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太陽の姫と黄金の魔女  作者: 桶屋惣八
第8章 ムスリカ編
222/354

悪魔の像

イゾルテには災難続きですが、アントニオにはご褒美です

 およそ一月(ひとつき)ぶりに帰ってきたイゾルテに会うため、アントニオは大使館を訪れた。イゾルテ不在の間に建てられたこの大使館は、木造2階建ての質素な物だ。実際には大使じゃなくて皇帝の住まいであり、本来なら離宮とか御用邸とか臨時大本営とでも言うべき物なのだが、何せ急造で貧乏くさいので大使館を名乗っているのである。……それでも微妙だが。

 アントニオがイゾルテを訪ねたは不在の間の報告のため……というのが表向きの理由だが、もちろん個人的に彼が彼女に会いたかったからだ。考えてみればこの3年の間に半月以上イゾルテの顔を見なかったことなど一度もなかった。その上スエーズには女性がいない。実際には半分は女性なのだが、誰も顔を見せないのだ。そして極めつけはサラである。集中して書類を書いていると、いつの間にかサラが彼の肩の上から覗き込んでいたりするのだ。間近で見る彼の横顔は本当に美少女にしか思えなくてドキドキしてしまうほどだ。この状況で長期にわたってイゾルテの顔を見ないことは、彼の精神衛生上ヒジョーに危険であった。


 彼は大使館に入ると玄関にいた近衛兵に声をかけた。

「陛下は執務室ですか?」

「いや、今日はまだお休みだよ。道々工事現場の視察もされておられたのでお疲れのようだ」

「そうですか……」

――非力なくせにまた無駄な手伝いをしたのかな?

 イゾルテはたまに肉体労働を手伝おうとするのだが、大抵は作業の邪魔にしかならない。だが邪魔をされた方もなんでか喜んでしまうのだから人徳というものだろう。もっとも彼女はスタミナもないので、人々がイライラする前に撤収しているだけかもしれない。1時間も続けられたらプチ反乱が起こっていた可能性はあった。

「うーん、どうしよう。一旦アイヤールの方に顔を出すと二度と抜けて来れないしなぁ」

だからといって午前をお休みしたりすると、たぶん徹夜作業になるだろう。そして明日も休日ではない。

 アントニオがうんうんと唸っていると、そこにイゾルテの麗しい声が聞こえてきた。


「ぎやあああああああぁぁぁあぁぁ!」


……彼女らしからぬ、とっても聞き苦しい悲鳴だった。だが悲鳴であることには間違いない! アントニオは即座にイゾルテの部屋に駆けつけると、鍵のかかったドアを体当たりでぶち破った! ……りは出来ずに跳ね返されたが、ノブを回してみたらドアはあっさり開いた。なんと物騒なことだろうか!

「陛下! ご無事ですかっ!?」

彼は部屋中に目を走らせてイゾルテを探した。彼女の無事を確認することが第一だ。決して半裸のスケスケネグリジェ姿を見たい訳ではない! だが彼が確認できたのはベッドの上でブルブルと震えるシーツの団子だった。

「……陛下?」

アントニオの声を聞いたシーツ団子はビクリと大きく震えると、イゾルテの声を出した。

「あ、アントニオか? よく来てくれた!」

「…………!」

喜色溢れる彼女の言葉にアントニオは感激した。どっちかというとセミヌードの方が嬉しいんだけど。

「何があったんです? 僕に出来ることはありますか!?」

「ああ、お前に頼みがある」

今度はシーツ団子の中から白く美しい手が出てきた。彼はついでに全身が出てこないかと期待したが、出てきたのは二の腕までで、その指先はアントニオの足元を指さした。

「そ、その辺にいるアレを、黒い悪魔を、どうにかしてくれ!」

「は?」

黒い悪魔とは大した言われようである。何のことかとアントニオは足元に目を向けて……


「ぎやあああああああぁぁぁあぁぁ!」


……絶叫した。彼の足元には体長50cmを越える巨大な光を避ける者(ルキフギア){G}(注1)がいたのである! 一瞬にして廊下の先まで逃げたアントニオは恐る恐る振り返ったが、その巨大な黒い悪魔は追って来てはいなかった。

「こらぁー、ひとりでにげるとはなにごとだぁー」

どこか弱気げなイゾルテの叱責に、アントニオは罪悪感を覚えた。

――あのか弱い陛下が1人で耐えているというのに、僕ははなんて臆病なのだ! 陛下を守ろうと誓っていたのに!

というか、イゾルテが逃げないのは光を避ける者(ルキフギア){G}がドアの前にいるからなんだけど。そもそも冷静に考えれば危険でもなんでもないはずなのに、なんで人は光を避ける者(ルキフギア){G}を恐れるのだろうか。哲学的な命題である。

「ちょ、ちょっと驚いただけですって! いま追い出します!」

「ま、待て! それはダメだ!」

「え?」

「そんなのがまだどこかに居ると思ったら……じゃなくて! えーと、えーと……そうだ! それはきっと何かに使えるはずなんだ! ペルセポリスに送って研究させる!」

アントニオは首をひねった。あんなものをどう利用しようというのだろうか? 常人にはとても想像できない、まさに悪魔の研究である。しかし禁忌に触れる研究には常にリスクが伴うものだ。

「研究って……離宮でですか?」

アントニオの疑問にイゾルテはしばらく黙り込んだ。

「……やっぱり焼却処分にする。だから、とにかく、逃すんじゃない!」

「はぁ……」

 できれば追い出すだけで済ませたかったアントニオだが、捕まえろと厳命されれば否やはない。それに焼却処分ということなら殺してもいいのだろう。アントニオは覚悟を決めると護身用の短剣を抜いた。その短剣は軍人だった父の形見だったが、皇帝陛下の奉為(おんため)に使われるのだと知ればきっと本望だろう。光を避ける者(ルキフギア){G}の体液を浴びることについては見なかったことにして欲しいが。

 アントニオはそろりそろりと警戒しつつ一歩ずつ開け放たれたドアに近寄り、ドアのすぐ脇ですーはーと深呼吸をして息を整えた。

「へ、陛下、今行きますからねー!」

「はやくしろぉー」

イゾルテの返事は相変わらず気弱げなものだった。

「よーし、覚悟しろ、黒い悪魔めーっ!」

アントニオが飛び込もうとしたその時、先に部屋に飛び込んだ者がいた。彼は巨大な光を避ける者(ルキフギア){G}に襲いかかるとその太い足でドンドンと踏みつけ、更にはその鋭い牙を突き立てたのだ。

「…………!」

 それは自分の手で殺そうとしていたアントニオでさえ、気を失いそうな光景だった。よりによって光を避ける者(ルキフギア){G}に噛み付くとは……! そして彼は、ピクリともしない光を避ける者(ルキフギア){G}を咥えたままアントニオに向き直った。いろいろな意味で凄まじい迫力である。

「ひっ! ま、まて、こっちに来るな! 来るんじゃない、レオ(◆◆)!」

だがレオは自分が狩った獲物を自慢したいのか、そのままアントニオに歩み寄り、口に加えた巨大な光を避ける者(ルキフギア){G}をぐいぐいと押し付けた。

「ぎやあああああああぁぁぁ……あ?」

想像したのとは違うグニッとした感覚に違和感を感じると、アントニオはゆっくりと目を開いて光を避ける者(ルキフギア){G}に目を向けた。それは……人形{巨大G人形}だった。非常にリアルで今にも動き出しそうだったが、明らかに非生物である。つまりは悪魔像といったところだろうか。

――なんだ、陛下の悪戯か……

よく考えれば、ドアに鍵がかかっていなかったこともこの悪戯の一環だろう。全く悪趣味にも程がある! 彼は気が抜けてその場にへたり込んだ。

「どうした……? アントニオ、大丈夫なのか?」

白々しいイゾルテの演技に付き合いきれず、アントニオは返事もしなかった。

「ま、まさか、やられちゃったのか? 黒い悪魔にやられちゃったのかっ!?」

迫真の演技を続けるイゾルテにアントニオは無視を決め込んだが、彼女の声はレオの気を惹いたようだった。自慢する相手を変えた彼はベッドに歩み寄ると、口に咥えた悪魔像{巨大G人形}をシーツの上からグイグイとイゾルテに押し付けた。

「ああ、良かった。あんまり心配させるなよ、アントニ……」

シーツから頭を出したイゾルテは、目の前に突きつけられた悪魔像{巨大G人形}を見て血の気を失った。

「ぎやあああああああぁぁぁあぁぁ!」

彼女はベッドから転がり落ちると、同じく驚いて目を丸くしていたアントニオと目があった。彼女は助けを求めて彼に走り寄るとその背中に抱きついた。

「あ、あん、あんとにオ、どどど、どうにかしてくれ!」

彼女は恐怖のあまり口が回っていなかったが、それはアントニオもどっこいどっこいだった。

「へ、へへへ、へいかっ!? どどどど、どうにかって、どうにかして良いんですかっ!?」

彼は混乱していた。明らかにこれは悪戯である。だがイゾルテの悪戯だとしたら、こうやって彼に抱きつくのも計画のうちだということだ。半裸で! というか彼女はパン一であった。ネグリジェすら着ていなかったのだ! その上パンツもびしょびしょでスケスケだった。もちろんそれは寝汗か冷や汗か脂汗のせいなのだろうが、問題はどうしてびしょびしょなのかという原因ではない。びしょびしょになったせいで、スケスケになっているという結果なのだ! ひょっとすると全裸よりも扇情的かもしれない。魅惑の三角地帯に見えた鮮やかな金色の茂みが、むしろ彼の方をどうにかしちゃいそうだった。

「もう追い出すだけでいいから! さっさと外に出してぇぇ!」

「は、初めてだけど、ちゃんと外に出すよう頑張りますっ!」

そう言ってアントニオはイゾルテをどうにかしちゃいそうになったが、すっかり無視されていたレオが「見て見て!」とばかりに二人の間に割り込んだ。もちろん悪魔像{巨大G人形}を咥えたままである。

「ぎやあああああああぁぁぁあぁぁ!」

イゾルテはアントニオを突き放すとトイレに逃げ込んでバタンとドアを閉めた。レオはそれを追ってドアをガリガリと引っ掻いたが、イゾルテは「来るなーっ!」と悲鳴を上げて拒絶していた。

「……あれ?」

置いてきぼりにされたアントニオは、抱きしめ損ねたイゾルテの幻影を思い浮かべながら両手の指をニギニギした。どう見てもイゾルテは本気で怯えていた。アントニオを引っ掛けようとしていただけなら裸を見せてくれたりしないだろうし、彼を誘惑しようとしていたのならトイレに逃げ込んだりもしないだろう。だとしたらあの悪魔像{巨大G人形}は誰がここに持ち込み、誰が鍵を開けたのだろうか? 不審者がこの部屋に忍び込んでいたというのか? 寝汗でびしょびしょでパン一のイゾルテが眠るこの部屋に!

――な、なんて物騒なんだ! ひょ、ひょっとしてその不審者は、もう既に陛下を手にかけて……!?

アントニオが蒼白になったその時、予想しない出来事が起きた。

 ガチャリ

一旦悪魔像{巨大G人形}を床に置いたレオが、器用にトイレのドアノブを咥えて回したのだ。

「え?」

「え?」

アントニオとイゾルテの声が重なり、呆然とする2人の間で視界を遮っていたドアがゆっくりと開いた。

 もちろん鍵がかかっていれば開けることなど出来ないのだが、まさかレオがドアノブを回せるとは知らなかったイゾルテは鍵までかけていなかったのである。そしてトイレの鍵と同様に廊下に面するドアの鍵は、内側からノブを回せば同時に鍵も開くようになっていた。アントニオにはその仕組がよく分からなかったが、これは数年前にイゾルテが発明した(ことになっていた)ドアノブ{押しボタン付き円筒錠(モノロック)}(注2)である。別に鍵をドアノブに仕込む必要など全然ないと思うのだが、離宮の職人が執念を燃やして作り上げたものだった。作る方も使う方も完全に趣味の世界である。が、まさかペットが勝手に鍵を開けてしまうという弱点があるとは誰も想像していない事だった。

――じゃあ、部屋の鍵が開いていたのもレオのせいなのか……!

 恐らく護衛としてイゾルテの部屋で寝ていたレオが夜中に起きだして勝手に鍵を開け、どこかでこの悪魔像{巨大G人形}を見つけてきたのだ。でもイゾルテがまだ寝ていたから、彼女が起きるまで自慢するのを待っていたのだろう。

「ま、まて、待つんだレオ、それはアントニオに渡してきなさい!」

イゾルテはあられもない姿のまま便器の蓋の上によじ登ると、にじり寄るレオの頭をぐにぐにと踏みつけた。しかしその柔らかそうな白い足に踏みつけられたところで、百獣の王にはどうということもない。そしてそれがアントニオだったとしてもどうということはない。彼はびしょ濡れパン一のイゾルテに踏みつけられながら彼女を間近でローアングルから見上げるレオが心底羨ましかった。そして自分がMかも知れないと心配になった。

「……陛下、それは人形ですよ?」

ピタリと動きを止めたイゾルテが、アントニオに目を向けた。

「……人形?」

「ええ、良く出来てますけどただの人形です」

「…………」

イゾルテは恐る恐るつま先で悪魔像{巨大G人形}をつっついた。

  つんつん、つんつん、ぐにぐにぐにぐに

想像されたぬるぬるでカチカチな感触ではなく、まるで二輪荷車{自転車}の黒くて柔らかい車輪(ゴムタイヤ)みたいな感触だった。それだけでもう、この悪戯をしかけた犯人が明らかである。イゾルテは沈黙したまま便器から下りると胸を張った。腕は腰に置いてこれでもかと。風呂あがりに牛乳を飲むかのようである。

「ふっ、黒い悪魔など恐るるに足らんな!」

「…………」

アントニオは呆れて声もなかったが、やはり怯える姿より強気に威張り散らしていた方がイゾルテには似合っていた。怯える彼女に踏みつけられるより、胸をそしてグリグリと踏みにじられる方が良いと思った。やっぱり彼はMかもしれない。しかし彼はMである前に小心者だった。イゾルテが立ち直りつつあることで、そろそろ引き際だと悟ったのだ。彼女が完全に立ち直ったら、折角網膜に刻みつけた彼女の恥ずかしい姿を忘れるまで何かされちゃうかもしれない。あるいはモンゴーラへの使者にされちゃうかもしれないのだ。そしてそのまま冥界へ行くことに……。

「さ、さすがは陛下ですね」

「ふっ、私は市民の範たる皇帝だからな!」

「じゃ、じゃあ、僕は失礼します……」

「ああ、今日はよくやってくれたな」

結局彼は何もしていなかったが、もちろん文句は無かった。今年の給料を全額返納しても惜しくないくらいである。

「いいえ、いつでも何度でも僕を呼んでください。サラさんじゃなくて僕を! お願いしますよ!」

「そ、そうか……? 分かった、そうするよ」

アントニオは何だかいろいろ忘れている気がしたが、忘れていることも忘れることにした。そんなことよりも今見た光景を脳に焼き付けておく事の方が何よりも重要である。でもあんまりジロジロ見ているとイゾルテに気づかれてしまうので、後ろ髪を引かれながらも彼はその場を去った。自分が盛大に鼻血を吹いていることに気づいたのは、彼の顔を見てぎょっとした近衛兵が教えてくれたからだった。。



 貧血気味のアントニオがアイヤール連合の組事務所に出勤すると、サラが心配そうに尋ねてきた。

「アントニオ殿、顔色が変でゴザるが……大丈夫でゴザるか?」

事務仕事を一手に引き受ける彼はサラにとって頼みの綱である。彼からすればアントニオは年下のもやしっ子だったが、彼はそれなりにアントニオを尊敬してもいた。

「ええ、とっても大丈夫ですよぉ~。ちょっと血が足りないだけですよぉ~」

どうみても普通ではないアントニオは、確かに血が足りていないようだった。……上半身に。サラだって男なので、前かがみになっているアントニオの血液配分がどうなっているのか想像がついた。美少女のようなサラの顔からは想像もつかないが、彼のナニ(◆◆)は人一倍凶悪なサイズなので寝起きはとっても低血圧なのだ。

「……寝坊でゴザるか? 確かに朝は頭に血が回らないものでゴザるからなぁ」

「いやぁ~、朝一で大使館に顔を出してきましてね。良い経験をしてきたんですよぉ~。彼女はまちがいなく世界一の美女ですねぇ~」

その言葉を聞くとサラは目を剥いてアントニオに詰め寄った。

「と、トリス殿でゴザるかっ!? トリス殿に会ったのでゴザるなっ!」

アントニオがイゾルテに会えなくて想いが募っていたように、サラもトリスに会えなくて禁断症状に陥っていたのだ。

「へ? トリス……?」

夢見心地だったアントニオの瞳がすーっと焦点を結ぶと、彼はふっと鼻で笑った。

「ええ、トリスさんのあられもない姿を見せていただきました」

「なっ、何でゴザるとぉ~っ!?」

驚愕するサラに向かって、アントニオは自慢気に胸を張った。

「僕たちはそんな信頼関係で結ばれているんです。裸を見せても全然恥ずかしくもないくらいのね!」

「は、はだか……」

サラは愕然とした。彼は彼女の素顔を見ているだけでドキドキだというのに、アントニオは彼女の裸まで見て来たというのだ!

「正確にはパンツだけは穿いたままでしたけど、もういろんな体液でびしょ濡れでしたね!」

「…………!」

サラは愕然を通り越して蒼白になった。

 奴隷軍人マムルークたちは他国の軍人に比べれば遥かに禁欲的であったが、それでも若く健康な男たちだ、エロに興味が無い訳ではない。それに結婚したらあれやこれやいろいろしまくっても全然問題ない上に、教義の上では4人まで妻を持てるのだ。というかむしろ複数娶れと推奨していた。だからエロい武勇伝はエロくない武勇伝に次いで話のタネだったのだ。その上彼は今ではドルク出身のアイヤール達の元締めである。ドルクではあんまり真剣に戒律が守られていない上に、アイヤールたちは輪をかけてエロ話が好きだった。酒を飲めばエロい方の武勇伝を延々と自慢していたのだ。中には話しながら怪しい視線をサラに向けてくる者も多かったけど。

――だ、だが、パンツを穿いたままというのは初めて聞いたでゴザる……

その姿を想像して――といっても彼は女性のいろいろな部分を見たことがないのでぼんやりとしていたが――鼻血が垂れそうになった。最も想像できないところがパンツで隠されているので、なんだか返ってリアルだった。ほとんど脱がせたんだけどパンツを脱がせるのももどかしいという感じが、むしろ全裸よりエロいかもしれない。こんなプレイを考えつくとは、さすがは変態強姦魔(ゼーオス)を神と崇めるタイトン人である。

――し、しかし、トリス殿がアントニオ殿とそんな関係だったとは……

サラはがっかりしたが、しかしめげてもいなかった。彼らの神は戦死した男の妻を娶って面倒を見なさいと言っているのだ。当然彼らに処女信仰は無かった。例えトリスがアントニオの妻だったとしても、彼女が未亡人になれば(◆◆◆◆◆◆◆)全く問題はないのである!

「そのままここに来ちゃったので、ちょっと汗臭いかもしれません。いやー、勘弁して下さいね!」

調子に乗ったアントニオの言葉に、サラは感情を押し殺した低い声で応えた。

「ああ、構わないでゴザる。何せアントニオ殿の仕事が溜まっていて、どうせ一週間くらいは風呂どころか眠ることすら無理でゴザるからな……」

「……え?」

「"こんくり"とかいう工程が増えたとかで、人員の割り当てや物資の輸送計画を組み直すことになったでゴザるよ。トリス殿のためにも死ぬ気で(◆◆◆◆)頑張って欲しいでゴザる」

「…………」

 アントニオはそんな話を聞いてなかったが、そもそも彼自身が現状報告をしないまま帰ってきたのだからイゾルテから教えて貰えるはずもなかった。まあ、直に言われていても彼の反駁(はんぱく)など無視されたに違いないが。

――というか、僕がやらないと陛下が応援に来ちゃうよ! せっかくサラさんに陛下を諦めさせようとしてるのに、今の嘘がバレたら逆効果だ!

彼の()いた嘘(正確には微妙に嘘じゃないけど)がイゾルテにバレたら、やっぱり彼は使者としてモンゴーラに旅立つことになるだろう。そしてイゾルテのエロいところを想像しちゃったサラは、ますますイゾルテに積極的にアプローチするかもしれない。アントニオが居なくなって、二人っきりで残業することになるこの事務所で!

――だ、ダメだ! 絶対ダメだ! それだけは阻止しなくては!

彼の焦りを知ってか知らでか、サラは安心させるように彼の肩をぽんっと叩いた。

「大丈夫でゴザる。もしアントニオ殿が過労死しても後のこと(◆◆◆◆)(それがし)が責任を持つでゴザるよ♪」

優しげというより楽しげなサラの笑顔は、男と分かっていても惚れちゃいそうなほど可愛らしかった。そう、惚れちゃいそうである。イゾルテが……

「が、頑張ります! 僕一人で!」

アントニオが鬼神の如き働きを見せたのはこの時からである。……あくまで事務仕事でだけど。

注1 既出ですが、古代ローマではあの黒い悪魔Gのことを光を避ける者(ルキフギア)と呼んでいました。

いかにも回りくどい表現です。でもそうしたい気持ちはよーく分かります。

私も敢えてGと書かせて頂きます。カタカナ4文字で表記することなんてとても出来ません!


注2 円筒錠(モノロック)はドアノブの中心軸に鍵が組み込まれた物です。

ピッキングし易いということで不評なようですが、屋内に使うならあんまり問題はありません。

大抵のホームセンターで売っていますし、何より安いです。

以前借りて住んでた家に(前の住人が)鍵を無くした部屋があったので、自分でドアノブごと交換したことがあります。穴のサイズさえ合えば素人でもなんとかなります。

内側のノブに押しボタンが付いているタイプは、ボタンを押すと鍵がかかって外側のノブがロックされ、内側のノブを回すと解錠されてドアが開きます。

トイレなんかに多いですね。あるいは公共施設の(安っぽい)会議室とか。

すご~くシンプルですが、ユーザーの一手間を省いたシステマティックな代物です。

外側のノブに鍵穴が付いているタイプと付いていないタイプがあって、外からカギをかけるか否かによって使い分けます。



Gのダミー人形は、蜘蛛やムカデ、あるいはカエルに匹敵するビックリグッズの王道です。

しかし蜘蛛もムカデも、そしてもちろんカエルも、KだのMだのと略されることはほとんどありません。名前すら正確に呼びたくないGはやはり別格です。あの何かと細かい古代ローマ人ですらいい加減で回りくどい表現を使っていたくらいですから!


さらに最近では100匹セット(!)とか、巨大G人形が話題です。自分の足の2倍以上(面積は4倍以上?)でかいGとか、もはや正気ではありません!

しかしもっと最悪なのは100匹セットでしょう。トイレマットの下に100匹並べておいて、「うん? なんかゴツゴツするなぁ」とめくってみたら……便器を目の前にしてちびっちゃこと請け合いです!

洋ゲーのFallout3では最初に出てくるザコ敵が巨大Gだったので非常に萎えました。いや、基本的に面白いゲームなんですけどね。たぶん4も買います。

きっとまたGが出てくることでしょう。そしたら心が壊れるまで殺しまくることにします。そうすればきっと耐性が付くことでしょうから……

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