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最終話

捕虜にしたアムロイの姫と侍女をどう扱うか、そして誰が担当者となるか。試験艦キャスパリーグの艦内は揉めた。


流石に殺してしまえは無かったけど、ずっと艦内で囲っているのもしんどいからさっさと火星駐留軍司令部に引き渡そうと誰もが思うところだった。


それはいずれそうするにして、問題は艦内で誰が彼女達の面倒を見るのか?という事だった。キャスパリーグは試験艦だから乗組員によるダメージコントロールはあまり考慮されていない。故に保安要員の配置は無くて、誰かしら乗組員が名目的に兼任していた。要は艦はギリギリの人員で運用されていて、その乗組員を彼女達のお世話に割く事は出来ないそう。


「拾って来た人が責任を持って面倒を見るべきじゃないかしら?」


こんな事を言い出したのは誰あろう副長の李中尉。いや、捨て猫拾って来た訳じゃないんだぞ!


「そうだな。20人も手の空いている者がいるのだからな」


李中尉に同調したのが村田技術少佐だ。おい、あんたの手の者共も乗組員じゃないのだから手隙だろうに。自分達に波及する前に俺達を売りやがったよ、このおっさん。


「失礼な奴だな。私はまだ37歳だぞ」


「十分おっさんだろ」


「静かになさい!」


おっさんだ、おっさんじゃないでやり合う俺達をミハイロフ艦長が一喝した。あ、そう言えば艦長と村田技術少佐は大学の同期生だと李中尉が言っていたっけな。という事は、


「艦長命令です。特務隊で捕虜達の面倒を見なさい」


俺の思考を遮るようにミハイロフ艦長が一方的に命令した。


その艦に乗る者は何人たりとも艦長の命令に従う義務がある。とはいえ、それは多分に名目的な事で、乗組員でもない俺には無茶な命令に抗命する権利がある訳だけど。まぁ仕方無いのかな。


俺が渋々と特務隊で捕虜達の面倒を見る事になったと隊員達に説明すると、


「私達はアムロイ語が話せませんが」


と、まさかの身内の裏切りにあった。涌さん、そりゃあ無いぜ。


結局、大学の予備士官養成課程でアムロイ語を学んだ俺と美濃部が担当する事となった。


すると、更に問題が起きる。侍女のアスティさんから苦情が出たのだ。


『あの、大変申し上げ難いのですが、姫さまがミツルギさまではない方の方を嫌っていまして。担当から外して欲しいと、』


『は?』


聞けば美濃部がエリスティ王女に会う度美しいとか言って口説くのだとか。


美濃部ぇぇ!何してくれてんじゃ、我ぇぇぇ!


「それは仕方無いっすよ。あんな美少女と美女目の前にしたら口説いちまうのが男の(さが)って奴っすから!」


「何を偉そうにドヤ顔で言ってんだよ。、それセクハラだからな。お前は異星人にセクハラかました男として歴史に名を残すな」


「そりゃいいっすね」


全く、馬鹿野郎が。


という訳で俺が捕虜達のお世話係になったのだった。


〜・〜・〜


と言って信頼関係がすぐに築けた訳じゃない。侍女のアスティさんは謂わば俺とエリスティ王女の橋渡し役でもあるためちょっとした世間話はするようになったけど、エリスティ王女は敵である俺達を警戒していた。それに空母の乗組員達が皆戦死し、自分達だけ脱出しておめおめと捕虜になって生き延びている事実に自責の念を抱いて塞ぎ込んでいた。


その様子を見ていた俺は要らぬお節介をしてしまった。


『姫さまはこの星での戦いに何を見ましたか?そして御自分はどうすべきだと思いますか?』


俺がそう訊ねると、エリスティ王女は暫く考えた後でこう答えた。


『まさか、あのような形で主力空母が失われるとは思いませんでした。科学技術では進んでいるアムロイですが、ティーラの科学力を侮り、物量と地の利があるティーラとの戦争を甘く見ていたようです。おそらく、この戦争に私達は勝てないだろうと思います。この惑星を私達ヤグモ氏族が奪えてもアムロイの本隊である氏族連合から離れた私達はティーラの援軍に各個撃破され、最悪ヤグモ氏族の絶滅する未来すらあり得ます』


意外と冷静で客観的に戦況を理解しているようだった。


因みに姫さまの言う「ティーラ」とは地球の事な。


『そこまで理解しているのなら、姫さまにはやるべき事があるのではないですか?』


『それはアムロイにティーラとの停戦を促すという事でしょうか?』


そうです。頭が良い人は理解が早くて助かります。


『まぁ、アムロイとまでは言いません。ですが姫さまの立場なら少なくとも姫さまの故郷であるヤグモ氏族と地球連邦との橋渡しは可能なのではないかと思いますよ』


『…』


エリスティ王女は俯いて暫く黙り込み、そして顔を上げると涙目で訴えた。


『そうすべきなのでしょう。それでヤグモの滅亡が避けられるのならば。でも私は恐いのです。兵達を見捨てて逃げ出し捕虜となった私がどのような顔して故郷に戻れば良いのかと。私は父王に、家族に、部民に、将兵に合わす顔がありません』


『アスティさんに聞きました。エリスティ王女があの空母に滞在していたのは軍部から王族の観戦を乞われて王命によって観戦に赴いたからだと。そしてあの空母を撃沈したのはあなたではなくこの私です。そこに姫さまの責任となるものは何も無いでしょう』


『それは、そうですが、』


俺は更に続ける。


『あなたという成すべき者が成すべき事を成さず、それであなたの国が民が滅んだらそれはあなたの責任です。あなたはさっき恐いと言いました。それはあなたの国が民が滅ぶよりも恐い事ですか?』


『!!』


エリスティ王女は息を呑んで目を見張る。


『私の故郷にはこういう言葉があります。《明日のために今日の屈辱に耐えるのだ!》というものです』


その後に「それが男だ」と続く訳だけど。ここでは黙っておく。


『明日のために、ですか…』


そう呟いたエリスティ王女。その時は彼女をそのままそっとしておいて俺は引き上げた。


翌日エリスティ王女に面会すると、昨夜に何やら覚悟を決めたようで、その表情に迷いのような物は窺えなかった。そして何となく俺と彼女達との間に信頼関係が出来上がり、お互い名前で呼び合うようになっていた。


〜・〜・〜


アムロイ軍の大型空母を撃沈しても、試験艦キャスパリーグは火星駐留軍司令部と連絡を取り合う事は無かった。下手に通信を交わして火星宙域に展開するヤグモ氏族の艦隊に傍受されてこちらの存在が知られる訳にはいかない。


また、エリスティ王女は撃沈された空母と運命を共にしたとヤグモ氏族の王宮や軍部は考えているようで、ヤグモ氏族の艦隊はエリスティ王女の捜索に動く事は無かった。そうした中でエリスティ王女達の身柄について火星駐留軍司令部と交わした通信がヤグモ氏族に傍受されたら非常に面倒な事になる。


そうしているうちに地球圏から出撃した火星奪還艦隊が火星宙域に到着した。おそらくは火星奪還のために編成された奪還艦隊はヤグモ氏族の艦隊を凌駕する戦力で、ここで一戦行われたならばヤグモ氏族の艦隊は全滅しただろう。


しかし両艦隊による艦隊戦が行われる事は無かった。それ以前に極秘にコンタクトを取ったキャスパリーグとヤグモ氏族の旗艦との間でエリスティ王女の身柄引き渡しが行われており、エリスティ王女が父王を説得してヤグモ氏族と地球連邦軍との停戦交渉が行われていたからだった。


交渉の結果、ヤグモ氏族は土星のアムロイ本隊から分かれて地球連邦軍に降伏、一時的に武装解除となった。


キャスパリーグとヤグモ氏族とのコンタクトは双方のみの極秘事項だ。敵のVIPを捕虜にしておいて上の指示も無く勝手に身柄を引き渡していたとなれば利敵行為と取られかねないし、ヤグモ氏族にしても自分達の王族が敵の捕虜になっていたなどとても他の氏族に知られたく無い事柄だからだ。


従って俺達特務隊も試験艦キャスパリーグもエリスティ王女を捕虜にした事実は無い事となった。


〜・〜・〜


ヤグモ氏族と火星奪還艦隊との停戦後、俺達特務隊はキャスパリーグに乗ったまま地球圏に戻った。試験艦キャスパリーグは月の裏にある国防技術研究所のドッグに帰還し、俺達はアステロイドベルトへ向かう輸送船団に便乗して原隊に復帰した。


帰還した俺達を群司令の青木大佐は自ら出迎え、ナカザーニヤ作戦とその戦果について絶賛。その御褒美として俺は少佐に昇任し、火星に派遣された全員が一階級上がった。


更に青木大佐から欲しい戦力はあるか?と訊ねられ、ダメ元で「戦車が欲しいですね」と答えると大佐の鶴の一声で戦車小隊の配備が決まってしまった。その結果、特務隊は人員と装備が増えて特務大隊となった。


あれから3年が経過し、今、第869特殊任務群は土星宙域でアムロイ氏族連合を牛耳っているアメディオ氏族の移民船団に殴り込みをかけようとしている。その統領を始めとする元老院一派を襲撃して捕らえるなり、皆殺しにするなりしてこの戦争を終わらせるためだ。


いよいよこの有史以来の異星人との宇宙戦争も最終局面。どうも地球連邦軍上層部が考えていたより早く決着が着きそうだという。


それについては色々と原因はあるだろうけど、火星での奪還艦隊とヤグモ氏族の艦隊との戦闘が回避され、ヤグモ氏族が友軍となった事が大きいとは誰もが一致する要因だろう。


俺はエリスティ王女がヤグモ氏族の旗艦に身柄が返還された日に、彼女が俺に言った言葉を思い出す。


『見ていてアキ、私、必ずこの戦争を終わらせてアムロイとティーラとが共に手を携えて行ける時代を作って見せるから』


俺はきっとそんな時代が来ると信じているよとか、そんなような事を言ってエリスティ王女と侍女のアスティを見送った。


そして今、この戦争の最終局面で敵の本拠地へ殴り込む俺の特務大隊にはヤグモ氏族軍のコマンド部隊も臨時に編入されている。


「ミツルギ大隊長、我が義勇コマンド部隊の出撃準備は既に万全です」


ヤグモ氏族軍から派遣されたコマンド部隊のウメーリナ隊長が手の平を開いて前に向けるアムロイ流の挙手敬礼をして報告する。


ウメーリナ隊長は銀髪の美丈夫なエル、じゃなくてヤグモ男子だ。


「ご苦労さん、ウメーリナ大尉。まぁ楽にしていてくれ」


「はっ!」


(これもエリスティ王女の覚悟の賜物かな)


地球連邦とアムロイの戦争は最終局面とはいえ、まだ終わった訳じゃ無い。ここからまさかの逆撃が無いとも限らない。絶対が無いのがこの世だからな。


とはいえ、時代は少しずつでもエリスティ王女が望んだ方向へと向かっているようだ。



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