火星に代わって折檻よ
「作戦名ですか?」
ミハイロフ艦長が作戦の実行を許可すると、その後からすぐに艦内は動き出した。
先ずは少しでも成功率を上げるべく気象情報など補うべき部分を補う等作戦内容を見直し、それに従って敵艦を追尾中のキャスパリーグの位置を変更する。
そうした中でミハイロフ艦長から作戦名について提案がなされた。
「そう。私が付けてもいいかしら?」
「「…」」
俺と美濃部は思わず顔を見合わせた。
今まで不思議と作戦名について言及する者は誰もいなかった。そもそも俺が急いででっち上げた作戦案だったし、部下達も艦長が作戦実施を許可する前から既に準備に取り掛かっていたからかだろうか。
「サーシャ、何か良い案があるのか?」
村田技術少佐がミハイロフ艦長に尋ねる。え、今サーシャって名前で呼んだよねこの人。もしかして?再び俺と美濃部は顔に見合わせる。
「んんっ」
と、不意に咳払いがされた方を向く。
「お二人とも何か下衆な事を考えておいでのようですが、村田技術少佐とうちの艦長は大学の同期で技研での同僚で旧知の仲ですからね?」
李中尉が俺と美濃部に二人の間柄について小声で説明した。
「そういう事っすか」
「なるほど。でも何も言ってないのに人を下衆呼ばわりはどうかと思うぞ?中尉」
「そうですか?失礼しました。お二人がそういう表情されていたので、ついそんな言葉が口を突いて出てしまいました」
李中尉はちっとも失礼したようではなく、冷ややかな表情のままそう曰ったものだ。何故か李中尉に敵視されている俺達特務隊。いや、隊長だけじゃないっすか?と美濃部には言われそうではある。
そんなやり取りがありつつも、ミハイロフ艦長が考えた作戦名とは?
「ナカザーニヤ作戦」
「それってどんな意味なんすか?」
李中尉が艦長から予め知らされていたかは知らないけど、初耳が確実な男三人を代表して美濃部が艦長に尋ねた。まぁ、ロシア語ではあるのだろう。
作戦の命名者であるミハイロフ艦長によると、それはロシア語で"折檻"を意味するという。
俺と美濃部と村田技術少佐の頭上に?マークが浮かぶ。何故に折檻なのだろう?
「わかりませんか?火星と言えばそれは折檻なのですよ」
困惑する男性陣に向け李中尉が訳知り顔で答えると、その場にいたキャスパリーグの女性乗組員達や技研のスタッフ達もうんうんと頷く。
どうも女性陣の誰もがそれ以上俺達男性陣に説明する意思は無いようで、ミハイロフ艦長以下女性陣は「折檻よ、折檻」とキャッキャしている。俺達男性陣はそれ以上突っ込めず、そのまま作戦名は「ナカザーニヤ作戦」と決まってしまった。
俺達がしたいのは敵に折檻する事じゃなくて、敵を撃滅したいんだけど。まぁ、作戦名はどうあれやる事は同じだし、作戦が許可されたから名前なんか好きにしていいんだけど。
〜・〜・〜
さて作戦実施に際し、実際に敵の大型空母に降下侵入するメンバーである。俺達特務隊の人員は42人、今回の実験部隊任務として俺はその約半分である20人を火星に連れて来ていた。
というのは、まず第869特殊任務群の群司令直轄部隊としての本来任務を空には出来ないという事情があった。そして実験対象たる新型パワードスーツの試作機が10機だからそのテストパイロットに10人が必要であり、且つその予備員と隊務に必要な人員としての数名で20人・2個分隊という内訳だ。
じゃあこの20人の中から誰がやる?
「俺がやります」
「俺にやらせて下さい」
「是非拙者にやらせて下され」
と誰もが手を挙げてやる気満々。
部下達の士気が高いのはとても結構な事だ。隊長として嬉しく思う。しかし、作戦に投入可能な新型パワードスーツは10機。
実際には予備機がもう1機ある訳だけど、試作機を全て投入する事は出来ない。だから実動するのは10人という事となる。
勿論その中の一人は俺だ。隊長にして作戦の立案者だからな。
皆実力的には遜色ないメンバーではある。なので俺の独断と偏見で決める事とした。
「10人を5人ずつの2チームに分けAチームは俺が率いる。Bチームは朝比奈少尉が率いろ」
「了解。朝比奈少尉、Bチームを率います」
律儀に気を付けをして復唱する朝比奈直哉少尉。彼が本来の第1小隊の小隊長だ。俺より歳上の28歳で、高校卒業してから曹候補生となり、下士官から昇任して少尉になった努力家だ。
そんな彼が何で外惑星系の独立愚連隊たる第869特殊任務群の特務隊で俺の部下になっているのかといえば、何と艱難辛苦を求めて自ら志願したのだ。
眼光鋭く坊主頭のなで肩ムキムキ偉丈夫で徒手格闘の達人、朴訥とした朝比奈少尉は確かに僧兵のような風貌だ。
「Aチーム、涌井長介曹長、フリッツ・オルデンドルフ軍曹、パワード・パウエル伍長、宮辺浩平上等兵。Bチーム、西田俊作軍曹、陸文心伍長、トーマス・ホワイト上等兵、川合竜斗上等兵」
俺が名前と階級を呼び上げると「はい」と返事する者もいれば、「よし!」だの「イェーイ」だの「ヤー」と好き好きに返事をする。まぁその辺は自由にさせているから問題無い。要は最低限の規律が守られて士気旺盛なら良いのだ。
「隊長、俺は?」
「美濃部中尉には後を頼む」
「マジか。まぁ知ってましたけど」
作戦が失敗する事だって有り得るし、成功しても戦死者が出る事だってある。それが俺だった場合、部隊で俺に次ぐ階級の中尉である
美濃部残った部隊を率いて貰わなければならない。
いつもの様な軽くチャラい返事ではあるものの、美濃部はホストクラブでトップを取ったその端正な顔を悔しそうに歪ませていた。
俺が済まんな、とばかりに美濃部の肩を叩くと、それが合図となり特務隊は出撃準備にと動き出した。




