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小皇女

予告した期限になっても本編が全然書き上がらないので、場繋ぎに番外編を書きました。

なんか、20000字オーバーというかつてない長文になっちゃいましたけど。

場つなぎというか、本末転倒な気がしますが……

 これはヘメタル歴1515年、苛烈なドルクの攻撃を凌ぎ切って一年余りがたち、ペルセポリスが籠城戦の傷跡からようやく癒えようとしていた頃の物語である。


 その日皇宮の端にある備蓄倉庫を視察したルキウスは、天井近くまで高く積まれた麻袋を見て感慨深げに呟いた。

「ようやく元通りになったな。市中の倉庫も同様か?」

「はい、陛下。2つは倉庫そのものを修繕中ですが、それ以外は概ねここと同様です」

「そうか、これでまた攻めて来られても安心だな」

腕を組んで満足そうにうなずくルキウスに、案内の役人が耳元で囁いた。

「……それに備蓄のための買い入れも減らすことが出来ます。これからは市中の相場も落ち着くでしょう」

どうしても考えが軍事寄りになってしまうルキウスは、その言葉に虚を突かれた。

――グナエウスがいてくれれば、こういう面倒なことも任せられるんだがな……

だがその信頼できる弟は、先の戦いで帰らぬ人となってしまった。(信頼出来ない弟も一緒に死んでしまったが、そっちは割りとどうでも良かった) だから細々(こまごま)としたこともルキウス自身が気にかけ――るのは疲れるので、臣下に任せることにした。

「うむ、まあ、その辺は任せた。頼りにしているぞ」

そう言ってぽんぽん、と肩を叩くと、その役人は目を輝かせて頭を垂れた。

「はっ、粉骨砕身して民の安寧に努めます!」


 ドルク軍を撃退したことで全国民の尊敬を集めているルキウスだが、その反面内政には疎く、しかも彼自身その自覚があった。だが彼は、それでいて自分の足りないところを認める素直さを持っていた。……と言えば聞こえがいいが、まあ要するに自分だけの力で国を治める自信がなかったのである。

――官僚だって兵士と一緒だ。(しか)って(おだ)てて()き使い、その上で結果を公正に評価してやれば良いのだ。……たぶん。まあ少なくとも、私が直接指揮を執るよりは良いだろう。

これが永く後世まで賢帝と称えられる彼の基本方針であった。まあ、ある意味では確かに賢帝である。


 その時、静まり返った倉庫の中で小さな足音がルキウスの耳に飛び込んできた。

  パタパタパタ

「うん? ネズミ捕りに猫でも飼っているのか?」

「猫? いえいえ、まさか。イタズラして麻袋の山を崩されては大変です」

「では、どこからか忍び込んだのか?」

 彼が音の方に歩み寄ると、麻袋の陰からすっと小さな青白い人影が現れた。青白いドレスに青白い肌、その上髪までが青というありえない色であり、その幼くも整った容貌もあって、その姿はとてもこの世のものとは思えなかった。それはまさに幽霊ファンタズマか、あるいは冥界に拐われたペルセパネかと思わせた。……が、ルキウスの腹辺りまでしかない身長を見るに、冥王ハゾスがこんな子供を拐ったのだとしたら相当な変態(ロリコン)である。まあ、ゼーオスの兄なのだから全然不思議ではないが。

「お父様!」

そう言ってルキウスに駆け寄るその青白い少女は、大扉から差し込む日差しに照らされると黄金色に輝いた。ルキウスは笑いながらその少女を抱きとめた。

「どうしたんだ、イゾルテ? こんなところで」

「お父様を探してたの」

 ルキウスの次女にして、側妃ゲルトルートの忘れ形見のイゾルテは8才になっていた。彼女もルキウスとともに後宮に住んではいるのだが、忙しいルキウスとは時間が合わないことも多く、今朝もイゾルテが起き出す前から彼は仕事を始めていたのだ。可愛い娘が会いに来てくれたと聞いて、ルキウスは顔を綻ばせた。

「そうかそうか。しかし、どこから入ってきたんだ?」

そう言ってルキウスがイゾルテを抱き上げると、そのドレスが埃と蜘蛛の巣まぎれなことに気づいた。彼女はすっと倉庫の奥の方を指さした。

「あっち」

「あっち?」

ルキウスと役人は顔を見合わせた。この倉庫には大扉とその脇の通用口しか出入口が無いのだ。

「床下に通路を見つけたの」

それは恐らく皇宮の各所に作られているという抜け穴のことだろう、とルキウスは気付いた。先代の皇帝であった父から教えられたものの中には後宮に繋がるものもあったが、それはしっかりと施錠してある。イゾルテが見つけたというのは、それらではないはずだった。

――大昔の皇帝の誰かが作って、そのまま忘れられた物だろうなぁ……。物騒なことだ。

だがそれが迷惑なのは、何も防犯上の問題だけではない。ルキウスはそう気付いて慌てて大声を上げた。

「イザという時のために抜け出す抜け穴だな! そうか、そうに違いないな! ホント、それ以外に使い道はないな!」

他人の前で抜け穴の存在をばらすのはもちろん良くはないのだが、もっと悪いのはその使われ方を邪推されることだった。本来皇帝の住まいである内廷ならともかく、イゾルテの住む後宮に抜け穴があることが外に漏れればその使われ方まで噂の種になりかねない。何者かが後宮に忍び込んでキャッキャウフフしていたのではないかという愚にもつかない噂まで流れかねなかった。

――きっとあまり大っぴらに出来ない相手を密かに連れ込んでキャッキャウフフしていた皇帝がいたんだろう。人妻とか、あるいは男とか。

だが超大国であった大昔ならともかく、皇帝を中心に一丸とならなくては国を保つことも危うい現在のプレセンティナでは、皇統に疑問を持たれることは何としても避けなくてはいけなかった。ついでに、どんどん可愛くなるテオドーラやイゾルテを偲んでクソガキが忍び込んできても困る。それがクソガキじゃなかったらもっと困るのだ。ルキウスは一瞬罠でも仕掛けてやろうかと考えたが、イゾルテが引っかかったら目も当てられなかった。

「抜け道は、必要ないから塞いでおこうな」

「……面白いのに」

イゾルテは不満げに頬を膨らませた。


「ところで、どうして私を探していたんだい?」

ルキウスが問いかけると、イゾルテは青白い筒を差し出した。

「これが届いたの!」

それは不思議な感触の素材で出来た細い筒{サイリウム(ケミカルライト)}だった。だがもっと不思議なのは、その白い筒の内側から薄ぼんやりと青い光を放っていることだった。

「うっかり踏んづけちゃったら、バキッって言って光りだしたの」

「しぃーーっ!」

そう言ってルキウスがちらりと役人に目を走らせると、イゾルテはあっと気付いて両手で自分の口を塞いだ。役人は好奇心を刺激されて目を爛々と輝かせていた。

「あー、イゾルテ。好奇心は猫をも殺すというゾ。抜け道に罠は付き物だからナ。一条の光も届かない地下牢に人知れず閉じ込められてしまうかもしれないゾ?」

その言葉はイゾルテへ向けられたものであったが、ルキウスの目はじっと役人に向けられていた。イゾルテも父の意図を汲んで役人に目を向けた。

「まあ、怖イ。地下牢は沢山あるモノ。どこに閉じ込められてしまうのかしラ……?」

二人に見つめられて蒼白になった役人は、ガクブルしながら声を絞り出した。

「あ、あっちからも物音が聞こえますね! こ、今度こそ、猫がいるのかも!」

そう言って彼は脱兎のごとく逃げ出してしまった。


 くすくすくす

肩の上で楽しそうに笑うイゾルテを見て、ルキウスは眉をひそめた。彼の意図を汲んで話を合わせる賢さは素晴らしいのだが、彼女には人を弄んで喜ぶドSな気質があるようだった。

――イザベラのような迫力美人ならドSもありだが、ゲルトルート譲りの愛らしさが返って悪辣だな。しかも頭が回るから、手に負えなくなるかもしれん。それでいてどこか抜けているところがあるからなぁ。

彼は娘の将来が心配だった。

「こら、イゾルテ。抜け穴のこともそうだが、贈り物のことは誰にも秘密だと言ったろう」

「ごめんなさい……」

「これからは人に見られないように気をつけるんだぞ」

「はい……」

彼は厳しく叱りつけたが、しゅんとするイゾルテはやっぱり愛らしくて、それ以上責めることは出来なかった。

「……でも、まあ、あの望遠鏡{双眼鏡}だけはいいか」

「えっ、良いの!?」

「まあ、あれのことはもうバレてるからな」

「お父様、大好き!」

彼女が身を捩って父の額にキスをすると、ルキウスも顰め面を崩して笑顔になった。


「で、その贈り物を見せてくれるか?」

「はい」

ルキクスは筒{ケミカルライト}を受け取ると、娘を肩に乗せたまま日陰へと歩いた。すると筒から漏れだす淡く青い光が暗闇を照らしだした。青い光に照らされて、イゾルテの真っ白な肌とドレスだけでなくその金髪までもが青く染まり、まるで幽霊(ファンタズマ)精霊(ニュンペー)のように怪しい美しさを醸し出していた。……が、ルキウスはゼーオスみたいな近親相姦嗜好者でもなければロリコンでもなかったので、別にどうとも思わなかった。

「なるほど、青く見えたのはこの光のせいか」

「お父様も青い顔をしてますよ?」

「おお、イゾルテは上手い事言うなぁ」

はっはっはとルキウスが笑うと、イゾルテもくすくすと笑い出した。



 仕事に戻った父と別れると、イゾルテは贈り物の望遠鏡{双眼鏡}を持って尖塔に登った。尖塔からの眺望は高いだけあって素晴らしく、遠く海峡の対岸、ガルータ地区の(にぎ)わいまでも見ることができる。だが体の小さなイゾルテには尖塔の昇り降りは大変で、厳しい家庭教師が所要で実家に帰っている今日くらいしか登ることが出来ないのだ。

 姉のテオドーラも誘ったのだが、彼女の方はもちろん今日もお休みではなかった。それに彼女は尖塔と聞いただけでげんなりしてしまったので、お休みだったとしても付き合わなかったかもしれない。籠城戦の間長く閉じ込められていたことを思い出すのか、それも単純に疲れるから嫌なのかは良く分からないが。


 全身汗だくになりながらもイゾルテがようやく最上階に辿りくと、そこには先客がいた。

「おや、イゾルテ姫ではありませんか」

それは大柄だがまだ若い陸軍の将軍だった。その見覚えのある顔にイゾルテは記憶を探った。

「えーと、確か叔母様の……?」

「はい、リーヴィアの弟のコルネリオです」

イゾルテはぽんっと手を打った。

「そうです、ミランダがおじさまと言っていました」

「ははは、そちらの方が分かりやすかったですか。ところでどうしたのですか? ここまで登ってくるのは大変だったでしょう」

「景色を眺めに来ました。おじさんは?」

「お、おじ……」

イゾルテの何気ない言葉は、まだ若いコルネリオの胸にぐさりと突き刺さった。

――老け顔だからじゃない、ミランダの叔父だからだ。決して姫と世代が違うわけではない……!

とは思いつつも、実際にミランダとは世代が違うのだから虚しい言い訳である。

「お、お兄さんも景色を眺めに来たんですよ。ここからは対岸もよく見えますからね」

「そうですね」


 イゾルテは背負ってきたかばんを下ろすと、その中から贈り物の望遠鏡{双眼鏡}を取り出した。晴れてルキウスの許可が出たので、人前でも堂々と使えるのだ。

「それはまさか……先の大戦(おおいくさ)で陛下が使われたという"ふためがね"ですか?」

「ふた? 蓋は付いていませんよ?」

「いえ、そうではなく……。遠眼鏡(とおめがね)が2つ並んでいるので、そう呼んでいた方がいらっしゃったのです」

彼にその望遠鏡{双眼鏡}の存在を教えたのは、義理の兄であり上官でもあったグナエウスであった。だがそのグナエウスも、それが神からの贈り物であることまでは彼に教えていなかった。

「ふーん」

イゾルテは呼び方にはあまり拘りがなかったが、人々が"おおいくさ"での父の功績を賞賛するのは大好きだった。

「"おおいくさ"の時には、お父様が使ってらっしゃいましたよ?」

「やはり……」


 イゾルテは靴を脱いで窓辺の椅子によじ登ると、"ふためがね"こと望遠鏡{双眼鏡}を目に当てた。そして町中を見回しながら「うわー、人がいっぱいいる!」とか「あ、馬が粗相した!」とはしゃぎだした。それを横から見つめながら、コルネリオは人しれず指をワキワキとさせていた。その姿を他人が見たら「あっ、ロリコンが幼女を襲おうとしてる!」と勘違いしてしまうところだが、コルネリオが興奮しているのは"ふためがね"{双眼鏡}の方である。彼がイゾルテに興奮するようになるのはまだまだ先の事だった。

「ひ、姫様……ソレを貸して頂けませんか?」

「えー?」

以前父に貸した時にはなかなか返ってこなかったので、彼女は渋った。だがコルネリオはこの機会を逃すまいと、幼いイゾルテに詰め寄って懇願した。

「お願いです、ほんのちょっとだけでいいんです! 良いじゃないですか、減る物でもないのだし。姫様はその間、天井のシミでも数えていて下さい!」

「……壊したりしない?」

「ええ、ちゃんと優しくしますから!」

彼女は渋々とコルネリオに望遠鏡{双眼鏡}を手渡すと、本当に天井のシミを数え始めた。

「いち、にい、さん、しぃ、……」

彼女が数え終わる前にと、コルネリオは慌てて双眼鏡を目に当てた。

「む、確かによく見える。あの船の国旗はバネィティアのものか。こうしてみると、外国船の中ではバネィティア船が圧倒的に多いな。だが、さすが3ミルム先の市場を見ても顔までは判別できないな……。あ、でも、元々目の良い船乗りならどうにかなるのかもしれないか」

彼はふと思い立って町中のもっと近い所へと視線を向けた。そして凍り付いたように動きを止めた。

「おじさん、もう数え終わったよ!」

はっと我に返った彼は、あわててふためがね{双眼鏡}をイゾルテに返した。

「どうもありがとうございました、姫様」

そう言ってだらしなく微笑んだ彼を見て、イゾルテは悲鳴を上げた。

「キャー! おじさん、血まみれだよ!?」

彼はドバドバと鼻血を出していた。

「え? ああ、ちょっとのぼせちゃったようですね……」

原因はのぼせたからではないのだが、それを察するには彼女はまだ幼すぎた。


 イゾルテが再び町中を遠望しコルネリオがその後ろにしゃがみ込んで鼻を摘まんでいる間、彼女は何とはなしに彼に問いかけた。

「おじさんは何でこの望遠鏡{双眼鏡}を試したかったの?」

「先の戦いでは、そのふためがねを使って敵情を探ったのだそうです。敵の総大将が前日の攻撃で疲弊したら部隊を視察する準備を見て、乾坤一擲の合戦に及んだという話です」

彼が幼女相手に余計なことまで話してしまったのは、少しばかり後ろ暗いところがあったからかもしれない。……どこを見ていて鼻血を出しちゃったのか、とか。だから彼はイゾルテが凍りついた事にも気付かなかった。

「グナエウス様を初めとする多くの犠牲もあって、ドルク軍を破ることができました。全てはそのふためがねとグナエウス様たちのおかげなんですよ」

「…………」

イゾルテが黙り込んでいることを不審に思ったコルネリオは、鼻を摘んだまま彼女に目を向けた。すると、遠くを見ていたはずの彼女の視線は下の方に下がってある一点に目を向けていた。しかもそれは、ちょうどコルネリオが見ていた公衆浴場のあたりではないか……!

「治りましタっ! どうやら出血も治まったようなので、私は失礼しますネ!」

そう言って彼は先ほどの役人と同じ様に脱兎のごとく階段を逃げ下って行った。だが、今度は取り残されたのはイゾルテ一人だった。そして彼女はコルネリオを笑うことが出来なかった。だが彼女は、男の裸を見て衝撃を受けている訳でも、女の裸に見とれていた訳でもなかった。彼女は何も見ていなかった。ただコルネリオに向き合うのを恐れる余りに、町を見ているふりをしていたのだ。


「これのせいで"おおいくさ"があったの?」

それは初めて耳にした事実だった。

「これのせいで叔父様は死んじゃったの?」

赤い目をしながらも毅然としたリーヴィアと、彼女の胸にすがりついて泣きじゃくるミランダの姿が脳裏を過ぎった。

 彼女は急に厭わしく思えた望遠鏡{双眼鏡}から慌てて手を離すと、それは床に向かって落ち、だがその前に吊り紐がイゾルテの首を打った。そのズシリという重みは、それを手に持っていた時より、背負って階段を登って来た時よりも、彼女には重く感じられた。それはまるで、逃れ得ない罪の重さを暗示しているようだった。



 翌日、家庭教師の授業が再開されても、イゾルテは上の空だった。

ダンスの授業では、

「姫様、ステップが違うザマス! もう3度も私の足を踏んでいるザマス!」

「ごめんなさい……」

「気をつけるザマス!」


修辞学の授業でケロケロの名文を聞かせると、

「いつまで乱用するつもりか、カティリーナ、われわれの忍耐を。いつまでしらをきるつもりか、お前の無謀な行為を。次はどの手に訴えるつもりか、お前の限りない野望を実現するために(注1)」

「ごめんなさい……」

「別に殿下に言ってないザマス!」


歴史を教えてみても、

「ヘメタル建国の王ヘームルスは、男たちを率いて近隣のサビニ族の若く美しい女達を拐ったザマス(注2)。男が最低なのはヘメタル人の原罪ザマス。我々女性が立ち上がらなくてはいけないザマス!」

「ごめんなさい……」

「殿下は男じゃないザマス!」


 こんな具合でイゾルテは何を聴いても頭に入って来なかった。業を煮やした家庭教師の方も、いつもは机を叩くだけの鞭をイゾルテに向かって直接……振るうのは躊躇われたので、代わりにデコピンをした。それでもやっぱりイゾルテの態度が改まらないと、今度は彼女のお尻を叩いた。

 パシン、パシンと何度も叩かれてイゾルテはお尻が痛くてたまらなかったが、彼女は何より罰を望んでいた。それは自傷行為に近い欲求だったが、厳しくも優しい家庭教師のシオマラはイゾルテのお尻を叩きながらも時折優しくお尻をさすってくれた。イゾルテは自分を気遣う彼女の好意が嬉しかった。

 繰り返し繰り返しイゾルテのお尻を叩いた事で顔を真赤にしてハァハァと荒い息を吐きながら、シオマラは終業を宣言した。

「き、今日は、ここまでにするザマス。これ以上すると私がどうにか……ではなく! 今日の殿下には、これ以上授業をしても無駄でしょうから!」

キリっと顔を引き締めてそう言うと、彼女は真っ赤になった手のひらをペロペロしながら去っていった。

――自分も手が痛いのに、私のお尻を気遣っていたんだ。先生は本当は優しい人なんだなぁ。

イゾルテはお尻の痛みではなく、彼女の優しさにホロリと涙を(こぼ)した。だがその彼女の思いに報いるためにも、イゾルテはいつまでもウジウジと悩んでいる訳にもいかなかった。



 イゾルテは外出用のドレスに着替えると、花瓶にあった花を適当に花束にして車溜まりへと向かった。彼女が「ミランダのお見舞いに行きたいの」と言うと、近衛騎士は快く馬車を出してくれた。普段なら彼女一人でのお出かけなど(もっ)ての(ほか)だと怒られるところだが、行き先がリーヴィアの離宮で、しかも要件がお見舞いだというのだから断る理由はなかった。ミランダが病気だと聞いてもいつもの事だったし、イゾルテの表情はいつになく深刻で、それが彼らにミランダの病状が重いのだと誤解させたこともあった。

 だが本当は、イゾルテが会いに行くのは従姉妹のミランダではなく、義理の叔母であるリーヴィアの方だった。一旦は決意したものの、彼女にとってリーヴィアに向き合う事は恐ろしかった。だから彼女は、馬車が永遠に目的地に着かなければいいのにと願わずにはいられなかった。

 だが見慣れた町並みは見慣れた順序で流れて行った。世界は昨日までとはガラリと変わってしまったように思えるのに、実際に変わったのはただ彼女の心の内だけなのだと否が応にも理解させられた。やがて馬車が離宮に着くと、イゾルテは神妙な顔をしたままリーヴィアを訪ねた。


 リーヴィアの許には先触れが訪れてイゾルテが見舞いに来ることを聞かされていたが、ミランダは虚弱なだけで今は特に病気と言う訳ではなかった。だからお見舞いという名目で遊びに来るだけだろうと思い込んでいたのだが、離宮に着いたイゾルテはミランダではなくリーヴィアに話があると申し出てきた。子供であり同性でもあるので、リーヴィアは普段着のままで直接自室に迎え入れた。

「イゾルテ様、どうなさいました?」

そう言いながらリーヴィアはソファーに座るように示したが、イゾルテはドアの前に立ち尽くしたまま黙って首を振った。

仕方ないのでリーヴィアも立ち上がってイゾルテに近寄ろうとすると、イゾルテはドアにぶつかるまで後ずさった。その奇妙な態度に、リーヴィアは戸惑いを感じざるを得なかった。

――なんだか、私が虐めてるみたいね。

「おばさま、ごめんなさい!」

突如頭を下げたイゾルテに、リーヴィアにはますます訳が分からなくなった。

「いったい何のこと? ミランダと喧嘩でもしたの?」

「違うの。叔父様の……グナエウス叔父様の事なの」

以外な名前にリーヴィアは首を傾げた。

「……どういうこと?」

「叔父様が亡くなったのは、私のせいなの!」

リーヴィアは更に深く首を傾げた。場外で戦死したグナエウスと尖塔にリーヴィアとともに尖塔に閉じ込もっていたイゾルテでは、どうやっても結びつかなかったのだ。

「……どういうこと?」

「私がお父様に望遠鏡(双眼鏡)を貸したから、"おおいくさ"が起こったの!」

リーヴィアは更に深く首を傾げようとしたが、それ以上は首が辛かったので今度は逆に傾げた。

――何を言ってるのか全然分からないわ。シオマラ様の教育もあっておマセな子だと思っていたけど、やっぱり子供ね。きっと些細な事を大げさに捉えているのね。厳格な上に独身のシオマラ様では母親代わりにはならないもの、私がお義姉(ねえ)様方の代わりに慈しんであげないと。

リーヴィアはにっこりと微笑んでイゾルテに声をかけた。

「良いのよ、イゾルテ。あなたのせいではないわ」

彼女の言葉にイゾルテははっと顔を上げた。

「あの人は皇族としてこの国を守るために戦ったの。あなたのせいだと言えないこともないけど、それなら私やミランダのせいでもあるわ。あの人は私達みんなを守るために戦ったのだもの」

イゾルテは優しく微笑むリーヴィアを見て、胸がチクリと痛んだ。確かにリーヴィアの許しによって彼女の胸のつかえは下りていた。でもその欠片がトゲとなり、それは長く彼女を苦しめることになるのだった。



 一方リーヴィアの方にもしこりが残っていた。何だか良く分からないままにイゾルテを許してしまったが、一体何が言いたかったのか全然分からないのである。彼女の許しを得たイゾルテは笑顔を取り戻したが、それでもいつものような憂いのない笑みではなかった。だから何かスッキリしないのだ。

 だが今更イゾルテから根掘り葉掘り聞き出すことは出来ないので他の人から聞き出すことにした。イゾルテとグナエウスと"おおいくさ"に関わることなら、その中心に居るのはルキウスである。彼女は内密にルキウスに相談を持ちかけることにしたのだ。

 家族の問題なので、彼女はルキウスが政務を執る外廷ではなく私室のある後宮を訪ねた。女が内密に後宮を訪ねるというのは、なんだか淫靡な香りのするシチュエーションにも思えたが、イザベラやゲルトルートが生きていた時にはお茶会だの何だので彼女も何度も後宮を訪ねていたのだ。あるいはミランダがもう少し元気であったなら、彼女を連れてテオドーラやイゾルテを訪ねることもあっただろう。だからそれは異例なことではないはずだった。


 ルキウスの自室に通されたリーヴィアは、一通りの挨拶を終えると本題を切り出した。

「陛下、お尋ねしたいことがございます」

「何だ? グナエウスの昔の女のことか?」

彼にはリーヴィアが内密に尋ねて来る理由など、それくらいしか思いつかなかった。

「ええっ? ……いえ、そんな昔のことはもう気にしてはおりません」

結婚して8年あまり経ち、しかも死別しているのだから今更のことである。……ちょっとだけ気になったけど。

「今日、イゾルテ様が私を訪ねて参りました」

「なに? イゾルテが?」

「ええ。そして、望遠鏡のことを告白されたのです。そのせいであの人が死んだのだと」

「ゴホッ、ゴホッゴホッ!」

突然の事にルキウスは飲んでいたお茶で咽てしまった。

――イゾルテぇー! 望遠鏡は見せても良いと言ったけど、神に貰った事まで言っていい訳じゃないぞ!

この場にイゾルテがいたら叱りつけてお尻ペンペンしてやりたいところだったが、今はリーヴィアを脅してでも秘密を守ることを誓わせなければならなかった。ルキウスは顔を強ばらせてスッと立ち上がると、ドアに歩み寄って鍵を掛けた。

 ガチャリ

その音にリーヴィアはビクリと震えた。彼女とてまだ若い女なのだ。そして密室に二人きりの相手は、身内とはいえ血のつながりのないルキウスである。彼女としては身の危険を感じざるを得なかった。そしてこれまで愛想のいい顔しか見せたことのなかったルキウスが、今初めて真剣で剣呑で、それでいてどこかグナエウスを彷彿とさせる熱い情熱のこもった瞳でリーヴィアを見つめていた。その瞳を見て彼女は再び震えた。それは先程と同じく怯えによるものであったが、同じものに対する怯えではなかった。

「リーヴィア、この秘密は守って貰わなければならない」

リーヴィアは心底怯えていた。自分が死別した夫を裏切ることを、そして自分の体がそれを期待し始めている事を。

「わ……私は、あの人を、グナエウスを愛しているんです……!」

まるで自分に言い聞かせるようにリーヴィアは叫んだ。それを聞いてルキウスは辛そうに顔を顰めた。そしてそれを見たリーヴィアも胸を痛め、それを自覚して更に心を痛めた。

――私は……いつのまにか陛下のことをお慕いしていたの? いつから? まさかあの人と会う前から? いえ、そんなことはないはず。でも確かに昔から、自分をイザベラ様やゲルトルート様と比べてはがっかりしてため息を吐くことはあったわ。ひょっとしてあれは、私が陛下には見合わないということを残念に思っていたの……?

答えの無い自問の迷路に迷い込んだリーヴィアは、オロオロと目線を泳がすばかりで逃げることも人を呼ぶことも出来ないまま、ルキウスが歩み寄るのを許してしまった。ルキウスは彼女の両肩をガシリと捕まえると、脅すように、それでいて懇願するように彼女に言った。

「グナエウスを思うお前の気持ちは、兄として嬉しい。だが、今生きている者を第一に考えてくれ!」

リーヴィアはズルいと思った。グナエウスの兄であることを利用して彼女を免罪することで、彼女はルキウスを拒む理由を失ってしまったのだ。いや、少し探せば幾らでもあるはずだったが、もはや彼女はそれを探したいとは思わなかった。自分がそれを見つけてしまう前にと、彼女は目をつぶってルキウスに向けて顔を上げた。


 だが、ルキウスの方は思いもかけないリーヴィアの仕草に戸惑っていた。彼女の仕草は、まるで「さあ、キスして下さい」と言わんばかりではないか。彼は冷静になって自分の発言を振り返ってみた。

――あれっ、私はリーヴィアを口説いちゃったのか!?

彼はイゾルテの身を守ろうとしたつもりだった。あくまでグナエウスの死の責任を追求すると主張するリーヴィアを脅し、諫めて、死んでしまったグナエウスより、これから成長していくイゾルテを優先して秘密を守って欲しいと言ったつもりだったのだ。神から贈り物が届くという重大な秘密を知っていれば当然そのように受け取ると思っていたのだが、聞きようによっては口説いているようにも思えなくもなかった。

――その気にさせてしまったのものを放っておくのも不味いなぁ。とはいえ、こっちにはそんな気なんか……

そう思いながら目を瞑ったままのリーヴィアを見下ろすと、年齢の割にあどけなく愛らしい顔と、身長と童顔の割に豊満な胸の谷間に目が吸い寄せられた。ほとんど真上から見下ろしているので、谷間がよーく見えるのだ。彼はゲルトルートのような貧乳も好きだったが、イザベラのような巨乳も大好きだった。

 ゴクリ

彼はこれまでそういう目でリーヴィアを見たことは無かったが、グナエウスが見初めただけあってリーヴィアもなかなかに魅力的な女性である。イザベラほど押し出しも良くなければ、ゲルトルートのように目を引く特徴があるわけでもない。だが、どこかほっとさせるような家庭的な魅力があり、それでいて意外に豊満な体は十分に肉感的であった。そして彼女は男を知り尽くした人妻であり、それでいて男に飢えた未亡人なのだ。ゲルトルートとイザベラを失ってから約7年。溜まりに溜まった彼の本能的な欲求は、(にわか)に限界水位に達しようとしていた。かれをギリギリで引き止めていたのは、何かがおかしいというかすかな予感に過ぎなかった。

 だが息を止めたままルキウスを待っていたリーヴィアは息が続かず、目を閉じたまま「はぁ」と熱い息を吐くと、ちろりと舌を出して唇を湿らせた。ぬらぬらと光るその可愛らしい舌先が、ついにルキウスの理性を決壊させてしまった。

「リーヴィア!」

彼はリーヴィアの口に自らの舌を割りこませると、彼女の舌が口内に戻るのを防ごうとするかのように絡め取り、激しく吸い寄せた。焦らされ、既に息が上がっていたリーヴィアはそのまま一気に窒息し、キスだけで腰砕けになってソファーに倒れこんだ。だがルキウスはそれでも彼女の唇を離さず、彼女は十分な呼吸も出来ないまま、ただ怒涛のように押し寄せる快感と愉悦と快楽の波に流されていった。



 そのままソファーで続けざまに3ラウンドを戦い終え、寝室に移ってからも2ラウンドを終えると、二人はようやく人心地ついた。すっかりクタクタになっていたけど。

「えーと、何だったか……。そうそう、話の続きだが、とにかく秘密にしてくれよ」

ルキウスのその言葉は、女の喜びを思い出して幸せいっぱいの気分だったリーヴィアに冷水を浴びせかけた。

「え……秘密……なんですか?」

何故今更秘密にしなければならないのだろうか。死んでしまったグナエウスよりも生きている自分に目を向けてくれと懇願したくせに、自分は亡くなったイザベラやゲルトルートに対して体裁を取り繕いたいというのだろうか? これほど情熱的に愛し合ったというのに!

 だがルキウスはそんなリーヴィアの心の内を知らずにのうのうと言葉を続けた。

「それはそうだろう。神の贈り物のことがバレてしまえば、イゾルテの命が狙われるかもしれないからな」

思いがけない言葉に、リーヴィアは耳を疑った。

「……なんの……話ですか……?」

「いや、だから、イゾルテのところに神様から贈り物が届くという……」

ルキウスは最後まで言う前にはたと気付いた。

「……お前は……何の話だと……思ってたんだ……?」

「思うも何も、何の話か分からないからお尋ねしたのですよ?」

「いや、だってお前、イゾルテに望遠鏡の話を聞いたと言ったではないか」

「ええ。望遠鏡を陛下にお貸ししたことで、戦いが起こったのだと仰ったのです。でも意味が分からないから聞きに来たのですわ」

「…………」

――あれ? ひょっとしてイゾルテがバラしちゃったと思ったのは、私の早とちりだったのか……?

リーヴィアが口説かれていると誤解した以前に、自分がとんでもない誤解をしていたことにようやく気付き、ルキウスは頭を抱えた。一方リーヴィアの方もルキウスの言葉でようやく事態の大きさに気付き始めていた。

――イゾルテ様の言っていた望遠鏡というのは、その神様から頂いた物なの? 望遠鏡がどうしてあの人の戦死に繋がるのかはやっぱり良く分からないけど、イゾルテ様がちゃんと説明できなかったのは陛下に口止めされていたからなのね。……あら? ひょっとして陛下は私を口説いていた訳ではないのでは……?


「ゴホンっ! あー、その、なんだ。今日のことは無かったことにしないか……?」

「…………」

それは虫の良い話だったが、リーヴィアの方も勘違いしてうっかりその気になってしまった弱みもあった。それにルキウスの方も決して満更ではなさそうだった。誤解からの関係を続けるのではなく、最初から仕切り直した方がお互いのためでもあり、お互いの子供たちのためでもあると彼女にも思えた。

「……分かりました。イゾルテ様のことも聞かなかったことにしましょう」

「そうか、分かってくれるか。ありがとう!」

「……とか言いながら、本当は他に目をつけている女性がいるのでは?」

「い、いないぞ。そなただけだ。私はイサキオスではない!」

「…………」

リーヴィアはルキウスをジト目で見つめた。据え膳とばかりにリーヴィアを抱いたくせに、のうのうとこういう事が言えるところは、まさしくイサキオスの兄らしかった。

――あら? でもそれならあの人も……? いえ、それはないわね。

「……分かりました。あの人の兄である陛下を信じますわ」

「そうか、では礼として一つ秘密を教えよう」

「いえ、あの、これ以上秘密は遠慮したいのですけど……」

「そう言わずに、これだけは覚えておいてくれ」

「……?」


 こうしてこの夜のことは一度きりの(正確には5回だけど)過ちとして、二人は別れた。……はずなのだが、やがてその関係がイゾルテにバレるまで、二人は付かず離れず密かな関係を続けたのだった。仕切り直すどころか公表もしないでダメダメでグズグズな関係をズルズルと続けてしまったのである。

 ちなみに二人の関係が周囲にバレなかったのは、ルキウスが秘密の抜け穴の鍵を渡したからだった。時には別室に泊まっているはずのリーヴィアが偲び、また時にはルキウスがリーヴィアの離宮に偲んで行ったのである。この日の掃除をしたメイドたちも、(いつの間にかリーヴィアが消えていたので)ルキウスが一人でハッスルしたのだと思ってげんなりしたのだった。……いい年して格好悪い話だけど。

 だがそれらが明らかになりルキウスの名誉が回復(?)されるのは、彼が孫のマヌエルに後宮を明け渡し、抜け穴の存在を教えた後のことである。



 ルキウスが久々の心地良い脱力感を感じながら寝不足の朝を迎えると、今度はイゾルテが訪ねてきた。リーヴィアから話を聞いていたこともあって、ルキウスにはイゾルテの話の内容が予想できていたが、彼はあくまでとぼけて見せた。

「イゾルテ、改まって話とは何だい?」

だがイゾルテの行動は彼の予想外だった。イゾルテはスッと白い筒を差し出したのだ。

「昨日の光る筒{サイリウム}です。もう光らなくなってしまいました」

「そうか……それで?」

「お父様は、これをもう一度光らせることが出来ますか?」

「さあ。学者たちに研究させてもできるかどうか分からないな」

「でも、望遠鏡{双眼鏡}を使って敵をやっつけたんですよね?」

「それは私が戦い方を知っていたからだし、望遠鏡の使い方を知っていたからだろう」

「でしたら、私はこの筒の使い方を知らなくて良かったのでしょうか? 使う場所を選ばなくても良かったのでしょうか? 神様が贈り物を下さることを他人に言ってはいけないのなら、私が調べなくてはいけないのではないでしょうか?」

「どうしたんだイゾルテ。お前は由緒あるこの国の姫なのだぞ。元気で美しく育ってくれればいいんだ。今のところどちらも成功しているぞ」

「だけど、望遠鏡一つで戦いが起こり、叔父様は亡くなってしまいました。光の消えたこの筒{サイリウム}は、本当に昨日使ってしまって良かったのでしょうか? 本当は来るべき戦いに於いて決定的な役割を果たすために遣わされたのではないでしょうか?」

ルキウスは首をひねった。

――そうか? じゃあ最初の絵本も何かに役立つのか?

いろいろ考えてみたが、いくら綺麗でも絵本は絵本でしかなかった。

「そうは思えないな。この光の筒{サイリウム}もロウソクと大して変わらないと思うぞ」

「でもこの筒は熱くありませんでした。床に落としても火が着くこともありませんでした。それにこの筒は水も通しません。きっと水の中でも光ったのではないかと思います。それでも本当に、ロウソクと変わらないと思いますか?」

「……では、何の役に立つというのだ?」

「分かりません。でも、分からなければいけないと思うんです。私のために贈り物を皆に見せられないというのなら、私が分からなければいけないと思うんです! だって、だって、私も皇族なんですもの! 叔父様の代わりにみんなを守らなくてはいけないんですもの!」

「…………」

ルキウスは黙りこんだ。彼としてはイゾルテには幸せな結婚をして幸せな家庭を築き、幸せな一生を送って欲しかった。だが、男子がいないどころか兄弟まで失ってしまった今のルキウスには、イゾルテの意気込みは貴重だった。それに戦場に出るというのならともかく、研究者になりたいというのを止める理由はなかった。

「分かった。学びたいと言う者を止める理由はないからな。で、どうして欲しいのだ?」

「私に傅役(もりやく)を付けて下さい」

「傅役? あれは単に家庭教師というだけではなくて軍事教練も行う者だぞ?」

傅役というのは、護衛+家庭教師+後見役のようなものである。ただし、普通は若い皇子(◆◆)に付けられるものだ。帝国の将来を担えるだけの教育を施し、成長した暁にはその後見役となるのだ。だからその教育内容は必然的に軍事や政治に偏ることになる。実際ルキウス自身にも傅役が付けられて、ビシバシと厳しく育て上げられたのだ。かつては諸侯の中から傅役を選んで、その固有の軍事力を味方に付けるという意味もあったのだが、その反面で帝位争いのスケールが大きくなるという負の影響もあった。だが、諸侯が力を失った現在では良くも悪くもその辺りの意味は無くなっていた。

「戦い方を知らなければ、贈り物の利用方法も分からないと思います」

「分かっているのか? 傅役は当然男になる。ということは後宮を出ることになるのだぞ?」

「……はい」

イゾルテの決意の固さに、ルキウスはため息を吐いた。驚いた様子がないということは、そこまで考えた上で話しに来たのだろう。

――聡い娘だとは思っていたが、やはりこの子は特別なのか? 他所(よそ)に嫁がせる訳にもいかないのだし、この可愛らしさなら婿探しに困ることもないだろう。それなら多少型破りな育て方をしても問題は無いはずだ。だが悪い虫がついては困るから若い男はダメだな。枯れ果てたジジイにしよう。

「分かった、ちょうど良いジジ……男がいるから、そいつを傅役に付けてやろう。普通は男子に付けるものなのだがな」

「その人は信用できる方ですか?」

「ん? 昔はあちこちで浮名を流したらしいが、もういい加減ジジイだから大丈夫だろう」

「……? よく分かりませんが、贈り物の事を教えても大丈夫なんですか?」

「……そうか、そうだな。もう一度会ってから判断することにしよう」

「もし父上が信頼に足ると判断されたら、男の子と同じように教えるようにと伝えて下さい。叔父上の代わりが務まるように」

「……分かった」

ルキウスはそう言って頷くと、どこか寂しそうに微笑んだ。

――「父上」か。子供が成長するというのは、寂しいものだな……



 数日後、ルキウスはムルクス提督の訪問を受けた。海軍の現状について報告を受けるためである。

「海軍は2年前の痛手からようやく回復しつつあります。より大きな損害を受けたドルク海軍に対する相対的優位は動かしがたいでしょう。

 今のうちに次の世代を育てるべきです。ですがその役は、多くの若者達を犠牲にした私には相応しくないでしょう」

その暗く沈んだ声を聞いて、ルキウスは思わず呟いた。

「まるで後悔しているかのような言葉を笑顔で言われてもなぁ……」

「……これは地顔です。ですが確かに後悔はしておりません。もう一度同じことがあれば、やはり同じことをするでしょう。私にあるのは、ただ罪の意識です」

「そうか。まあともかく、海軍から身を引きたいという気持ちは分かった。だったら、違う場所で若者を育ててくれないか?」

「……陸軍ですか? 陸には陸の者をお選び下さい。私は陸の戦いには詳しくありません」

「違う、陸軍でも近衛でも衛視隊(警察)でもない。育てて欲しいのはたった一人、私の子だ」

「……は? 隠し子でもおられたのですか?」

「違う、イゾルテが傅役を欲しいと言っているのだ」

傅役という言葉を聞いて、ムルクスはすっと目を細めた。と言ってももともとこれ以上ないくらい細いので客観的にはたいして変わらないのだが、主観的には細めたのだ。そして主観的には鋭いつもりなんだけど、客観的にはますます嬉しそうな眼差しでルキウスを見つめた。

――お世継ぎであるテオドーラ殿下ならいざ知らず、なぜイゾルテ殿下に、なぜ私のような軍人の教育が必要なのだ?

「私に、何を教えろとおっしゃるのです」

自由七科セプテム・アルテス・リベラレス(注3)……と言いたいところだが、主に国際情勢を含めた政治と軍事だろうな。他は家庭教師に任せればいいだろう。後は冶金や錬金術を教えろとか言い出すかもしれないな」

ムルクスは訝しげに眉根を寄せた。……が、客観的には堪え切れない笑いに顔を崩したようにしか見えなかった。

「どうにも姫君に相応しい教育とは思えませんな。いったい姫をどうしたいのですか?」

「さあ、分からん。だが、イゾルテには知識が必要なのだ」

「どういうことですか?」

ルキウスは測るようにじっとムルクスを見つめた。

「ムルクス提督、これから言うことを他言しないと誓えるか? 皇帝である余と、この帝国と、女神ペルセパネに対して」

 勿体ぶった言い方に、ムルクスはここが分水嶺なのだと気付かされた。この先を聞いてしまえば、彼はなし崩しにイゾルテの教育係を押し付けられるのだろう。孫ほどの少女の相手をさせられるのは、正直言って大変そうだった。多少乱暴にしても壊れない海兵相手の方がよほど気楽である。

 だが彼には、ルキウスがここまでもったいぶる話を聞いてみたい気持ちもあった。未知の島を見つけて素通りできる男だったら、この歳まで船乗りなど続けていないのだ。

「……誓いましょう」

ルキウスは袋に入れて隠していた贈り物の望遠鏡{双眼鏡}をムルクスに差し出した。

「両目で見る望遠鏡だ。遠くを見てみろ」

「ほぉ、珍しいものですな。では」

「この丸いところを回すと焦点が合う。こっちは倍率だ」

「……倍率?」

「見れば分かる」

 ムルクスが言われるままに窓から外を覗いてみた。

――な、何だこれは!? 1ミルムは離れた街路の様子が手に取るように分かる。それに、歪みもなければ色も変わらない……。素晴らしい逸品だ。

ムルクスは望遠鏡{双眼鏡}から目を離すと、今度はその望遠鏡{双眼鏡}自体をマジマジと見つめた。

「これはどこの国の産品ですか? やはりバネィティアですか? それとも北アフルーク? まさかドルクですか? もしそうなら海軍の優位も揺らぎかねませんが……」

興奮するムルクスに、ルキウスは静かに答えた。

「それは――」


 ー 神の国の物だ ―


つまらない冗談だと思ったムルクスが文句を言おうとしてルキウスに向き直ると、彼は緊張に顔を強ばらせていた。それを見たムルクスの声は自然と低くなった。

「……どういうことですか?」

「イゾルテのもとには、時折神から贈り物が届くのだ。その望遠鏡{双眼鏡}も、籠城戦のさなかに送られてきた物だ」

そのあまりにも荒唐無稽な話に絶句しながらも、ムルクスはその望遠鏡{双眼鏡}と籠城戦という2つの繋がりにピンときていた。

「まさか……あの逆撃は……」

「そうだ、あれは私のカンでもなければ、密偵からの情報でもない。その望遠鏡{双眼鏡}で敵陣の動きを(つぶさ)に調べた上での事だ。敵の本陣から飛び出していった先触れの行き先を突き止め、俄に御座所を作り始めたのを見て敵将の視察を事前に察知したのだ。

 だがその望遠鏡{双眼鏡}が神からの贈り物だと知っているのは、私とイゾルテと家庭教師、そしてお前も知っているアドラーだけだ。お前で5人目だよ」

「こんな物が度々届くのですか……? なぜもっと活用しないのですか?」

「玉石混交なのだ。というか、全て玉なのに我々の磨きが足りないのかもしれないのだが。とにかく使い道が分からない物が多い。あるいは意味不明な物とか」

「意味不明?」

「例えばこれだ。精巧な飾りが付いた……焼串{(かんざし)}だ」

「……確かに焼き串ですね。実際に使ったら、ちゃらちゃらした飾りがすぐに焦げてしまいそうですが……」

「かと思えば、先日こんな物が届いたそうだ」

そう言ってルキウスが取り出したのは、ガラス{透明プラスチック}の嵌められた丸く平たい容器{方位磁針}だった。

「これは?」

「分からん。ただ、どちらに向けても中の針が常に北を差すのだ」

「…………」

その驚きはゆっくりとやって来た。ムルクスは最初意味が分からず、次に疑い、最後にはその影響の大きさに驚愕した。

「……で、では、星1つない闇夜でも方角が分かるのですか!?」

「そうだ」

「なんと……、まさに神の力ですな……!」

「それが、そうでもないようでな。これを見てみろ」

次に差し出されたのは、二回りほど大きな皿の上に一本のハリが突き立ったものだった。ルキウスがその針の上に細く鋭い金属片を置くと、ぐるぐると回りながらも、やがて北と南を指して動きを止めた。

「……随分とぞんざいな作りですが、同じように北を差していますね。これは?」

「イゾルテが作ったものだ」

「なんと、殿下が……?」

正確には、部品そのものはアドラーが用意したものなのだが、今問題になっているのはそういうことではないだろう。ムルクスは再び驚愕しつつも、話が本題に戻りつつあることを察した。

「イゾルテは贈り物を国のために役立てるため、まずは知識を蓄えたいと望んでいるのだ」

「殿下ご本人が、ですか?」

「ああ、誰に似たのか妙に生真面目でな。贈り物の事もあってイゾルテは今後離宮に置くことにした。そこでイゾルテの身を守り、秘密を守り、あの子に様々なことを教えてやって欲しいのだ」

ムルクスは納得した。だが、それは傅役を必要とする理由についてであって、彼が傅役に選ばれた理由は分からないままだった。

「しかし、何故私なのですか?」

「それはお前がジ……信頼できるからだ。お前になら娘を預けても大丈夫だと」

「陛下……」

ムルクスはその言葉に感激し、深々と腰を折った。

「分かりました、お引き受けします」



 ムルクスが傅役に決まり、後宮から離宮へと引っ越すことが決まると、イゾルテには悲しい別れが待っていた。

「先生、こちらは私の傅役になって下さるムルクス提督です」

「初めまして、ムルクスです。美しい方ですな」

そう言ってムルクスが腕を差し出すと、家庭教師のシオマラは一歩後ずさった。

「お、おとこ……!」

イゾルテとムルクスは目を合わせた。

「殿下、ひょっとして彼女は男嫌いなのですか?」

「そう言えば、先生とは後宮でしか会ったことがありません。男の人と一緒のところを見たことがありませんでした」

「まあ離宮には大勢男が居ますから、あちらに居を移せばおいおい慣れて頂けるでしょう」

「離宮……男……いっぱい……? いーーーーやーーーーー!」

「あっ、先生!?」

走り去る彼女の後ろ姿が、ムルクスの見た彼女の最後の姿だった。……って、初めて会ったばかりだけど。

「それで、彼女はどなたなのですか?」

「家庭教師のシオマラ先生です」

「はあ。しかし、あの様子で離宮に付いてきてくれるでしょうか?」

ムルクスの指摘を聞いてイゾルテの胸は痛んだ。ムルクスにとってはどうでも良くても、イゾルテにとっては掛け替えのないたった一人の先生だったのだから。

「先生……」



 ムルクスの前から逃げ出したシオマラは勢い余って実家に帰り着いていた。結婚しろ結婚しろと煩い両親のいる実家には近寄りたくないのだが、普段後宮に閉じこもっている彼女には他に頼るべき場所が無かったのだ。女友達は大勢いたのだけど、皆結婚して亭主がいるのでそんな所に転がり込めないのだ。……と言っても、友達の迷惑になるからと遠慮しているのではなく、単に彼女が男のいる空間に耐えられないだけなのだが。それに今実家は弟の事で揉めていて、両親の矛先は彼女に向かない筈だった。

 だが彼女が玄関のドアを開けようとしたとき、中から一人の若い男が現れた。

「きゃ! おと……うとか。脅かさないでよ」

普段はキャラを作っているシオマラも、実家で、しかも弟に対しては特にぞんざいな口調だった。

「別に脅かしたつもりはないよ。しかし姉さん、良いところに帰って来たな」

「何かあったの?」

「決裂だよ、決裂。伯爵家の品位が何だのって一向に結婚を認めないから、俺は駆け落ちする事にした。何度も仲裁に入って貰ったのに申し訳なかったな」

「……そう。どうせ伯爵位なんて名ばかりなんだし、良いんじゃない? 駆け落ちって言っても、どうせ婿入りみたいなもんでしょ」

伯爵家と言っても使用人が二人いるだけの小金持ちでしかない。追手を差し向けるなんて時代錯誤なことをする力などないのだ。

「やっぱり姉さんは理解があるなあ。じゃあ、申し訳ないついでに後始末も頼むよ」

「何よ、後始末って」

「そりゃ、もちろん家督相続だよ。宜しく、サビカス伯爵婦人!(注4)」

「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ! そしたらますます結婚しろってうるさくなるじゃない!」

「そろそろ姉さんも男嫌いを直せよ。美人なんだから男なんていくらでも選び放題だぞ」

「うるさいわね。あんたには関係ないでしょ!」

「関係有るよ! 姉さんに紹介しろって人に頼まれるたびに断ってたから、俺はずっとシスコンだと思われてたんだぞ!」

「そ、そうなの? ……悪かったわね」

「だから、罪滅ぼしにこの家のことは頼まれてくれよ。じゃ!」

「あっ……」

今度こそ弟が走り去ってしまうと、シオマラは玄関の前に一人取り残された。そして今更になって、駆け落ちという割に弟の荷物があまりにも少ないことに気付いた。

――あいつ、最初から家を出るつもりで先に荷物を運び出していたのね……! 

つまり、実家に寄り着かない姉を仲介という名目で呼び戻し、後始末を押し付けたのだ。

――ひょっとして、父さんや母さんもグルなのかしら?

だとしても、このまま放置して後宮に帰ることも出来なかった。そもそも、もう後宮には彼女の居場所がないのだ。それに、サビカス伯爵家が断絶してしまうのも寂しかった。……特に懐が。家庭教師を辞める上は、伯爵位の年金が非常に魅力的だった。

「いいわ、なってやるわよ、伯爵夫人に! そしていつか男性恐怖症を直して、再び姫様のお側近くに戻るのよ!」



 数日後、シオマラは再び後宮に赴いた。離宮に向かうイゾルテを見送るためである。と言っても目と鼻の先だけど。それに物理的には離宮の方がサビカス家に近いんだけど。

「申し訳ありません、姫様。私は離宮にはご一緒できません」

「先生……残念です。大好きな先生とお別れしなくてはいけないだなんて……」

しゅんとするイゾルテの姿に、シオマラは……萌えてしまった。

――か、カワイイです姫様! ああ、ゲルトルート様の涼やかな美しさも良いけど、やっぱり姫様の可愛らしさも良いわ! そ、そんな姫様が私のことを『大好き』だなんて!

彼女は思わずイゾルテにキスをした。頬とか額とかではなく、唇に。かつてゲルトルートとしたような、舌を絡める濃厚なディープキスではなかったけれど。

「姫様! 私は必ず戻って来ますわ! どうかそれまでお元気で!」

顔を真赤にしてそう叫ぶと、彼女は再びイゾルテのもとから走り去ってしまった。残されたイゾルテは呆然として呟いた。

「ここに戻って来ても、私はいないですよ……?」

シオマラは厳しい反面スキンシップが多かったので、唇にキスをされても彼女にはそれほど重大に思えなかったのだ。


 だが、そのキスに衝撃を受けた者が一人だけいた。別れを惜しんでイゾルテを付け回していたテオドーラが、そのキスを目撃していたのだ。彼女も幼い時に母を失っていたため、唇どうしのキスなどたまーにルキウスとするだけだった。だというのに、イゾルテは他人である家庭教師とキスをしたのだ!

――そんなのおかしいわ! 私とだってしたことも無いのに!

この時彼女の胸に生まれたそのモヤモヤは、イゾルテと離れ離れになっている間にどんどん大きくなり、ある日突然その正体を知ることになる。それが帝国の危機の始まり――なのだが、まだこの時は彼女は不満げに頬を膨らましただけだった。


 一方サビカス伯爵夫人となったシオマラは、過酷な修行の結果、見事に男性恐怖症を完全に克服することになる。というか、修行しすぎて大変な男好きになってしまうのだ。例えば男に手を差し出されても、彼女はにっこり微笑みながら握手することも出来るようになった。

――まあ、素敵な方ね。……さっきの男の子とお似合いだわ!

 舞踏会などに出かけては男性たちを優しく見つめる彼女に多くの男達が憧れたが、彼女は決して恋人を作らなかった。彼女は(男に体を委ねた事がないという意味において)ずっと処女のままだった。それ以外の意味においては……言及しないでおこう。

注1 ケロケロ=キケロです。

キケロはカエサルの親友(??????)で、日和見で口先だけの政治家として有名な人です。本文はキケロがスッラ派の残党(?)の首魁であるカティリーナ(男)を「お前反乱を起こすつもりだろ!」と糾弾した時の演説の一部です。この時点では何の証拠もないのに、勝手に決めつけてケチョンケチョンに貶しまくります。今なら名誉毀損で逆告訴されそうですが、なぜかこれが歴史に残る名文なんだそうです。ラテン語を学ぶ人――つまり、神父さんたちがありがたがったんでしょうか? 確かに魔女裁判では役に立ったのかもしれませんね。


注2 元ネタは「サビニの女たちの略奪」です。ローマ人(ラテン人)はもともと流浪のアウトロー集団だったので、ローマが建国された直後はほとんど男ばかりでした。で、女に飢えた彼らは「パーティーするから来ない? いやホント、ただのパーティーだから。女の子はタダでいいよ」と近くの女子大……もとい、サビニ族の街の女の子たちをローマに招待し、隙を見て監禁してしまいました。最悪です。でも彼らは本能の赴くままに輪姦・乱交した訳ではなくて、ちゃんと結婚して子供を作って家庭も築いたのです。いわば略奪婚ですね。まあ、どう考えても最初は強姦だったと思いますけど。

当然サビニ族のお父さん達は怒って戦争になりますが、何だかんだ言っても子供がすくすく育っちゃったので、孫を見せられたお父さん……改めお爺さんたちは和解してしまいます。

でも問題は、義憤に駆られてローマを攻撃し、逆に征服されちゃってた周辺部族の人たちです。彼らこそが間違いなく被害者です。「なんだよ、結局仲直りするのかよ!」とやり切れなかったことでしょうが、彼らも何だかんだでローマに吸収合併の上にさっさと同化しちゃうので、何もかもがうやむやです。後のローマ人たちは加害者の血も被害者の血も等しく受け継いでいるのですから。民族問題に対しては、同化って最強の解決策ですね。


注3 文法学・修辞学・論理学の3学と算術・幾何・天文学・音楽の4科だそうですが、要するに人文・社会科学から自然科学に教養まで含めた学問全般と考えていいでしょう。


注4 「伯爵夫人」というのは「伯爵位を持つ男性」の「夫人」の場合もありますが、「伯爵位を持った婦人」という場合もあります。なので、未婚でも「夫人」なのです。男性恐怖症でも、ガチ百合でも、例えロリっ子であっても爵位さえあれば「夫人」なのです。



場つなぎの割には長文になってしまいました。本来なら2~3分割する文量ですが、分けるのが返って面倒だったので1話として投稿しました。

時間稼ぎには分割したほうがいいのだとは思いますが、ひとまずは「エタってないよ!」ということが分かって頂ければ良いかな、と。


この話は活動報告の方で要望のあった「イゾルテの子供時代の話」を膨らまして作りました。

イゾルテがリーヴィアに謝ったこととか、ムルクスが傅役になったこととか、なんで離宮で暮らしているのかとか、そういう伏線(?)を逆に回収して回りました。

残念なのは大人たちです。ルキウスとかリーヴィアとかコルネリオとか、大人たちが全くダメダメになっちゃったのが残念です。ほんと、残念な大人たちです。

でも最も残念なシオマラ先生ことサビカス伯爵夫人に比べればナンボかマシでしょう。彼女はエキセントリックすぎて本編に出しにくくなっちゃった気がします。

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