第七十六話
「やだ可愛い」
そう頬に手を添えて思わず本音がもれてしまう程の可愛さだった。
「なっ貴様不敬だぞ!」
そう重臣の一人が騒ぎ立てる。
「確かに皇帝は可愛い! 俺なんか寝る前にいつも皇帝を想ってる程だ!」
「おい。お前怒りながら本音がだだもれしてるぞ」
皇帝は笑う。
「ふっ。はっきりした物言い気に入ったぞ魔法使い」
彼は叫ぶ。
「よし! お前らもう退出しろ。俺はこの魔法使いと話がしたい」
その言葉に重臣達がどよめく。
「おっ御言葉ながら護衛する上での観点からもそれはし、承知しかねます」
皇帝は眉をひそめる。
「このヴァルディングスより強い護衛が人間にいるとは思えんがな?」
そう後ろの壁みたいな竜に眼をやる。
臣下は背中に氷を入れられたみたいな表情をした。がくがくと震えている。
「……たっ確かに。それは……」
「安心しろ。竜は人の心が読める。もしこの魔法使いが妙な気を起こしたら魔法を使う前にヴァルディングスの鼻息で死ぬよ」
私は竜の鼻息で死ぬほど弱い存在なんだ。
そう考えると自分の命なんてホント大したことないと思う。
それ以前にこの首に下げられた妙な石のせいで魔法なんか使う集中力になれないんだけど。
「そ、そ、そういう事なら」
よ、よしお前ら皇帝は退出をお望みだ! そう白い髭の重臣が他の臣下に号令をかける。彼の言葉に従い重臣たちはひそひそと話しながら一人ずつ階段を降りていく。
「俺は離れないぜ。なにせ俺はお前の軍師なんだからな」
そう先程小太りの男に報告した若い重臣が言った。
「ああ。お前は俺の傍にいて良い。むしろ俺から絶対に離れるな」
皇帝が当たり前みたいに呟くと彼は私に向き直った。
「さて。魔法使い。お前の話を聞こうか?」
そう巨大な竜と若い軍師をひきつれた皇帝が私に訪ねた。




