、皿を持ってそこらへんにいる兵士に自慢して回っていたそうな。

 そこにたまたま通りがかったカーキッドが、「一口くれ」とつまもうとしたところ、

「だめです」

 ぶん殴られたと。

「……」

「……」

「……」

 微妙な視線が、オヴェリアに集まる。オヴェリアは真っ赤になってうつむいてしまった。

「だ、だって……汚い手でつまもうとするから……」

「チ、ちゃんと手くらい洗ってら」

「だって、だって……」

「……待ってください、じゃあ、あの雄叫びは?」

「あん? ……あ、そういやお前、俺が指出した時に叫んでたな」

「………………」

 ――しかし全員が。

 顔真っ赤にして、今にも泣きだしそうになっているオヴェリアを前にして。

 鼻をほじっているカーキッドの頭をどついて。

 本当に殺したいと思ったのは、間違いのない、事実だった。



  ◇



 事件は解決した。

 マルコはため息を吐いた。

 世に溢れるすべての事柄、その真実を明るみに出す事が正しいとは限らない――今回改めて彼はそう胸に刻んだ。

 世の中は残酷であり、優しい。

 そして常に光は瞬き、同時に闇も溢れ出る。

 その中で、真実はいつも、たった1つ。問題はどう明るみに出るかだけだ。

「……それにしても」

 一同唖然とする中、一人平然と煙草を吹かそうとしていたカーキッドは、足元に横たわるグレンを見ながらポツリと言った。

「このおっさんは、何で死んでんだ?」

 全員がハッとする。

 マルコはフッと笑みを漏らした。

 カーキッドは何もわかってない。マルコは一度咳払いをしてから、その男の鼻先に指を突きつけた。

 ――同時に、その場にいた全員も同じように指をカーキッドに向けて。

 全員同時に叫んだ。




「犯人は、お前だ!!!!」





 ―― 了




<初掲載 2015.9.1>

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