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第百四話

「知ってます? 私世界を変える魔法使いなんですよ!」

そう胸を張り心臓の位置に手を添え決めポーズを取る。

峡谷で彼は乾いたパンを齧りながら地図を取り出す。


「……俺達が向かうのはこの辺境の中立地帯だ」

彼は無視して地図を指で叩く。故郷の左上の方だった。

「帝国と教国の領有権の主張が平行線になり、未だどちらも統治権を持つには至っていないが」


彼は私を見る。

「実質帝国領だと考えていい。俺達はここに潜入し諜報活動を行う」

「ふーん。なんかでも私達にこんなのまかせるの不自然じゃない?」


そう私が言うと彼は少し黙った。

「だってこういうのって専門の人たちがいるんでしょ?」

適当に言ってみたけど意外と何かの核心をついてたんだろうか。


何か責める様で悪いこと言ったな。

「……まあな。どういう意図があるかは知らんが命令は命令だ」

彼は遠くを見ながら独りごとみたいに言う。


「それにここは戦場から距離がある。軍団が配置されてるわけじゃないから村人や町の人間の警戒も薄いだろう。余程へまをやらなきゃ大丈夫なはずだ。俺の推測しか根拠がなくて悪いがな……」


胃が痛くなる。

私へまするなよって言われたらしちゃう人間なんだよな。

「……そう言えばお前さっきなんか言ってたな」


「あっ聞きたいですか? 私の話」

「いやそんなに」

うんざり顔の彼に詰め寄り私は唇を動かす。そうしていると峡谷を流れる小川のせせらぎも聞えた。

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