第九十八話
「あれれー? 出来ないの? じゃあ俺が殺すか」
そう黒騎士は机に指を置いて立ち上がる。
「いやいや冗談きついっすよ。まさか最初からそういう目的で来たってわけじゃないですよね?」
そうクルスさんが訊く。彼の眼は笑ってなかった。
「そうだよ。裏切り者かわからない魔法使いを殺して帰ろうかなって」
彼は胸元から煙草を取り出しながら答える。
「一本で十分かな?」
「おいおい舐めるなよ。ゴーディさんよお」
そうクルスさんが言う。
「昔の俺達とは違っ」
そう彼の顔に黒騎士の拳が入る。
彼が煉瓦細工の地面に吹っ飛ぶ。
そのまま彼は呆然としていたジャンの腹にも強烈な蹴りを入れた。
「ぐぼっ!」
「クルス。ジャン。お前ら俺相手になに余裕見せてんだ? 俺が剣を抜いてたらお前らもう死んでたぞ?」
「良いんだぞ」
彼は煙草を吸いながら二人に声をかける。
「お前らは剣を抜いても。俺は素手で良い」
その挑発にクルスさんが剣を抜く。
「ああ。そうさせてもらうよ。あんた馬鹿だぜ」
そう彼がいつかの様に速度を増して黒騎士に跳ぶ。
その速度さえ完全に動きが見切られたのか彼の顔には黒騎士の掌が押しつけられていた。
「お前じゃ俺には勝てないよクルス」
そう彼は石畳に後頭部を叩きつけられた。
石畳が壊れた音なのか鈍い音がした。
赤い髪から血が流れている。
「おいおい。お前ら飲んでなかったんだろ?」
彼がゆっくりと歩いてくる。
「油断してるふりしてたんだろ」
彼の顔は赤ら顔だった。
「折角よお。後輩達との再会を楽しもうと思ったのに……」
彼は身体の骨を鳴らしながら近づいてくる。
「先輩の酒も飲めねえなんて無粋な奴らだぜ」
彼はジャンを睨む。
「お前は何で抜いてないんだ?」
黒騎士の拳と彼の頭蓋骨の骨がぶつかる音が響いた。
ジャンが悲鳴をあげる。
「ったく。吸い終わっちまったじゃねえか」
私が一番強いと思ってた男二人が地面に転がって震えている。
正直見たくない光景だった。強すぎる。
黒騎士は私の方を見て剣を抜く。銀色の刀身が鈍く光っていた。
「お前は一瞬で殺してやるから安心しろ。きっと痛みも感じない」
そう彼の剣が振り抜かれた。




