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太陽の姫と黄金の魔女  作者: 桶屋惣八
第8章 ムスリカ編
235/354

要塞

 ヘメタル歴1525年9月22日、約一年の平穏を保ってきたペレコーポ要塞の前に騎馬の大軍が現れた。城壁の上にはビッシリとクレミア連邦の兵士が立ち並び、その手には弓が握られていた。彼らが緊張した面持ちで見守る中、騎馬軍の中から総大将らしい一際目立つ金ピカの騎士が豪胆にもただ一騎で城門の前にまで進み出た。

「かいもーん! 開門せよぉー!」

その声を聞いて城門の上に一際凶悪な顔をした男が現れた。

「俺は栄光あるクレミア連邦共和国の栄光ある国防大臣にして栄光あるペレコーポ要塞の栄光ある司令官だ。

 貴殿から命令される謂れはない! せめて頭を下げて頼んだらどうだ? 皇帝ルキウス!」

そう言ってとっても栄光に満ちた凶悪顔の大臣が金ピカ男をびしぃっと指刺さすと、その挑戦的な言動に緊張を孕んだ沈黙が両軍を包んだ。だが金ピカ男はその緊迫した空気をまるで気にしていないように肩を竦めると、ゆっくりとその金ピカの兜を脱いだ。そこから現れたのは……やはり、金ピカだった。

「ふっ、何か勘違いしてないか? 余は叔父上ではないぞ?」

「む……? で、では、そなたは何者だ!?」

「よくぞ聞いた! 余こそが天下に名を轟かす北方の獅子王、ズスタス2世である! いざ、開門せよー!」

その堂々とした物言いに、要塞に篭もる大臣と兵士たちは息を呑んだ。

「おい、聞いたことあるか?」(コソっ)

「いえ、初耳ですが……」(コソっ)

「追い返しちゃって良いのだろうか……?」(コソっ)

「いや、マズイでしょう。正式な命令が出てるんでしょう?」(コソっ)

「しかし、それはルキウス皇帝の率いるタイトン軍に対してだ」(コソっ)

「でもその甥だって主張してますよ。スラム人でもないのにあの金髪ですし、イゾルテ陛下の身内と言うのは(あなが)ち嘘ではないかと」(コソっ)

「むむむむ……」(コソっ)

大臣は悩んだが、ズスタスは答えが出るのを待つほど気が長くなかった。

「おーい、怖いおっさん! 早く開けろよー! 聞いてんのー? おーい! 怖い顔のおっさーん!」

「じゃかぁしいわ! 貴様のために開ける門などないわー!」

「何だと! 余がこうして頭を低くして頼んでいるのにか!?」

「どこがだ!」

「お前より低いだろ!」

「そりゃ立ち位置が低いだけだ!」

キャンキャンと吠え合う2人に両軍の兵士全てが頭をかかえた。どちらの軍も最も性格に問題がある者が総司令官なのである。

 そこにどこからか声が聞こえてきた。

「すいませーん、その門は開かないんですー! 偽物なんですよー! こっちの通用門をお通り下さーい!」

城壁の端の方でパタパタとプレセンティナの手旗を振りながらそう叫んでいたのは、メガネをかけた学者風の男だった。



 そもそもこの地にタイトン軍が訪れるという知らせは、8日前にプレセンティナの使者が持って来たものだった。(なぜか)ペレコーポ要塞の主将となっているテロリ……国防大臣は、政府を(勝手に)代表してこの使者を迎えた。

「モンゴーラ軍を挟撃するため、ケッチ海峡を越えたいと考えております。戦争全体の帰趨を決する重要な作戦です。是非とも国内の通過をご許可ください」

「我が国は歴とした独立国だ、他国の軍隊に国内を通行させろと要求される謂れはない!」

「いや、しかしですね、派遣されるのは全てタイトン諸国の軍ですよ? それにこの戦いは貴国にとっても無関係ではありません」

「タイトン諸国と言ってもハサールとの同盟軍ではないか! それに我が国の都市には城壁がなく無防備だということをプレセンティナは承知しているはずだ。ここを通すということは、どうぞ好きに占領してくださいと国を差し出すことに等しいのだぞ?

 『素通りするだけだ』と言ったら見も知らぬ男でも娘の寝所に通すのか? 通さないだろう!? 違うというのなら俺をイゾルテの寝所に連れて行ってもらおうか!」

 命知らずの言葉に使者は蒼白になった。彼はイゾルテの離宮にまつわる黒い噂(爆発騒ぎや異臭騒ぎ)や、彼女に常に付き従う血に飢えた猛獣(レオ)のことを知っていたのだ。

「え-と、本気で言っておられますか……?」

「えーい、とにかく要求は受け入れられん! とっとと帰れ!」

 こうして大臣は(勝手に)使者を追い返したのだが、わずかその2日後次の使者が再びやって来たのである。……裏門から。


「お久しぶりです、大臣閣下。政庁に戻って来られないので心配しておりました」

メガネをかけた学者然としたその使者は、クレミア連邦政府代表バラクシンの主席補佐官だった。上司を傀儡にして実質的に政府と議会を動かす影の支配者である。彼を国防大臣にして実戦部隊から切り離そうとしたのもこの主席補佐官の策謀だった。その策はイゾルテがうっかり指摘しちゃうまでは上手く行っていたのだが、騙されたと知った大臣はより意固地になってこの要塞に留まり続けていた。

「何の用だ。ここが軍事の最重要拠点である以上、俺はここから頑として動かないぞ!」

「しかしですね、こうして正式な命令を持参しているのですよ?」


『クレミア連邦政府第一級通達 32号

 発:クレミア連邦政府

 宛:国防大臣


  プレセンティナ帝国皇帝ルキウス陛下ノ要望ニ従ヒ、

  タイトン諸国連合ノ国内通過ノ便宜を図レ


             クレミア連邦政府代表バラクシン』


 首席補佐官の読み上げた通達は大臣が握りつぶしたはずの案件だった。つまりルキウスは海路を使って別の使者を直接政府に送っていたのだ。ぷるぷると震えながらその通達を受け取った大臣は、額に血管を浮き上がらせた。

――俺が断ると予想して(あらかじ)め手を打っていたのかっ!? アムゾン海を支配するプレセンティナにとってはこのペレコーポ要塞すら無意味だと言いたいのか!

そして彼はついでに、サイン以外の筆跡が全部補佐官の物だということにも腹を立てた。 

 実際にはルキウスは、大臣のパーソナリティを斟酌するどころか彼がこの要塞に居ることすら知らなかったし、ついでに彼の名前も知らなかった。あくまで政府に送ったのが本命であって、要塞に送った使者は「今こういう話を政府と詰めてるから予め準備しておいてね」という程度のものだった。つまり速やかに通過させるための現場への心配りだったのだ。……裏目に出ちゃったけど。

 補佐官は国防大臣が使者を追い返していたことを要塞に来るまで知らなかったのだが、大臣の日頃の言動からどういう反応をするかは概ね予想ができていた。だからこそ正式な命令書を用意してきたのである。それに彼には大臣を説得する自信があった。

「閣下、タイトン軍はケッチから大陸に渡ろうとしています。それは聞いておられますか?」

「ああ、ハサール軍を助けに行くのだろう? 我々には関わりのないことだ!」

「そうですか? 彼らが大陸同胞の街ノボロウシスクをモンゴーラから解放しようとしていても?」

「なにっ!?」

「閣下、ここを通せんぼしてタイトン諸国を敵に回し、大陸同胞を見捨てることがあなたの求める独立戦争なのですか?」

「…………!」

大臣は大きく目を見開いて補佐官を睨んだ。彼を口ばかりの青二才と毛嫌いしてきた大臣だったが、今回ばかりは歯を噛みしめるばかりで何も言い返せなかった。


 ハサールからの独立のために長年テロリ……独立運動に励んできた彼にとって、大陸に残されたスラム人諸都市のことは大きな気がかりだった。彼らを残したままクレミア半島だけで独立したことも、むしろ罪悪感となって彼を責め立て続けていた。だからこそイゾルテがハサールとの講和にやって来た時も彼は最後まで反対したのだし、その後このペレコーポ要塞に居座り続けたのもいつか大陸に残った同胞を解放したいと願っていたからだ。

 だからプレセンティナがハサールと手を組んだと聞いた時には(はら)が煮えくり返った。結局彼らも自らの都合だけで動いているのだと、弱き者になど目を向けていないのだと。そもそもイゾルテは彼らに向かって「利用しただけ」と言ったではないか!

 だがタイトン人たちは、ハサールを救うために大陸に残ったスラム人たちをも救おうとしているのだ。彼がいくら望んでも出来なかったことを……


「……しかし、この国の防衛はこの要塞に依存している。一度懐に入れればもはや我々には何も出来ぬのだ」

「とはいえ、タイトン諸国がこのような辺境の地を欲しがるでしょうか? もしプレセンティナが欲していれば、そもそもこの要塞を気前よく譲ってはくれませんよ」

「そうだな、タイトン人にとっては魅力は少ないだろう。だが、ハサールはどうだ? 

 モンゴーラからの避難所としてこの半島ほど優れた場所はない。今まさに我々はそれを証明しているのだからな!」

 補佐官は深く溜息を吐いた。呆れたのではない、関心したのだ。勢いだけで生きているように見えて、このテロリ……大臣もちゃんと考えていたのだと。

「確かに閣下の仰る通りです。しかし、だからこそ(◆◆◆◆◆)あり得ないのです」

「なに?」

「今回ここを通るのはタイトン人です。タイトン人にとってハサール人は、自国を守るための盾なのですよ?」

大臣は驚いたようにはっと目を見開いた。

「そうか……! もし彼らがクレミアを占領してハサール人が逃げ込めば……」

「モンゴーラはクレミア半島を無視してそのままタイトンへ攻め入るかもしれません。この要塞を突破するのが困難だということは、今まさに大臣閣下御自身が証明しているのですから」

「…………」

 考えてみれば簡単な構図である。タイトン諸国はモンゴーラが自分たちの国に攻め入る前に撃退したいのだし、ハサールはモンゴーラと戦うための援軍が欲しい。両者の打算が一致するからこそ同盟が成立しているのだ。ハサール人の安全を確保することは、タイトン人にとっては絶対に許容できないことであった。タイトン人にしてみれば、ハサール人には最後の一人までモンゴーラと戦って貰わねば困るのである。

――だからこそ、ハサール人ではなくタイトン人がここに来るのか。この地を占領したくない(◆◆◆◆◆)タイトン人が……

 これはどちらかというと、軍事ではなく政治や外交の領域の話だった。今では(名目上は)政治家であるとはいえ、一年前までただのテロリ……独立運動家に過ぎなかった彼には考えもつかないことだった。

――いや、こういうことに考えが及んでいれば、プレセンティナやドルクを巻き込んでもっと早く独立できていたのかもしれないのだ。そして今でも、ただハサールに憎しみをぶつけているだけではいつまでたっても大陸諸都市を独立させることはできない……!

いくら兵たちを鍛え上げても要塞の外ではハサール人には勝てないということを、彼は長年のテロリ……独立運動の経験から嫌というほど思い知っていた。自分たちの足掻きがいかに無意味であるかということも……

「……お前達の言いたいことは分かった。命令にも従おう。しかし、タダでは通さない!

 タイトン軍に我らの武威を示し、以って侵略の企図を未然に防がん!」

「いえ、ですから……」

タイトン人にその意志は無いですよ、と言いかけて補佐官は口をつぐんだ。

――いや、そういうところで折り合いをつけたのか。面倒臭い人だな。

補佐官は小さく肩を竦めると口の端を吊り上げた。

「分かりました、そうして頂きましょう。わたしもお手伝いしますよ」

そして彼は小さく口の中で呟いた。

――そしてその後は、あなたの本来の仕事にお戻り下さいね

こうしてペレコーポ要塞はタイトン軍を通過させるための準備を始めたのだった。



 補佐官の案内に従ってズスタスが通用門をくぐると、いきなり土塁が道を塞いでT字路になっていた。

「ここは左です。その次は右、更に次はまっすぐ、そして左、左、前、右、右、前、斜め左後ろ、右、斜め左前……」

補佐官がいきなり順路を呪文のように唱え始めると、ズスタスが頭を抱えた。

「あーっ! そんな事言われても分からん! なんなんだこの城は!」

「ここは城ではありません、純軍事的な要塞です。しかもこちらからハサールに攻め込むつもりはありませんから、ひたすら通過しにくいように出来ております」

「…………」

つまりは迷路だった。そして根気のないズスタスは迷路が大の苦手だった。

「ちゃんと兵士が順路を示した看板を持っていますから、それを御覧ください」

「兵士? だが通路には誰も……」

ズスタスがはっと土塁の上を見上げると、矢を手にした兵士がずらりと並んでいた。まあ、矢と言うか「←」という矢印の案内板だったんだけど。

――なるほど、なんとか城壁を突破しても、迷路をさまよっている間に一方的に矢を浴び続けることになる訳か……。この要塞を作った奴は余程性格が悪いらしいな。

 ズスタスは腹黒そうな補佐官の顔をチラリと見たが、この要塞の設計者は彼ではなくイゾルテだった。戦い慣れしていないスラム人でも守り抜けるように、それでいて海からの攻撃には弱いようにと、彼女が精魂込めて設計した(色んな意味で)最悪の要塞である。


 この時、最初外城壁に立っていたクレミア軍兵士たちは軍務大臣の指示で密かに行動を開始していた。城壁の端から数歩下がってタイトン軍から身を隠すと木偶(でく)人形と入れ替わり、ズスタス達から見えないルートを通って彼らの順路上に先回りし、土塁の上で案内板を手にしたのである。さらには順路から遠いところには予めたくさんの木偶人形が置かれていた。こうすることで1万あまりしかいない兵の数を何倍にも見せ、土塁の上から心理的な圧力をかけ続けたのである。

――ククククク、タイトン人ども、(おそ)(おのの)くが良い! ……とか思ってそうですね、大臣閣下は。しかし、果たして意味があったのでしょうか……

 補佐官がチラリとズスタスに目を向けると、彼はきょろきょろと周辺を見回しながら感心していた。

「へー、面白い作りだなぁ。我が国でもどこかに作ろうかな?」

「陛下、こんな物作っても突破どころか無視されるッス」

「そうだよなー。出撃するのが面倒だしなー」

「出撃してこないなら迂回し放題ッス。まるっきり意味がないッス」


 彼らに緊張感がないのは、単にここを攻略する気がないからだろうか? ひょっとすると簡単に攻略する術を既に持っているからではないだろうか? 守備兵たちの間でまことしやかに囁かれているように、"滅びの言葉"を唱えると要塞が崩れ去るという魔女の魔法がかけられているとか……

――いやいや、考え過ぎですね。ちゃんと大臣閣下の手で日々迷路の改造もしているそうですし、そんな仕掛けがあるとは思えません。まあ、彼らが道順を暗記していないとも限りませんから、後でまた迷路を改造しなくてはいけませんけど。


 迷路をグルグルと引っ張りまわされてようやく出口に到着すると、そこには城壁の上にいたはずの大臣が2千あまりの兵とともに整列していた。

「ぜぇ、お、遅かったな! はぁ、ま、待ち、ぜぇ、くたびれた、はぁ、ぞ!」

彼らの息がちょっと弾んでいるように見えたのは、きっと気のせいである。

「おお、怖い顔のおっさん! 見送りご苦労だ!」

すちゃっと友好的(?)に手を上げたズスタスに怖い顔のオッサンが噛みついた。

「国防大臣だっ! 我々もケッチまで同行する。お前たちから同胞を保護せねばならんからな!」

「まあ、勝手にするがいい。しかし足を歩兵に合わせている暇は無いからな。先に行かせてもらうぞ」

「何だと!?」

再び大臣が噛みつこうとしたところ、慌てて補佐官が割って入った。

「道案内は別に用意しております。どうぞ我が軍のことはお気になさらず、先にお進み下さい」

「補佐官! 貴様ぁ……!」

大臣が今度は補佐官に食ってかかろうとすると、補佐官が素早く彼に耳打ちした。

「さっさと出て行って貰った方が良いんでしょう? 引き止めてどうするんですか?」(コソっ)

「ぬぬぬぬぅ、確かに……」

痛いところを突かれ、大臣も納得せざるを得なかった。

「じゃあ先に行ってるぞー」

ひらひらと手を振りながら先に進むズスタスに、大臣は怒鳴り返した。

「民間人に迷惑をかけたら承知しないからなぁー!」

しかしズスタスは、やっぱり手をひらひらと振るだけだった。

「ちっ! 我が精鋭ども、我々も行くぞ!」

「「「おう!」」」


 大臣が兵を率いて去っていくと、補佐官の元に彼の秘書官たちが集まってきた。

「補佐官、上手くいきましたね。ようやく大臣を要塞から引き離すことが出来ました」

秘書官の言葉に補佐官は口の端を吊り上げた。

「いえいえ、まさか。私の目的はそんなことではありませんよ」

「えー? ですが大臣が軍を私物化していることを懸念しておられたではないですか」

「ええ、軍は民に選ばれた議会と政府のものでなければなりません。ですから私は彼らを軍だと思っていません」

補佐官の冷たい目の先にあったのは、大臣と彼とともに出発した子飼いの兵士たちだった。穏健な中央政府の意向に従わず、ハサールに対して過剰な対抗心を燃やし続ける反ハサールの急先鋒である。

「では、あの兵士たちも軍から排除するためだったと? しかしタイトン軍がケッチ海峡を渡ればここに帰ってくるのではないですか?」

補佐官はどこか楽しそうにくすくすと笑った。その笑い声の明るさに秘書たちは奇妙な戸惑いを覚えた。彼がこれほど楽しそうなことはめったに無いことだったから。

「彼らがケッチまで行けば自然とノボロウシスクの状況が耳に入ります。のうのうと帰って来ると思いますか?」

「「…………!」」

 ノボロウシスクなどの臨海諸都市の状況は断片的な情報しか伝わってきていなかったが、どうやらモンゴーラの統治はハサールのそれより遥かに過酷らしかった。何よりハサールが決して行わなかった女性に対する暴行が公然と行われているという話である。こういう話は若者の血を熱くするものだ。きっと大臣に付いて行った連中も義憤に燃えることだろう。

「彼らは我が国には不要な存在です。ですが私は彼らを無用な存在だとは思いません。彼らは、彼らを必要とする場所にこそ居るべきなのです」

決定的な否定の言葉でありながら補佐官の声には憎しみの色も蔑みの色もなく、ただ清々しいばかりの憧れの色があった。

「補佐官……もしかしてあなたは……」

「ええ、心底彼らが羨ましいですよ。でも残念ながら、私が必要とされているのはこのクレミアなんですよね」

その時彼が浮かべた笑みは楽しげであり、悔しげでもあり、嬉しげでもあって、そして何より……腹黒そうだった。

「きっと彼らは勝手に海峡を渡り、勝手にノボロウシスクを要塞化するでしょう。我々は併合のための政治的な手続きを進めておきましょう」

「しかし、彼らが勝てるとは限りませんよ?」

「良いじゃないですか、負けたところで困るのは彼らなんですよ。なんせ彼らが勝手にやることなんですからね?」

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