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太陽の姫と黄金の魔女  作者: 桶屋惣八
第8章 ムスリカ編
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神酒

贈り物として「大人のおもちゃ」が初登場です

いろんな意味で「大人のおもちゃ」です

 イゾルテにとってのヘメタル歴1526年は静かに訪れた。年越しの宴会もなければ、新年の祝賀会の予定もない。彼女のいる掘っ立て小屋のようなアジトの周りには幾つかの兵舎もあるはずだが、皆騒ぐこともなく寝ているようだ。嵐の前の静けさである。

 彼女がいるのはペルージャ湾の出口であるホームズ海峡に面したムサイガンダム半島の入江に作られたアジトだ。ビルジ艦隊が対岸のアカンタレ・アッパースに入ったという知らせを受けて、彼女はいつでも動けるように戦闘用艦艇の大半を複雑な入り江を持つこの半島に集結させていた。セルカンの工作がどう転ぶにしろビルジ艦隊との決戦は避けられない。だから彼らがペルージャ湾内に入ったところを横合いから襲いかかって、一網打尽にしてしまうつもりだった。

 といってもユイアト海賊団で戦闘に耐え得るのは30隻に満たず、この場に集結しているのは21隻に過ぎなかった。火力戦が出来るのは旗艦1隻だけだから、他は昔ながらのガレー船だ。そのガレー船も、一応急造の投石機を積んで散弾を放てるようにしていたが、実際の戦闘時には切り込んでの白兵戦がメインになる。海賊たちを無制限に受け入れる訳にもいかなかったから、船があっても兵員が足りないのだ。戦えない船はバブルンの市民を非難させる仕事に従事していた。

 そのためキメイラを積んだ旗艦の働きが勝敗の行方を左右するのだが、その火炎壺の残りが心もとなくなっていた。そもそもキメイラ一台分の火炎壺しか持って来ていないのだ。これまでは火炎放射器や火炎樽から軍用酒精を取り出し、現地で用意した油と壺を使って急造の火炎壺を作って来たのだが、そんな涙ぐましい努力をしても残りはたったの5つしかなかった。1分で撃ち尽くしてしまう数である。次の戦いはいきなりの正念場になるだろう。

 彼女はベッドで目覚めると、天井を見つめたままつぶやいた。

「今年も……大勢人が死ぬのだろうな……」

そして恐らくは、その半分を殺すのは彼女自身であろう。だが彼女がこのままベッドの中で毛布をかぶって震えていれば、その何倍、何十倍の人々が死ぬことになるだろう。彼女はのそりと起き上がった。

 だが、そこで彼女はベッドの脇に立っていた人物と目が合った。

「うわっ! だ、誰だっ!」

イゾルテは叫んだが、答えは無かった。その若く美しい女性は、ぼーっと突っ立ったまま気だるげな視線をじっとイゾルテに向けるだけだった。イゾルテはその無言の圧力にゴクリと唾を飲み、少し視線をそらして再びゴクリと唾を飲み込んだ。

 その女は赤い薄手のガウン{襦袢(じゅばん)}を着ていたが、大きく開いた襟の間からは白くて大きな胸が零れ落ちそうだった。もうちょっと引っ張れば乳首まで丸見えである。っていうか、むしろ「引っ張れ」と催促しているかのような着崩し方だ。そしてその整った顔にも白雪のような肌にもシミひとつなく、薄く開いた肉厚な唇だけが、そのガウン{襦袢(じゅばん)}のように真っ赤だった。

――実に……色っぽいではないか!

こんな格好で寝室に忍び込んだということは、きっと夜這いが目的だったのだろう。

――さては私が殺した海賊の情婦か? おそらくは海賊に襲われ、その首領に媚びることで生き永らえてきたのだろう。その首領が死んだことで、今度はこの海賊団の首領であるユイアトに夜這いしようとしたのだ。しかしその正体が女の私だと知って、途方に暮れているのだな……

 哀れな話である。彼女は男に身を捧げることしか生きるすべを知らないのだ。そのぼーっとした様子を見る限りでは、精神を病んでいる可能性もあった。海賊を一掃するだけでなく、彼女のような海賊の被害者も救わなくてはいけないのだとイゾルテは気づいた。

「安心してくれ。お前はもう、男に媚びる必要などないのだ。私がちゃんと保護してやる。いずれ真っ当な暮らしも出来るようにしてやろう」

「…………」

「急に言われても納得出来ないか? そうかもしれないな……。じゃ、じゃあ、どうだろう。とりあえず私に仕えてみるというのは……?」

「…………」

「い、いや、酷いことは何もしないから! ちょっと添い寝したり、いっしょに風呂に入ったり、マッサージしたりするだけだから!」

「…………」

「迷っているのか? 大丈夫だって。なーんにも怖いことなんてないからさぁ」

「…………」

空中を揉みしだくように両手をにぎにぎとさせながらイゾルテがにじり寄っても、彼女は微動だにしないまま立ち竦んでいた。

「…………?」

流石におかしいと感じたイゾルテがじっと観察してみると、彼女は一度も瞬きをしていなかった。しかもどこから持ち込んだのか小さな円形テーブルにすっぽりとはまり込んでいて身動きが取れなくなっているようだった。

「……そのテーブル、お前が運んできたのか?」

「…………」

答えはなかった。脱出できなくて途方に暮れているのだろうか?

――こいつが持ってきたのでなければ、このテーブルは贈り物だろう。ひょっとすると、突然このテーブルが出現してすぽーんと嵌っちゃったのか?

イゾルテは青くなった。贈り物を見られるのもマズイのに、出現するところまで見られてしまっては言い訳もできない。しかも相手は見ず知らずの女なのだ! これはもうどこかに監禁して何でも言うことを聞くようになるまで調教……じゃなくて説得するしかないではないか! 苦い選択である。だがやむを得ないのだ! イゾルテはジュルリと涎をすすった。

「このテーブルのことは口外するな。絶対にだ。もし漏らせばさすがの私も見逃す訳にはいかん。分かったら頷け」

「…………」

女は無言のまま頷かなかった。こうなっては強硬手段を取るしかない。イゾルテは小躍りしそうになった。

「……私を脅しているのか? 良い度胸だ。私を怒らせたらどうなるか思い知るが良い」

イゾルテは女の襟を掴むとぐいっと左右に開いた。彼女の形の良い大きな胸は、当然ながらぽろんと顕になった。

――おおおおおっ!

イゾルテは内心で歓喜の悲鳴を上げたが、女の方は全てを諦めたかのように微動だにしなかった。

「……どうした? 乱暴しちゃうぞ? 具体的にはおっぱいをギュギュッっと揉んじゃうぞ? 」

「…………」

女はやっぱり無反応だった。

――言葉が分からないのかな? でも、それならそれで反応くらいあっても良さそうだけど……。ひょっとして良く出来たビスク・ドール{注1}なのか?

イゾルテは恐る恐る彼女の肌に――具体的にはおっぱいに触れてみた。

「冷たっ!」

女の肌の死人のような冷たさに驚きながらも、イゾルテは手を離さずそのままさわさわと軽く撫でてみた。やはり女は無反応だったが、その肌触りには焼き物にはあり得ない弾力と、布にはあり得ない張りと重みがあった。しかし人間の物とも微妙に違うように思えた。

「……死体なのか? でも、死後硬直する前なら立ってられないし、死後硬直した後ならおっぱいだってこんなに柔らかくないだろうし。そもそも死臭がしないんだよなぁ……」

イゾルテは考え込みながらも、女のおっぱいをもみもみと揉みしだいた。死体である疑惑が残っているのに平然としたものだ。死体慣れし過ぎである。

――うーむ、なかなかよい感触だ。女性の胸とはこんな感触だったのか……?

彼女は風呂場で様々な女達の胸を揉んで……いや洗ってきたのだが、それは海綿やタオル越しに擦っただけのことだ。生乳を遠慮無く揉みしだくのなんて初めてのことである。今までは一度だって無かった。自分のだって揉めるほどないから!

「素晴らしい。この生々しいとても死体とは思えない。ということは、お前は単に冷え性なのか?」

「…………」

女はやはり無反応だった。

「そうか、そういう態度を取るのなら、次の段階に進むしかないよな?」

「…………」

女が無反応なことを良い事に、イゾルテはその唇を女の胸に近づけた。ここからは正真正銘の初体験だ。いや、きっと大昔にはゲルトルートの乳を飲んだはずだから、それ以来ということだろうか。

――ああ、そういえば今日は私の誕生日じゃないか。ひょっとするとこの女も贈り物なのかもしれないなぁ……

イゾルテはドキドキしながら女の乳首に唇を近づけ……はたと気付いた。その可憐な桜色の乳首には、何故か穴が開いていたのだ。針穴とかではなく、5mmほどもある歴とした穴だ。

「え? ナニコレ? え?」

混乱するイゾルテの顔に、まさにその穴から得体のしれない何かが襲いかかった。

 ピュピュッ!

「きゃあああ!!!」

イゾルテは絶叫すると、顔を押さえてしゃがみこんだ。

「陛下!? 入りますよ!」

悲鳴を聞きつけたエロイーザが寝室に突入すると、彼女はそこでとんでもない光景を目撃してしまった。すけすけのネグリジェを着たイゾルテが、不審者の目前にしゃがみこんで「目が、目がぁ~!」と叫んでいたのだ。おっぱいを丸出しにした若い美女という不審者の前で!

「……失礼しましたぁ~。ごゆっくりどうぞぉ~」

エロイーザはそそくさと出て行った。


「……エロイーザに見られてしまったのは失策だが、どうやら上手く誤魔化せたようだな」

イゾルテはネグリジェの裾でゴシゴシと目の周りを拭くと、唇に残っていたその液体をペロリと舐めた。それは女の乳首から吹き出した物ではあったが、明らかに母乳ではなかった。なにしろ酒精{アルコール}が入っていたのだから! 彼女は顔にかかったその酒精{アルコール}の匂いを嗅いだ瞬間、その霊感によって全てを理解していた。

「美味しい……さすがは本物の神酒(ネクテー){日本酒}だ! しかもその神酒(ネクテー)を注ぐためにガヌメーデスの人形{リアルドール型ドリンクサーバー(注2)}まで送ってくれるとは! いや、女性型だからガヌメーダと言うべきか? しかも水瓶から注ぐのではなくおっぱいからぴゅーだぞ、ぴゅーっ! 素晴らしいセンスだ!」

彼女はこれほどまでに神の感性に共感を持ったことは無かった。

言祝(ことほ)げ! 讃えよ! タイトンの神々よ、感謝を捧げます!」

彼女は祈りを捧げ終わると、再びガヌメーダ人形{リアルドール型ドリンクサーバー}に飛びついた。

「ビバ・ガヌメーダ! むちゅ~~!」

人形ならば遠慮はいらない。彼女は穴の開いている方の乳首にむしゃぶりつくと、もう片方の乳房を無茶苦茶に揉みしだいた。ガヌメーダ人形の乳房は微妙に変な味だったが、耐え難い程でもなかった。

「ふごふご。お、れてきた。(お、出てきた)」

ごくごくちゅぱちゅぱと神酒(ネクテー){日本酒}を飲みながら、彼女はひたすらおっぱいを揉み続けた。おっぱいを揉むことで神酒(ネクテー){日本酒}が出てくるのだ。そのどこまでも無駄な趣向はとてもタイトンの神々らしかった。

「あふぁりはみはふわらいい! (やはり神は素晴らしい!)」

彼女は酸欠になりそうになりながらもそのままごくごくチュパチュパもみもみと神酒(ネクテー){日本酒}を飲み干した。恐らく彼女は、正月早々二日酔いに悩まされることになるだろう。ついでに左手の手の平も筋肉痛になるに違いない。だが彼女に後悔はなかった。

 神酒(ネクテー){日本酒}は飲んだ者に不死性を与える神の酒だ。この困難な時期に神酒(ネクテー){日本酒}を贈られたということは、彼女に死の危険があるということなのだろう。それは逆に言えば、彼女に不死性が無いか、あるいはそれが衰えているということである。人の子たらんと欲する彼女にとって、それは何よりも嬉しい知らせだ。そして神酒(ネクテー){日本酒}を飲みさえすれば彼女に(再び)不死性が宿る。過酷な戦いを最後まで戦い抜く上で、これほど心強い味方があるだろうか?

「こにょたたかい、かならずかつのらー」

イゾルテはベッドに突っ伏すと、再び眠りの中に落ちていった。

注1 ビスク・ドールはアンティーク人形の一種で、かなりリアルな形状をしています。特にガラス球で出来た目がすんげーリアルで引きこまれそうになります。

もともと頭が陶器製で、その製造工程で二度焼き(ビスキュイ)をすることからその名が付きました。

ちなみにビスケットも二度焼き(ビスキュイ)にちなんで名付けられたそうです。

製造工程は全く一緒だけど乳脂肪分の割合で線引されているクッキーは、果たして何に由来するんでしょう?


注2 リアルドールというのはシリコン製で等身大の超リアル着せ替え人形です。しかも見た目だけでなくて触り心地も人肌に近いのだとか。

最近では歯科練習用ロボットなんかにも進出しているようですが、基本的には18禁なシロモノです。要するに超高級ダッチワイフですね。

でもマジでリアルなので『オー!マイキー』をこれで撮影してみて欲しいですね。

あるいは「動かないパントマイム」をしてる人の隣に設置してみたいです。普通にパントマインマーだと思わせれるかもしれません。触ってもバレないかも。

そしてリアルドールの派生商品の1つがリアルドール型のドリンクサーバーです。なんと、一式160万円!

右のおっぱいを揉むとスイッチが入り、お酒が内蔵(内臓?)チューブを通って左乳首からちょろちょろちょろ~っと出てくるのです。

仕掛け自体はしょぼいですが、リアルドールの圧倒的な存在感と、おっぱいを揉む、おっぱいから酒が出るという倒錯的なフェチズムを満足させる至高の逸品です。

いやまあ、私は見たことないんですけど。置いてある店に一度行ってみたい気もするけど、そんなのを置いてる店には行きたくないという二律背反……

ちなみにあくまでドリンクサーバーですので、おっぱいから出てくるお酒をコップで受けるのが正式な使い方です。

個人のペットボトル飲料みたいに直接口をつけてはいけません。ダメ、絶対。

……と言っておいても、酔っ払った客が舐めちゃいそうな気がしますが。

ちなみにポンプは電動とのことなので、たぶんコンセント電源ですよね。

でもまあそれだと動かないので、作中では手動ポンプということにしました。

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