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太陽の姫と黄金の魔女  作者: 桶屋惣八
第8章 ムスリカ編
297/354

文字通り夢オチです。そして短いです。

2つのエピソードをまとめて書こうと思ってたんですが、後半が長くなったので次回に回しました。

なので(珍しく)明日も投稿予定です。

 イゾルテは幸せだった。彼女の前には世界で一番カッコイイ男性である父がいて、世界で一番綺麗な女性である母が彼女を膝の上に座らせてくれていた。母のふくよかな胸を枕にしていると、幼い(◆◆)イゾルテには未来に何の不安もないように思えた。

「イゾルテ、今日はプレゼントをあげよう」

「ほんとに? ありがとう、お父様!」

ルキウスは楽しげに首をかっくんかっくんとシェイクしながら、白い糸車みたいな物{りんごの皮むき器(注1)}を差し出した。イゾルテが横についているハンドルをクルクル回すと下から突き出している鋭くてぶっ太い針もくるくると回った。そしてそれ合わせるように横から突き出した刃のついたアームも何かをなぞるようにゆっくりと動いた。

「どうやって何に使うんですか?」

「これは拷問道具だ。お前が大嫌いな男の生首をここに突き刺して、その生皮を剥くんだよ!」

イゾルテはビックリして目を大きく見開いた。

「うわぁ~、それは楽しそうです!」

イゾルテがキャッキャとはしゃいで手を叩くと、血まみれのバールが現れた。

「はっはっは、我が娘婿たるイゾルテ殿に生首のお届け物でござる」

首には矢が突き刺さり頭はぱっくりと割られていたが、彼はとても元気そうだった。

「イゾルテ殿が憎いのはこのマッチョ男でござるか?」

彼が差し出した右手にはマッチョな肉体を失ったベルトランの生首があった。頭だけだとベルトランも一般人サイズだ。

「え? なんで俺? 俺、別に悪いことしてないよねっ!?」

ベルトランは生首だったが元気だった。

「お姉さまに手を出した罰です」

「いや、待って! それは許してくれたじゃん!」

「…………」

イゾルテは彼とテオドーラの結婚を許したことを思い出した。テオドーラの幸せを願うからこそ、彼女は彼を許したのだ。

――うう、頭が痛い……

鈍い痛みを感じて自分の頭を押さえたイゾルテに、バールが次の生首を差し出した。

「ではイゾルテ殿、憎いのはこのスケベ男でござるか?」

それはエフメトの生首だった。

「くそっ、俺を殺してファルを横取りする気か? だがお前は俺のことも許したはずだ! ベルマー子爵にそう言っただろ!?」

「…………」

エフメトが知っているはずのないことを言うのを聞いて、イゾルテは再び頭が痛くなった。だが彼女は確かにベルマー子爵にそう話したのだ。

――そうだ。アプルンへの憎しみを利用するのかと聞かれて、アプルンなど憎くはない、憎いのは3人だけだと答えたんだ……

その一人は正体不明で、他の一人は既に許したベルトランだ。そして最後の一人を憎むあまり、彼女はエフメトを許して同盟を結んだのである。だが彼女はその名を誰かに漏らすどころか、口に出したことすら無かったはずだ。一旦その憎しみを認めてしまえば、自分が私情にとらわれて道を誤るのではないかと恐れているからだ。だが次に現れた男はイゾルテの秘密をあっさりと暴露した。

「お前が憎いのはビルジだろ? お前は俺と同じ男を憎んでいるはずだ!」

そう言って新たな生首を持って来たのはセルカンだった。傍目を気にせず盲目の美少女と純愛(肉欲あり)を繰り広げるムカつく男だったが、イゾルテが何くれとなく彼を重用(◆◆)するのは、彼がイゾルテと同様に心からビルジを憎んでいるからかもしれない。その反対にそれを認めたくない屈折した思いもあって、それが奇妙な形での重用(◆◆)につながっているのかもしれない。そしてどっちにしても彼にとっては迷惑かもしれない。

「それが……ビルジの生首なのか?」

「そうだ!」

彼は手に持っていた生首を拷問具{リンゴの皮むき器}の針に突き刺した。

「ぎゃぁぁぁぁあぁぁぁ!」

生首が上げた絶叫は耳に心地良かった。……が、何故かその生首はセルカンの顔(素顔)をしていた。

「あ、あれ? なんで俺? 俺はビルジじゃないんだけど!?」

「それは簡単だ。私はビルジの顔を知らないんだから、夢だからって都合よくビルジの顔は出てこないだろ?」

「ええっ!? だからって何で俺なんだよ!」

「お前ならビルジの顔を知ってるし、変装も出来るだろ? ほら、お前の顔の皮を()ぐから、その下からビルジの顔を出せよ」

「そんな無茶苦茶なっ! ま、待て、早まるな! ハンドルを回すな! ぎゃわぁぁぁぁ!」

「あははははあははは!」

 いつの間にか体が大きくなっていたイゾルテは、楽しげにかっくんかっくんと首を左右に振りながらハンドルを回し始めた。アームの先に付いた刃が、セルカンの顔の皮膚をバリバリと剥がす剥がす!

「痛たたたたたたっ! や、やめろぉぉぉ!」

セルカンだかビルジだかの悲鳴を聞きながら、その場に集まった人々もかっくんかっくんと首を振りながら笑い始めた。

「「「あははははあははは!」」」

 イゾルテは幸せだった。何だか良く分からないけど最高に楽しかった。だが彼女は、どんな幸せな夢も必ず覚めるのだということを思い出そうとしていた。頭を左右にがっくんがっくんと揺さぶられながら……


「#ー*ぁー! へ@%&ー!」

イゾルテはガクガクと揺さぶられながら何か呼びかけられていた。

「どう*ちゃっ#+=すか? 返@を*$くれ=いと¥ごは+抜き%#よ!」

何を言っているのか良く分からなかったし焦点が合わなくて相手の顔もよく見えなかったが、その下で揺れている無駄にデカい駄乳はエロイーザの物だ。例え分厚いメイド服に包まれていてもイゾルテを騙すことは出来ない。イゾルテの意識は急速に覚醒し始めた。

「うわぁぁん、陛下がおかしくなっちゃったぁー! 前からおかしかったけどぉー!」

「……いま、なんつった?」

「あーっ、気がついたんですねぇ! 大丈夫ですかぁ?」

エロイーザはイゾルテの質問をサクッと無視したが、今のイゾルテにはそれに抗議するだけの元気が無かった。

「……うう、キボチわるい」

「何か悪い物を拾って食べたんじゃないですかぁ?」

「ばかもの、そんなことするのは……」

お前だけだと言いかけて、イゾルテは本当に変な物を食べたことを思い出した。

――まさか……あの葉っぱ(カート)のせいか? (注2)

 最初は青臭くて苦いだけだったのに食べてる内になんだか良い気分になってきて、ふと気づいたら今こうしてベッドの上で拷問器具{リンゴの皮むき器}をくるくると回していたのだ。見回せばりんごやマンゴーといっしょに葉っぱの無くなったカートの枝が10本ほどベッドの周りに転がっていた。果物を買った記憶は無いし、カートも1枝しか買っていないはずだったが、あの後誰かをパシリにでも行かせたのだろうか? それともひょっとしてこれも神の贈り物なのだろうか?

「贈り物? あれっ!? ホントに生首の皮剥(かわは)ぎ器{リンゴの皮むき器}がある!」

ようやくイゾルテは、自分がクルクルと回していたのが夢に登場した拷問器具だと気づいた。夢は現実だったのだ!

「……って、そんな訳あるか!」

突然の叫びにエロイーザは心配げな目を向けたが、イゾルテは彼女にお茶の支度を命じて追い払った。今日のエロイーザは珍しく被害者だ。

「あの夢が現実な訳がない。だって、だって……母上のおっぱいが大きいはずないじゃないかっ!」

イゾルテは悔しげにドスドスとベッドを叩いた。夢が現実でなかったことが残念でならないようだ。

「それにこの拷問器具のサイズも夢と違う……」

 彼女にとっては生首や頭の割れた人間がしゃべることはあまり気にならないようだ。まあ、自分を半神かもしれないと思ってるイゾルテにとっては、毎日スプラッタにされても復活しちゃうプレメテウスの悲劇(注3)も他人事ではないのだろう。

「これじゃあせいぜい猫の生首ぐらいしか皮を剥げないよなぁ」

猫と聞いた瞬間に部屋の隅で小さくなっていたレオがビクリと震えたが、幾ら彼が自分を猫だと思い込んでいても、獅子(レオ)の生首は明らかに大きすぎだった。

「まあ、猫を剥製にする機会があったら使うことにするか……寝よ」

イゾルテは生首皮剥ぎ器{りんごの皮むき器}をりんごの隣に置くと、着替えもしないでベッドに潜り込んだ。……お茶を()れてきたエロイーザに、改めて叩き起こされるまで。

注1 リンゴの皮むき(アップルピーラー)は文字通りりんごの皮をむく道具です。

手動ハンドルを回すとりんごがくるくると回り、押し当てられたピーラーがりんごを丸々一個ひと続きに皮を剥き切ります。しかも所要時間は10秒程度!

用途から業務用商品かと思いきや、完全に家庭品用です。

ラブコメの定番にお見舞いイベントがありますが、そこではりんごの皮を綺麗にむいて女子力をアピールするのも定番です。

そこでこのリンゴの皮むき器! その速さと皮の薄さ、そして途切れること無く剥かれた皮の長さはまさに神業! 

ありとあらゆるガールフレンドを撃破してくれることでしょう。誰も望んでいませんが!

商品によって回転軸が横方向の場合と縦方向の場合がありますが、もちろん大差はありません。


注2 誤解がないように一応言っときますが、カートは多少多幸感があるくらいであって、サイケデリックな幻覚作用とかはありません。……一応。

しかし、成分的には覚せい剤の主成分アンフェタミンに限りなく近いカチノンが含まれているそうです。

普通の摂取量は成人男性で1枝が目安だそうですので、体重の軽いイゾルテが10本も摂取したら通常の15倍くらいになります。

幻覚は過剰摂取(オーバードーズ)による副作用なのです。……きっと。


注3 プレメテウス=プロメテウス

プロメテウスはゼウスの従兄弟にあたるティターン神の一人(柱)で、天界から火を盗んで人間に与えた義賊的な産業スパイです。

エイズ治療薬の製法を盗んで、エイズが蔓延するアフリカの製薬会社に伝えるようなものでしょうか。

特許権所有者であるゼウスは当然怒って、彼を岩山に(はりつけ)にします。

昼にはハゲタカに彼をつついて肝臓を食べるのですが、彼は神なので夜のうちに怪我が治ってしまいます。ちなみにプロメテウスの食事はハゲタカの糞です。つまりは共生関係ですね。もし彼がドMのスカトロマニアだったら最高のご褒美です。たぶん違うけど。



首をかっくんかっくんするのは、往年のゲーム『かまいたちの夜2』の『妄想編』に出てきた演出のイメージです。

登場人物が普通の会話をしながら単純で異常な行動を取っていて、なんだか見てるだけで不安な気持ちになったものです。オチはサスペンスでもホラーでもなく、文字通り妄想オチ(精神病オチ)なんですけど。

ゲーム全体はシリーズ中一番の駄作だと思ってますが、『妄想編』だけは乱歩みたいな幻想文学の感じが出ていてとても印象的でした。まあ、乱歩の幻想・怪奇モノって一冊も読んだこと無いんですけどね。


ところで、(この小説のネタに限った話ではありませんが)グッズネタのblogを作りました。

今回のリンゴの皮むき器みたいなのは一般的に知られている物でもありませんし、かといって読者が知りたいかどうかも分からないのに作中で詳細にレビューするのもおかしいので、そっちに任せることにしたのです。動画も貼れますしね。

無垢で可憐なりんごちゃんが、無理矢理マワされて裸に剥かれ、その上無残にもバラバラにされる衝撃映像を御覧になりたい方は、こちらをどうぞ

http://okeburo.blogspot.jp/2016/02/blog-post_26.html

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