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太陽の姫と黄金の魔女  作者: 桶屋惣八
第8章 ムスリカ編
289/354

あしながおじ(ょぅ)さん

毎度のことですが、投稿が遅くなってスミマセン。しかし今回は正当(?)な理由があるのです。

詳しくはあとがきで

 バブルンからの避難民約2万人をムサイガンダム半島に上陸させたイゾルテは、久しぶりにアジトに戻っていた。そこには彼女だけではなく、戦いを前に非難させていたエロイーザやサビーナ(と侍女のルビア)も戻って来ていた。だがもともと大人しいサビーナは何時にも増して元気がなく、幾らかやつれているようにさえ見えた。

――いったいどうしたんだ。サビーナちゃんに暗い顔は似合わない。……いや、似合うか? なんかこう、薄幸そうな感じが守ってあげたくなるんだよなぁ。そして優しくしていくうちに次第に(なつ)いて、やがては……でへへへ

 イゾルテは下心を隠しつつサビーナに声を掛けた。

「サビーナちゃん、どうしたんだい? 心配事があるのなら何でも私に相談してくれていいんだよ?」

イゾルテの優しい言葉に心を動かされたのか、サビーナは彼女に縋り付いた。

「$#&~! +*-*@~$!?」

……もちろん言葉は通じなかった。こんな時にセルカンはどこに行ってしまったのだろうか? イゾルテは仕方なくテ・ワを呼んだ。

「コノ娘ハコウ言ッテルアル。セルカンハ何処ニ居ルアルカ? 無事アルカ?」

「…………」

……言葉は通じたが、イゾルテにはとっさに返す言葉がなかった。セルカンはギャザリンの工房に置いてきたまま、今の今まで忘れていたのだ。そう、忘れていたのである。彼が生きていることは彼女しか知らないのだから、このままその存在を握り潰してしまおう……などという卑劣なことは一切考えていなかったのである! 無意識下では知らないけど!

「だ、大丈夫だ! セルカンはピンピンしている! ただちょっと仕事があってバブルンに残って貰ってるんだ。重要な仕事だから内容までは言えないけどね!」

その重要な仕事とは機械にくすぐられてピンピン……ではなく、ビクンビクンする仕事である。色んな意味でとても人には言えない仕事だった。

「無事ダッタアルネ? 良カッタアル! ト、言ッテルアル」

 サビーナは安堵して固かった顔を綻ばせたが、その無垢な笑顔ですらイゾルテには自分を責めているように思えた。テ・ワの怪しい通訳を介したからだろうか? それともイゾルテの胸中にある罪悪感のせいだろうか? どっちにしてもとても口説ける空気ではないと悟り、イゾルテはさっさと部屋に戻って不貞寝することにした。明日には再びバブルンに向けての出港しなくてはならないから、どのみち夜更かしも出来ないのだ。


 明朝エロイーザが来る前に起き出したイゾルテは、寝ぼけたままサンダルを穿いた。いや、穿こうとした。しかしサンダルがあるべきところにサンダルがなく、代わりに置かれていたのは壮絶なまでに履きにくそうな物だった。

「これは……道化師の足長(スティルツ)(注1)かな?」

 足長スティルツとは、足のなが~~~い道化師がズボンの中で履いている、劇的に身長を嵩上げする道具である。形状としてはブーツに木の棒を縛り付けたような物だ……とイゾルテは思っていたのだが、彼女もわざわざズボンの中身がどうなっているのか調べたことは無かった。スカートの中だったら喜んで調べただろうけど。しかし彼女の前にある足長(スティルツ)らしき物は、少しばかり……というか、かなり想像と違っていた。

 まず単なる木の棒だろうと思っていた主骨格は、弓のように(しな)った黒い板{カーボン製板バネ}で出来ていた。そして使用者の足を固定する支柱からは何本か骨組みが伸びていて、それが黒い板{カーボン製板バネ}を支えているのだ。しかもその骨組みは完全には固定されておらず、クランクのように作動して黒い板{カーボン製板バネ}が弓が伸びたり(しな)ったり出来るようになっていた。そもそもサンダルっぽいベルトが付いていなければ、イゾルテもこれを履物だとは理解できなかったところだろう。

「想像してたよりずっと凝った作りだったんだなぁ」

イゾルテは感心しながら足長{ジャンピング・スティルツ(注2)}を立てかけて上から力を加えてみると、黒い板が弓のように引き絞られてぐぐぐっと沈み込んだ。

「なるほど、複雑な機構はこのためか……」

イゾルテはその点は納得したが、そもそもなんで沈み込む必要があるのかは良く分からなかった。もこもこの中敷きみたいなクッション性を追求した結果がこれなのだろうか? だがその疑問はすぐに解消された。不安定な姿勢で押さえ込んでいたせいで手が滑り、たわんだ黒い板の反発力で足長{ジャンピング・スティルツ}が跳ね上がったのだ。

 ゴツっ

()ぅ~~~っ!」

鼻を強打したイゾルテはベッドの上を転げ回った。目から星が飛び出るほどの激痛だったが、おかげで彼女の目は覚めた。目さえ覚めれば、彼女の冴えた思考の前に全ては明々白々だった。

「足長はこんな反発力を持っていたのか……。なるほど道化師たちが軽々と宙返りしてみせる訳だ」

普通の足長{スティルツ}を知らないイゾルテは、すっかりこのヘンテコな足長{ジャンピング・スティルツ}を一般的な足長{スティルツ}だと思い込んでいた。もちろんこんな所にある以上は神からの贈り物だろうし、実際金属パーツの加工精度などは人の手では再現不可能だろうとは思っていた。だが一般的な羽ペンとインクのいらないペン{ボールペン}のように同じ用途の物だと思ったのである。

「しかし、なんで足長{スティルツ}? こんなの貰っても……はっ! ま、まさか!?」

目が覚めたイゾルテは頭も冴えていた。

「先日の海戦の無様さを見て、漕ぎ手たちも戦闘に参加できるようにバランス感覚を養えと言うことじゃないか? ……この足長(スティルツ)を使って!」

確かにこんなのを履いて日常生活を送っていたら、どんなに船が揺れようと足を取られることはなくなりそうだ。イゾルテは目から鱗が落ちる思いだった。だがどんなに良い方法だろうと、こんなヘンテコなものを見せられて喜んで履く者はいないだろう。

「まずは私が試してみるか」

率先垂範(そっせんすいはん)は上に立つ者の義務である。部屋の中でこっそり試してみようとしているのも、みっともない姿を人目に触れさせないように事前に十分な練習をしておこうというのであって、決して新しい玩具を試してみたくてうずうずしている訳ではない。ムルクスに見つかって怒られるのが恐いからでもないのである!

 イゾルテはベッドの上で足長{ジャンピング・スティルツ}を両足に装着した。膝と足首、そして足の甲をベルトで固定するだけだから迷うことはない。簡単である。ちょっと姿勢は辛かったけど、体の柔らかいイゾルテにはたいして苦にはならなかった。……ここまでは。

「あれ? これ、どうやって立てば良いんだ?」

イゾルテは途方にくれた。なにしろ足の膝から下だけが50cmも延びているのだ。足首も曲がらない。どう考えてもちょっとやそっとでは起き上がれそうになかった。それでもイゾルテはネックスプリングでベッドの上から飛び起きようとしたり、大胆にも大股開きになってM字開脚してみたりと様々な手段を試みたが、それらは悉く失敗した。彼女はぜーはーと荒い息を吐きながら、ベッドの上にひっくり返った。裏返しになった亀もこんな感じに途方に暮れるのだろうか? 

「なんということだ、軽業どころか立つことすら出来ないとは……!」

身の軽さに対するイゾルテの自信がガラガラと音おたてて崩れ落ちようとしていた。だが彼女は皇帝である。誇りあるプレセンティナ皇帝たる者、足長{スティルツ}一つ上手に履けなくてどうするのだ! 歴代皇帝の中には自ら剣闘士まで演じた者(注3)がいるというのに! (錯乱中)

「まだだ。まだ諦めないぞ……!」

イゾルテは横になったままベッドから転げ落ちると、そのまま床を這いずって机に辿り着いた。そして椅子の上に這い上がり、机の上に乗り上げて、ようやくまともに座ることができた。埃だらけにはなったが、皇帝の誇りには代えられないことだ。

「長い道程(みちのり)だった……。だが私はついにここまでたどり着いたのだ!」

単に高い位置に座っただけである。だがさすがに机くらい高い位置に座れば、膝下が1m近く長くても体操座りにならなくて済む。立ち上がるのも容易だ! まあ、初めから机に腰掛けて足長{ジャンピング・スティルツ}を装着すれば何の苦労も無かっただろうけど。

 イゾルテは壁に手を突きながら恐る恐る立ち上がると、ゆっくりとその第一歩を踏み出した。……いや、踏み出そうとした。

「ふわわわわっ」

片足に体重をかけた瞬間に体が沈み込み、彼女は慌てて足を戻そうとした。だが足には足長{ジャンピング・スティルツ}があって思うようには動かせず、彼女はますますバランスを崩した。

「はっ、よっ、とっ!」

なんとか転ばないようにと千鳥足でダンスを踊っていると、ノックもなく突然ドアが開いた。

「陛下ぁ、うるさいですよぉ」

「わわわわっ! バ、バカ者ぉぉおぉ!」

入ってきたエロイーザにぶつかりそうになったイゾルテは、とっさにドアのすぐ脇の壁に向けて片足を伸ばした。

 ドンっ!

壁に足を付いたことでようやくイゾルテは静止することが出来たが、目の前で壁を強打されたエロイーザも驚いて凍り付いた。

「……こ、これが噂のぉ……壁ドン?」

「違うわっ! ……って、おっととと!」

イゾルテは思わず怒鳴ったが、そのせいで再びバランスを崩しかけた。だが主の危機を無視してエロイーザはクネクネと照れまくった。

「陛下の気持ちは嬉しいですけどぉ、私にはダーリンがいますからぁ。でもでも、内緒にしてくれるんなら一度くらいはぁ……」

「だから、お前に対してそんな気は微塵も無いっ!」

「えっ? じゃあぁ、なんでネグリジェ姿で大股開きになってぇ、私の目の前に股間を突き出してるんですかぁ?」

言われてみればイゾルテは起き抜けのまま着替えていなかった。ほとんどパンイチに近い状態でお立ち台でポーズを決めているような状態だ。ディオニソス神殿で密かに舞われているという噂のムフフな踊りも斯くやという大胆さである。(注4)

「えーと……柔軟体操?」

「…………」

 片足を壁についてバランスを取る姿勢は、確かにある種の柔軟体操のようである。目を醒ますためなら寝起きに半裸のままやっていても不思議ではない。しかし寝起きに半裸のまま足長{ジャンピング・スティルツ}を履くのは明らかに異常であった。

「……そ、そんなことより頼みがある! 私を抱き……」

「抱き寄せろぉ!? やっぱりぃ!」

「いや、だから抱き……」

「抱きしめろぉ!? 分かりましたぁ!」

両手を広げて抱きついてきたエロイーザに、イゾルテも両手を広げて抱き返した。しかし彼女は同時に怒鳴った。

「そうじゃなくて、抱きかかえて運んで欲しいんだ!」

「ベッドに運ぶんですねぇ? ダーリンもよく私をベッドに運んでくれるんですよぉ♪」

「…………」

 今のエロイーザには何を言ってもエロい発想にしかならないようである。恋人のコロテス男爵と離れ離れになっていて欲求不満なのだろうか? 相手がテオドーラやニルファルだったら、イゾルテにとってもこんなに嬉しいことはないだろう。残念なことである。

「そうじゃなくて、机に運んで欲しいんだよ」

「えぇーっ! 机の上でするんですかぁ? 背中が痛いですよぉ?」

実経験に基いた発言だろうか? イゾルテはツッコミを入れかけたが、どんな答えが返ってきても嬉しくないと悟って思い止まった。

「そうじゃなくて、机に座って脱ぐだけだから!」

「脱ぐのってぇ……パンツですねぇ!」

 もちろん脱ぐのは足長{ジャンピング・スティルツ}である。だが仮にパンツだったとしても、今まで何度も何度も着替えや入浴を手伝わせてきたのに、何で今更興奮できるのだろうか? イゾルテは頭を抱えたかったが、今の体勢では身動きすることさえ覚束なかった。だからイゾルテはエロイーザの背をそっと叩いて優しく諭した。

「正気を取り戻せ! 私の知っているエロイーザはもっと慎み深い女だ。

 だってお前は……色気より食い気だろ?」

「…………」

結局秘蔵の砂糖菓子を提供することで、エロイーザはイゾルテを机まで運んでくれた。


 翌日北に向けて出港する時には、イゾルテは「海賊を統率しないといけない」と称して海賊の旗艦に乗り込んだ。当然ゲルトルート号に乗らなくてはならないムルクスは何だか寂しそうな――しかし傍目には嬉しそうな――笑顔を見せて、イゾルテは少しばかり罪悪感を感じた。だがこれも仕方のない事なのだ。遊んでるとムルクスに怒られるから!

 部屋の中で練習したおかげですっかり普通(?)に歩けるようになった彼女は、海賊船に於いてついに足長デビュー(?)を果たした。ガシャ、ガシャ、と異様な足音をさせながら異様に身長の高いイゾルテが丸兜で天井をこすりながら現れると、海賊たちは呆然とした。

 海賊たちにとってイゾルテは謎の存在である。まず真っ白な肌に金髪という姿でどうみても異人種だ。トリスともユイアトともイゾルテとも名乗っていて、先日の戦いでは敵の前でプレセンティナの皇帝だと大見得を切っていた。それはさすがにハッタリだとは思うのだが、子飼いの部下(近衛兵たち)がプレセンティナ人なのは確かなようだし、何でかスエーズ軍にも異様に顔が利くし、更には突然現れたプレセンティナ艦隊の指揮官にまで敬語を使われていた。……まあ、その指揮官が一兵卒にも丁寧語で話す変人だということや、彼がイゾルテに便所掃除を強制したことなども分かって、やっぱり皇帝というのはハッタリだということになっていたのだが。そんな謎の親分が謎の機械を履いてきたのだから、子分たちが戸惑うのも当然だった。「まあ、親分のことだから……」という納得感を伴っていたことも否定はできないが。

「わははは、野郎ども、親分に対して()が高いぞ! あ、()が高いのは私か! あはははは!」

足長{ジャンピング・スティルツ}を装着して2mに近い身長になったイゾルテは、人を見下ろす快感に酔っていた。人よりちょっと目線が高いだけでなぜこんなに気持ちが良いのだろう? 他人の体がじゃまにならずに遠くまで見通せるからだろうか? ルキウスの肩に乗っていた子供の頃のことを思い出すからだろうか? まあ、単純に身長が低いことにコンプレックスを感じているからなのだろうけど。

 最初こそ戸惑っていた海賊たちもすぐに彼女の異様な風体(ふうてい)にも慣れ、彼女に好意的な目を向けるようになった。当然のことだ。イゾルテは黒タイツに短衣(チュニック)という割と普段から見せている動きやすいが色気のない格好をしていたのだが、この短衣(チュニック)の裾が通常より50cmも高い位置にあるとその事情は大きく異なってくる。階段を2~3段くらい昇ったところでその裾をヒラヒラとさせているのだ。見えそうで見えない! いや、タイツを穿いているから決して見えないとは分かっているのだけど! だが猫に猫じゃらしを見せれば否応なく注目してしまうように、短衣(チュニック)の裾がヒラヒラする度に注目してしまうのが男の本能なのである。海賊たちの熱い視線を受けてイゾルテは調子に乗った。

「お前たちに良いものを見せてやろう!」

イゾルテは階段を駆け登って甲板に飛び出ると、両足を揃えてぴょーんとジャンプした。その跳躍力は凄まじく、まっすぐに上に伸ばされたイゾルテの指先は4mにまで届きそうだった。跳び箱のように足を開かなくても(普段の)イゾルテくらいなら飛び越えられそうな跳躍力である!

「親分すごい!」

「最高ですぜ!」

「やっぱり白が一番だよな!」

海賊たちの喝采に――若干引っかかるところはあったが――イゾルテは満面の笑顔を浮かべた。

「はっはっは、ありがとう! ではもっと見せてやろう!」

イゾルテはその場でぴょんぴょんと何度も大ジャンプを繰り返し、調子に乗って宙返りまでしてみせた。常人なら躊躇しちゃいそうな高さだが、マストに登るのが大好きな彼女は高さに対する危機感が麻痺しているのだ。

「わはははっ!」

「親分、素晴らしいッス!」

「ああ、良い物が見れた……!」

そうこうしている内に騒ぎを聞きつけた漕ぎ手達までもが甲板に集まって来たが、高く高く舞い上がるイゾルテを見て彼らも一様に目を見張った。


「ぶっ、ぶらっ……!」


「馬鹿! 本人に気づかれたらどうする!」(コソッ)

「そうだ、親分に気付かれたら止めちゃうだろ!」(コソッ)

「あっ! え、えーと、ブラ……ボーだ! そう、俺はブラボーと言いたかったんだ!」

ブラボーという賛辞はタイトン語のものだが、きっと近衛兵たちが何かの拍子に口にしたのを覚えていたのだろう。(注5)

「そうだ! ブラボーだ!」

「親分、ブラボーです!」

タイトン人のイゾルテに対する賛辞ならタイトン語で贈りたい、なんと美しい思いやりだろうか! そんな彼らの温かい心に彼女の胸は熱くなった。なんだかジャンプする度に短衣(チュニック)(まく)れ上がってすーすーしていたので、ちょうどいいくらいである。

「ありがとう、みんな! バブルンに着いたらお前たちの分も作ってやるからな!」

「「「えっ?」」」

海賊たちは戸惑ったが、それはきっとこんなに楽しい物を貰えるとは思っていなかったからだろう。だがそれは玩具だと思って遠慮しているだけなのだ。きっと。

「遠慮は要らん! これは玩具じゃないぞ? こうして楽しくバランス感覚を鍛えるのだ! 訓練なのだ! 分かったな?」

「「「へーい……」」」

海賊たちは頷いたが、やはりあまり気乗りしていない様子だった。ひょっとして上手く乗りこなす自信が無いのだろうか?

――さもありなん。私ほど身の軽い者は船乗りにも多くないからな!

「安心しろ、私がコツを教えてやる! ひとまずバブルンに着くまでは私の動きをよーく見ておくが良い!」

「「「…………!」」」

イゾルテの言葉に力づけられたのか、海賊たちは目を輝かせた。

「「「分かりました、親分!」」」


 イゾルテは航海の間足長{ジャンピング・スティルツ}であそ……訓練を続け、海賊たちはその様子を熱心に見守った。ユイアト海賊団の結束がますます強固なものとなったことは言うまでもない。

注1 「足長(スティルツ)」は"脚に装着して人間を嵩上げする棒状の器具"です。パレードとか大道芸で見かけるやつですね。

またの名を「西洋竹馬」ともいいますが、(日本式と同じように)手も使う竹馬も「stilts」と言うので、混同しないように「足長」を使いました。

高下駄みたいに履くだけではなくて、ブーツの横に棒をぐるぐると紐で縛り付けた感じですね。がっちり固定されます。

いざという時にさっと飛び降りられないので初心者にはとっつきにくい道具です。

ちなみに「stilts」は英語ですが、グーグル翻訳によるとラテン語でも「stilts」のようです。


注2 |ジャンピング・スティルツ《Jumping Stilts》は「足長(スティルツ)」にバネの機能を付け足したものです。

見た目の印象と機能性はパラリンピックのアスリート用義足が近いです。

乗った印象は小さな2つのホッピングに載ってる感じです。固定されていない分、竹馬よりも歩きにくいです。

しかしyoutubeで「Jumping Stilts」で検索すると、普通に足を揃えてジャンプするだけで相当にジャンプできるみたいです。バク宙なんかをやってる動画もいっぱい見つかります。

その代わり単にコケるだけでも50cmの台から落っこちるのと同じダメージがありますから、ヘルメットやニーパッド、手袋も必須です。


注3 哲人皇帝マルクス・アウレリウスの子、コンモドゥスのことです。

大したことしてないネルウァ帝までが五賢帝に数えられてるのに、六人目になれなかった残念な皇帝です。

剣術が趣味でしたがうっかりゲルマン人と講和しちゃったので平和になってしまい、「うぉぉぉ、戦いてぇー!」ということで剣闘士として戦いました。アホです。

結局暗殺されて死にましたが、まあ、ローマの皇帝にはよくある末路です。

一時期記録剥奪刑ダムナティオ・メモリアエにされますが、彼の死後の内乱のほうが10倍酷かったからかあっさり名誉回復されました。


注4 ディオニソス=ディオニュソス

ディオニュソスは酒と享楽の神で、女を酔っ払わせて乱痴気騒ぎをすることで有名です。

……あれ? ギリシャ神話では、別にディオニュソスに限らないような……?


注5 「ブラボー(bravo)」はラテン語由来だそうで、更にもともとはギリシャ語の「バルバルス(barbarus)」に由来してるそうです。

蛮人(バルバロイ)の単数形もバルバルス。そう、もともと「野蛮」という意味だったのです。

しかしそれがフランス語の「brave」で意味が裏返しになり、「勇敢」というプラスイメージになります。ゲルマン人が改竄したのでしょうか?

そして「ブラボー」「ブラボー」と褒め称えているうちに「素晴らしい」的なオールジャンルに使える賛辞になっちゃいました。

「おお、なんと繊細で美しい音色だろう! この野蛮人め(ブラボー)!」

もう、訳が分かりません。

一応イタリア語では相手が男性か女性か、一人か大勢かによって語尾変化するらしいですが、英仏独語圏ではあんまり気にしてないようです。



投稿が遅れた理由ですが……

ジャンピング・スティルツを調べていたら何だか欲しくなり、欲しくなったらポチッてしまい、ポチッた以上は現物を見ないと。現物が来た以上は履いてみないと。ああ、でもヘルメットも買わないと。あ、アクションカメラも買っちゃうか!

というわけで、買いました。履きました。ぷるぷるしながら立ちました。そして(数歩だけ)歩きました! (←イマココ)

両足ジャンプはまだ無理です。だってまだ一歩も家から出てませんから!

しかしこのおかげで貴重な経験を作品に反映させることが出来ました。

装着した後に立ち上がれなくて途方に暮れる感覚は、実体験に基づいています! (そこだけ)

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