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太陽の姫と黄金の魔女  作者: 桶屋惣八
第8章 ムスリカ編
279/354

水縞

すみません

前話投稿から間が空いてしまいました

あと今回、かなり短いです

 元旦を二日酔いで寝て過ごしたイゾルテだったが、さすがに翌日には起き上がった。どうせ連絡待ちなのだから寝てても良いのだが、放っておくと海賊たちがだらけてしまうかもしれない。それにベッドに寝たままでは、小さい人形{美少女フィギュア}のパンツは見れても大きい人形{リアルドール型ドリンクサーバー}のおっぱいの感触を楽しめないのだ。

「陛下ぁ、失礼しますぅ」

ノックも無しにエロイーザが入ってくると、イゾルテはささっと大きい人形{リアルドール型ドリンクサーバー}の衣服を正した。

「もう大丈夫なんですかぁ?」

「ああ、ちょっと酒を飲み過ぎただけだ」

「じゃあ食事を持って来ますねぇ。そっちの人のと合わせて二人分ですかぁ?」

「いや、ちょっと待て。彼女……じゃなくてコレは人形だ」

「え……? 人間でしょー?」

「むちゃくちゃリアルだけど、本当に人形だから。ほら、鼻を見てみろ」

「あっ……穴がないですぅ!」

鼻の穴は窪んでいるだけでそれほど奥行きはないのだ。神ともあろうものが何という手抜きだろうか!

――見えないところの穴は何故か再現されてるんだけどな……

何ともタイトンの神々らしいこだわりだった。そしてそれを確認してるところも、実にイゾルテらしかった。

「すごいですぅ! でも、なんでこんな人形がここにあるんですかぁ?」

「え、えーと……誕生日プレゼントだよ!」

「どなたからのぉ?」

「それはもちろん……」

イゾルテはルキウスの名を出そうとしたが、思い直した。ルキウスが娘に卑猥な人形を贈ったと噂が立ったら、大変なスキャンダルになるかもしれない。

「……爺からだ! もちろん卑猥な目的のためじゃなくて、影武者用にだぞ! ほら、まるで生きているかのようだろう?」

「うーん……」

確かに生きているかのようではあったが、イゾルテにはあまり似ていなかった。

「せめて鬘は金髪にすべきじゃないですかぁ?」

「そ、それはだから、私の鬘と入れ替えるんだ!」

人形{リアルドール型ドリンクサーバー}から栗色セミロングの鬘をむしりとると自分でかぶり、人形には代わりにトリスの髪をかぶせてみた。確かになんとなくトリスっぽい印象になった。

「さらに仮面だ!」

白い仮面はセルカンにやってしまったので、赤い怒りの仮面をかぶせてみた。赤いガウン{襦袢}によく映えて、なんだか鬼気迫る迫力があった。

「でもぉ、体格が全然違いますよぉ?」

身長も人形の方が5cmほど高いのだが、エロイーザの視線は人形の胸元に向けられていた。こっちは5cmどころかその倍以上の開きがある。小さい物を大きく見せることは可能だが、その逆は大変に困難だ。わざわざおっぱいを大きく作る必要がどこにあるのだろうか? イゾルテはゴクリと唾を飲み込んだ。

「じ、爺に身長とスリーサイズを聞かれた時に、サバを読んだんだよ……」

「なるほどぉ~」

それはとっても説得力のある説明だった。


「ところで陛下ぁ、私からもプレゼントですぅ~」

エロイーザは小さな紙袋を差し出した。

「おお、珍しいな。いつもは料理の失敗作を食べさせようとするだけなのに」

「ちゃんと成功してますぅ! ちょっと口に合わないだけですぅ!」

それを成功と呼ぶ神経の太さを、イゾルテは少しだけ羨ましいと思った。

「まあ、いい。それで今年は何をくれたんだ?」

袋を開けてみると、そこにあったのは……パンツだった。しかも水縞の。

「……意味深だな」

これを身に着けたところを見せて欲しいというアプローチだろうか? まあ、いつも着替えを手伝ってるんだから下着姿どころかフルヌードまで見慣れてるはずなんだけど。

「そうなんですかぁ?」

「違うんかい! じゃあ、なんでパンツなんかプレゼントしようと思ったんだ?」

「え? だって小さい人形{美少女フィギュア}のパンツを褒めてたじゃないですかぁ」

「…………」

確かにイゾルテは水縞のパンツを気に入っていたが、それは他人が穿いているのを見るのが楽しいのだ。自分が穿いてどうするのだろうか? 少なくともイゾルテは、自分の下着姿を人に見せて喜ぶ趣味など持っていなかった。

「まあ、とりあえず、ありがとう。ところでこんな布よくあったな」

「海賊の人に言ったら取り寄せてくれましたぁ。いっぱい作らせたそうですよぉ」

「……いっぱい?」

「皆さんも一緒に作ってましたぁ。男の人でも裁縫するんですねぇ」

「…………」

 イゾルテは髭面の海賊たちが揃って可愛らしい水縞の三角パンツを穿いている姿を想像した。すごい破壊力だ。パンツ一丁のまま敵船に乗り込んだら、それだけで敵は戦意を喪失するかもしれない。問題は味方の戦意まで打ち砕いてしまいそうなことだったが……。

「ホントは皆さん、昨日のうちに陛下にお見せするつもりだたんですよぉ。サプライズですぅ」

「それは確かにサプライズだ……。それをバラしちゃうお前にはガッカリだが、今回だけは良くやったと言っておこう」

何の準備もなしにそんなのを見せられていたら、心臓が止まっていたかもしれない。神酒(ネクテー)を飲んだばかりの彼女でも、それは耐えられそうになかった。……精神的に。

「そうだぁ! せっかくだから食堂で食べたらどうですかぁ? 皆さんちゃんと身につけてましたしぃ」

「い、いや、待て! 心の準備と言うものがあってだな!」

「元旦から寝込んでたからバツが悪いんでしょー? そんなこと言ってるとどんどん出て行きにくくなっちゃいますよぉー」

身軽さでははるかにイゾルテが勝っているのだが、力と体重ではエロイーザの方が遥かに上だ。ガシリと腕を掴まれたイゾルテは逃げ出すことも叶わず、食堂までズルズルと引きずられていった。

「誰かぁー! 助けてくれぇー!」

だがそのイゾルテの悲鳴が逆に海賊たちを呼び集めてしまった。海賊たちがぞろぞろと集まってきて、食堂は水縞だらけになった。

「親分の声だ」

「どうしたんすかー?」

白地に水色の横縞の入ったシャツ(◆◆◆){ボーダーシャツ}だらけに。

「……微妙だなぁ」

パンツよりは全然マシだったが、海賊のくせになんだかすごく軟弱そうな印象である。

「あれ、親分? 髪切っちゃったんですか? もったいない!」

「色も染めちゃったんですか?」

「黒髪ロングも良かったけど、栗毛も可愛いなぁ。イメチェンですか?」

「俺達のシャツもどうっスか? 親分が水縞好きだと聞いて揃いで(あつら)えたんですよ!」

自慢気にシャツを引っ張って見せつけてくる海賊たちに、イゾルテは頬を引きつらせた。なんだか見た目だけでなく内面まで軟弱になっている気がした。

「……まあ、イメージは変わったな。チェンジには成功してると思うぞ」

「「「やったーーー!」」」

イゾルテの言葉に海賊たちは大喜びだった。なんと軟弱なことだろうか。大きな戦いを前にしてこんなんで良いのだろうか?

――いや、コイツらはもともと真っ当だったのに海賊に堕ちた連中なんだ。真っ当に戻ったことを喜ぶべきなんだ。

イゾルテはそう考えることにした。こんなのが真っ当なのかどうかはともかく、海賊っぽくないことは確かだ。それに、イゾルテを慕ってくれていることも。

――私とこの者達は一蓮托生だ。次の戦いも必ず勝つぞ!

「あっ、そうだ! こっちもお揃いにしたんですよ。見て下さい」

海賊たちがベルトをガチャガチャといじり始めた瞬間、イゾルテは全力で食堂から逃げ出していた。

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