第百四十一話
「いやいや今度こそ戦況は俺達優位に働いてるでしょ」
クルスさんが慌てた様に言う。
「帝都を背後からつく戦力を別に用意できるぐらい。なあー。ジャン頑張ったもんなー?」
そうクルスさんは彼の肩に腕を回す。
ジャンは凄い嫌そうな顔をしてる。
「……帝国はまだ竜を使ってない」
そうゴーディさんは手に顎をのせながら静かに言う。
クルスさんは唾を飲んだ。
「使えない理由があるのかもしれないが、もし戦線に投入されたら一気に状況をひっくり返されるおそれがある」
クルスさんは暫く黙ってたが場に満ちた恐怖を打ち消す様に明るい声を出す。
「またまたあ。竜といっても同じ動物ですよ。心臓一つ身一つ。弓矢ぱんぱん撃ってたら勝てますって。……みんな伝説を怖れてるだけだ。どれほど強いかわからない生き物を勝手に怖れるなんて愚の骨頂ですよ」
ゴーディさんは表情をくずさない。
「『そのどれほど強いかわからない』ってのが一番怖いんだ」
彼はつづける。
「少なくとも教会は竜の戦闘力を軽視していない。だから泣く泣く黒騎士を戦場に出すんだ。そうでなければ自らの命を第一に考える彼らがそんな選択をするわけが無い」
彼はテーブルを指で叩く。
「彼らは黒騎士か『雷神』で竜を叩きたいと考えている。どんなに戦況が優位でも詰みをしくじればまた同じ争いの繰返しだ。そうなってしまえば平和はいつまでたっても手に出来ない」
クルスさんは深く頷く。
それから悩んだ様に赤い髪を掻く。
「でも一人だけなんでしょ? だったらゴーディさんが良いなあ。なんでしたっけあの銀髪の戦闘狂みたいな人。俺あの人苦手なんだよなー。いかにも剣豪みたいな人とか。ゴーディさん以外人間やめた感じの人ばっかりなんですもん」
まあ黒騎士ってのは元来そんなもんだとゴーディさんは彼と話す。
そんな言葉を聞きながらヴァルディングスを思い出す。
皇帝……。決して戦いを望んでなかった彼ら。
そんな彼らと私は戦えるんだろうか?




