第百三十五話
すえた臭いのこもる地下牢の階段を降りる。
ひどい匂いだな。
ローブで鼻をおさえながら歩く。
ルシエさんこんな所にいるんだ可哀想に。
他に囚人とかいるのかな?
水滴が落ちる音が聞える。
独房は四つだけだった。
おかげでルシエさんはすぐみつかった。
「ルシエさん!」
そう私は鉄格子を握り顔を近づける。
彼女は汚れたベッドに腰掛け狭い窓を眺めていた。
ルシエさんは私の声に振り返る。
「助けに来ましたよ」
そう言って錠前を革靴で蹴る。
駄目だ。当たり前か。
でもこれならどうだ。
掌で炎を出す。前髪が揺れた。
赤く煌めいた光が暗かった独房を照らす。
「その齢でそんな炎が出せるの? 信じられない魔力ね……」
彼女は手で口を抑え驚いた顔をする。
「そんなに凄い魔法使いだったの?」
そうだ彼女は魔法式のこと知らないんだった。
きっと一八歳にして最高に近い魔力の持ち主だって思ってるかも。
こんなに凄かったらゆくゆくは魔法学院恩賜賞受賞間違いなしだ。
どう説明しようか。
「……そ、そうです。私はソルセルリーの『赤い稲妻』と呼ばれてたぐらいですから」
「赤い稲妻? 炎なのに?」
暫く水滴の音だけが耳に残る。
私は無言で頷く。
「……そ、そう」
彼女はもうそれ以上追及しなかった。
牢獄から出ると彼女は身体を慣らす様に動かす。
「さてこれからどうしたら良い?」
「私はこれから訓練場に向かいます。まだ戦いは終わってないでしょうから」
彼女は腕組みをして考える顔をする。
「私もいく」
「……でも」
彼女は微笑む。
「借りを変えさせてよ。それに本気の私まだ見てないでしょ?」
私も頷く。すごい心強い。
彼女がローブをひるがえすと紫の髪も舞った。




