くっころ⁈
それは真っ白な緩衝材で覆われた球体をしている。パラシュートは大きな水溜まりに落ちて水没してしまっている。
俺達は救命カプセルを包囲したけど、それに対して中からは何ら反応は無い。中の人は見ているはずなのだけどな。
とはいえ、こうして囲んでいるだけでは埒が明かない。時間は有限であり、間も無くキャスパリーグが俺達の回収に来るにしても、ここは低気圧の移動と共に間も無く目から外れて暴風雨の中に入ってしまうのだ。そんな環境下での回収作業なんて冗談じゃないからな。
「誰かアムロイ語の出来る奴いるか?」
…… 返事が無い。
この新型パワードスーツは試作機で実験に不必要な装備や機能はとことん省かれている。翻訳機能も例外では無く、従って救命カプセルの中の人とは直にアムロイ語で話す必要があるのだ。もしかしたらあちらさんに翻訳機能があるかもしれないけど、希望的観測を元に行動する訳にはいかない。
「朝比奈少尉はどうだ?」
「「チョッオマニート」」くらいです。申し訳有りません」
「チョッオマニート」とはアムロイの言葉で「どうも、こんにちは」という意味で、要するに朝比奈少尉は英語で言えばハローしか知りませんレベルという事だ。いや、士官はアムロイ語憶えるように通知が出ているだろうに。まぁ努力義務で試験なんて無いけどさ。
仕方が無い、俺がやるしかないか。大学の予備士官養成課程にはアムロイ語学習がカリキュラムに組み込まれていたから、多少は俺もアムロイ語が使えたりするんだよね。
『投降せよ。然らざれば攻撃する。投降するならば身体及び生命の安全を保証する』
俺がアムロイの救命カプセルに触れてアムロイ軍が使う周波数で投降を促す無線を送信した。しかし何ら返答が無いので、再度同じ内容を1分以内という期限付きで送ると50秒辺りできれいな女性の声で返答が来た。
『と、投降します』
その直後、球体の表面に長方形に切れ目が現れ、上の方から開いてゆっくりと地面に向かって降りて来た。そして球体の中から白く身体にフィットした宇宙服を纏った女性が両手を挙げて出て来る。
その女性はヘルメットは被っておらず、長く綺麗な銀髪に切長で長い睫毛の両目にスッと伸びた鼻梁、少し厚めな唇、そして長く尖った両耳。エル、じゃなくてアムロイの美人だ!
『投降します。私はどうなっても、姫さまの身体と生命の安全を約束して下さい』
は?姫さま、とな?
『約束します。え〜と、姫さま、ですか?』
『はい、姫さまです』
『…』
『…』
俺は何やら事実に思考が追い付かず、美人さんは言っている事が伝わらず、思わず見つめ合ってしまう。
と、そんな状況を破るが如く、救命カプセルの奥からもう一人のアムロイが美人さんを押しのけるように現れた。
『アスティ、何をしているの?』
『姫さま、お下がりください。まだ安全が確保されていません』
アスティと呼ばれた美人さんを押し除けて現れたのは、アスティさんより小柄な金髪のえらい美少女。身に纏う白い宇宙服の左胸には何かの花が意匠化された装飾がプリントされ、この美少女からは高貴な雰囲気が漂っている。姫さまだろうか?まぁそうだろうな。
この姫さま、キッと俺を睨むと何やら喚き始めた。
『このエリスティ・サフール・ヤグゥモ、野蛮な異星人の情けに縋って生き永らえようなどとは思わぬ。くっ、さっさとこの首獲るが良い!』
この姫さま、人の話を聞かないタイプだろうか?
「隊長、その娘っ子、何て言ってるんです?」
オルデンドルフ軍曹が訊ねる。何て言ったものか、掻い摘んだ内容を教えれば良いか。
「え〜と、「くっ、殺せ!」だってさ」
「「「くっころ⁈」」」
意訳すればそう言っていたと思うのだけど。
乗っていた空母がいきなり撃沈されて乗組員が全滅する中、命からがら脱出するもあっという間に捕虜にされテンパってしまった姫騎士ならぬ、姫さまことエリスティ・サフール・ヤグゥモ王女。アムロイ氏族連合を構成する幾つかの氏族の中の有力な一つ、ヤグモ氏族の第1王女なんだと。
因みにヤグモ氏族っていうのが火星を襲撃した連中な。
この後、『生きて虜囚の辱めを受けぬ』『生き恥を晒しては戦死した皆に申し訳が立たぬ』とか言って暴れるエリスティ王女を俺は『大丈夫だから、俺達悪い異星人じゃないし酷い事なんてしないから』と宥めすかし、アスティさんからも『姫さま、彼等もあのように言ってますから』と説得して貰ってどうにか投降して貰った(?)。




