序文

　かつて広大なメダストラ海を内海とする大帝国があった。ヘメタル帝国である。王政から共和制、そして帝政へと至ったかの国は、兵は強く、民は豊かだった。また政(まつりごと)においては、皇帝はあれども領主はなく、その皇帝とても民と元老院を疎かにすることは出来なかった。まさに地上の楽園、千年王国であったのだ。

　帝国は長く栄えたが、やがて滅びた。いや、滅びたと言っても過言ではなかった。国は２つに分かたれて１つは滅び、もう一つも広大な領土を異民族に奪われ、残ったのは僅かにペルセポリス市ただ一つ。僅かな残滓に過ぎなかった。

　だが、そこに奇跡が生まれた。一代にして帝国を再建し、メダストラ世界を平定し、現代へと繋がる世界秩序を構築した処女帝イゾルテである。

「イゾルテの前にイゾルテなく、イゾルテの後にイゾルテなし」と讃えられる彼女は、若くして帝位に就き、数々の偉業を成し遂げた後、養子に帝位を譲ると同時に歴史上最も過酷と言われる勅令を発して歴史から姿を消した。

　この物語は、敵対する者には「黄金の魔女」と怖れられ、信奉する者には「太陽の姫」と呼ばれた彼女の物語である。