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君を想う、火星の空、星の船で

「プッw」


そんな俺の様子を見て李中尉が吹き出して笑う。


「ふふっ、顔が赤いわよ御剣大尉。私にドキドキしたのかしら?」


しかも揶揄うとか。性格悪いのな、この女。


「そりゃあドキドキするさ。こんな美人に迫られたんだから」


ここで変に言い訳や負け惜しみの言葉を口にするのは格好が悪い。なので、俺は正直なところを答えてやった。


「迫るとか人聞きの悪い事言わないで。勝手にあなたがそうなっただけでしょ」


まぁそうなんだけどね。


「私ね、あの演習であなたに全滅させられた中隊にいたの。翌日の徒手格闘戦でも白鶴拳の使い手な私が呆気なく予備士官候補生に敗れて、私のプライドはズタズタだったけど、これでスッキリしたわw」


「何だよ、結局あの時の意趣返しじゃないか」


「いいでしょこれくらいしたって。あんなとんでもない作戦押し付けられたんですからね」


そう言って俺の抗議を李中尉は鼻で笑った。


俺は仕方無しに既に飲み干して何も残っていないカップを食器返却口に押し込んで悔しさを誤魔化してみた。


「それで中尉の気が済んだなら良かったよ。それじゃあ、そろそろ時間だから俺は行くよ」


今度こそ食堂を後にしようとすると、再び俺の背中に声を掛ける李中尉。


「大尉、ご武運を。失敗して(まこと)を泣かしたら絶対赦さないからね?」 


彼女の言う(まこと)とは江摩真(えままこと)という名の女性で、第869特殊任務群の群司令である青木大佐の副官だ。更にはなんと俺の恋人でもあったりする。(まこと)も横須賀士官学校出の中尉だから、なるほど李中尉の同期生になるのか。


〜・〜・〜


江摩真(えままこと)は俺と同い年25歳。彼女の家は代々続く軍人の家系である。ご先祖様は明治以前に会津藩士として鳥羽伏見の戦いから会津戦争、箱館戦争と戦い抜き、西南戦争でも警視庁抜刀隊として従軍した猛者。その息子さんが帝国海軍に入り現在まで多くの軍人を輩出している筋金入りの軍人一族だ。


対して俺の実家も薩摩藩出身で彼女の家には及ばないものの、やはり薩英戦争以来の軍人一族だ。


俺の家は俺が小学生の頃に両親がW不倫で離婚した。そしてそれぞれが不倫相手と再婚し、更には父も母も俺の引き取りに難色を示した。まぁやっと一緒になれた浮気相手と水入らずでイチャイチャしたかったのだろうな。


そんな状況に母方の祖父が大激怒!祖父母は自分達の娘である俺の母を勘当して縁を切った。焦った母が俺を引き取ると言ったらしいけど後の祭りで、結局俺は母方の祖父母の養子となったのだった。


祖父母の家では既に3人の伯父達が地球連邦軍の将校となっていて、祖父も伯父達も俺には自分の好きなように生きなさいと言ってくれていた。なので俺は東京は港区にある私立大学に入学した。


だけどその私立大学、偏差値も高ければ学費も高い。祖父母は当然学費を出してくれようとしたのだけど、既に祖父は大佐で地球連邦軍を退役していた。祖父母にいくら財産や年金が有るからと言っても高額な学費を出して貰うのは忍びなく、俺は連邦軍が返済不要な奨学金を出してくれる予備士官養成課程を履修してアルバイト代と合わせて学費を工面したのだ。


後にアステロイドベルトの特殊任務群に引っ張られた時に、この選択をちょっと後悔したのはここだけの話。


そんな俺と(まこと)は在郷軍人会のパーティで子供の頃から度々会っていた。幼馴染って程では無いけど、まぁ知った仲だったな。パーティではダンスのパートナーでもあった。


(まこと)には年の離れた兄がいて、既に横須賀士官学校を卒業して任官していた。なので彼女自身は軍人になろうなんて気は無かったそうなんだけど、(まこと)は何故か俺も軍人になるものだと思っていたそうで、彼女も頑張って横須賀士官学校入学したという。


だけど俺は港区三田の私立大学に入学した訳で、聞くと(まこと)は俺が士官学校に進学しなかった事に大層お怒りだったそうだ。後に例の演習で再会した折に俺は(まこと)に随分とその事で責められてしまった。


俺としてはそんな約束なんてしていないのに理不尽なと思ったものの、そこは黙って耐え凌いださ。俺も鈍感系じゃないから、(まこと)が俺の事を想ってくれていたくらいはわかる。


その後、俺と(まこと)はなかなか会えは出来ないものの連絡を取り合っていた。そして俺が大学を卒業して予備士官として軍務に就き、更には第869特殊任務群に配属されると(まこと)は何と俺を追って月の地球連邦軍総司令部勤務から第869特殊任務群に異動して来たのだ。一族のコネまで使って。


「アキが好きです。あなたを追ってここまで来ました。私と付き合って下さい」


(まこと)は子供の頃から俺をアキと呼ぶ。それは今も変わらず、この時も俺をそう呼んで告白した。アステロイドベルトJ9宙域の小惑星基地で。


そうまでして来た(まこと)がちょっと怖くもあったけど愛おしくも思え、告白された俺は(まこと)と付き合う事となったのだ。


ショートにして真ん中分けした綺麗な黒髪、色白でちょっと吊り目な鋭い眼差し、スッと伸びた鼻梁に薄めで形の良い唇、160㎝の身長で着痩せするプロポーション。人は見た目じゃないけど、(まこと)は俺の好みな和風美人だ。


そうだよな、こんな戦いさっさと終わらせて(まこと)の元に帰らないと。


俺は任せろとばかりに背後の李中尉に右手を挙げると、部下達の元へと急いだのだった。


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