ツイている男
「私はこの作戦は成功すると考えています。というか、成功させます。部下達の同意も得ていますからね」
「それは上官に逆らえないだけなのではなくて?」
ミハイロフ艦長は先程殺気を放っていた時とは打って変わり、何やら憐れみを帯びた眼差しを俺に向ける。まるで「無理しなくてもいいのよ?」とでも言うように。
「私の部下達をみくびらないで下さい。皆、上官からの命令だって嫌なら嫌と平気で言う連中ですよ」
「それ威張って言う事?」と李中尉がぼそっと言うのが聞こえたけど無視する。
「私は部下達の能力を把握してますから、そもそも出来ない事は命じません。一見出来ないような事であっても出来るように考え、一緒に訓練をして可能性を少しでも上げているのです。部下達もそんな私の能力を把握していますし、互いに能力に関しては信頼しているのです。そして部下達が私に従う理由はそれだけではありません」
俺が言葉を切るとミハイロフ艦長は続けて?とばかりに瞬きをした。
「それは私が運が良くてツイている男だからです」
運とかツキとか非科学的な!と思われるかもしれない。だけど23世紀で人類が宇宙に進出している現代でもそれらは全く解明されていない。勘が良いとか、虫の知らせなんかも同様だ。それ故に今も人々は神に祈り、運よ良かれツイていよと願う。
「ぷっ、それ本気で行っているの?」
俺の言葉に笑い出すミハイロフ艦長。
「大真面目で自分がツイているから部下達に信頼されて作戦も成功すると言うのね」
「艦長、君は笑うがそれは大事だ事だ。かの東郷提督も連合艦隊の司令長官に抜擢されたのは侍従が明治天皇に彼の者は他の者よりいささかツキがあると奏上したからと言われているのだぞ」
村田技術少佐、フォローしてくれたのは有難いのですが、それ、ミハイロフ艦長へのマウントになりかねないですよ。
〜・〜・〜
ミハイロフ艦長はその後暫く笑い続けた。そして笑い終えると俺に「出来るのね?」と挑むように尋ねた。
「勿論です」と俺が余裕を持って答えると、ミハイロフ艦長はふぅと息を吐いてキリッと眦を上げて三人を見渡し言った。
「作戦を許可します。思う存分やって頂だい」
「仰せのままに」
恭しく受命する俺の肩を村田技術少佐が「やったな」とばかりに叩く。俺は作戦実行に立ちはだかる最大の難所を越えたのだ。
「艦長!」
しかし李中尉が抗議の声を上げるも、ミハイロフ艦長は手を挙げてこれを制した。
「中尉、もう決めた事よ」
それでも納得していなさそうな李中尉。
「月梅、今の私は試験艦の艦長で何の力も無いわ。でも私にもね、地球連邦軍の軍人として誇りや使命感もあれば、魚雷艇や駆逐艦乗りとしてやって来た自信と意地があるのよ。味方が次々と失われて行く様を見ながら何も出来ないジレンマを抱えて、敵の大型空母を追尾していたのだってどうにか一矢報いたくて体当たりしようかとも思っていたくらい」
キャスパリーグで体当たりって、上には上がいたよ。恐ろしい。
「一人でうじうじとそんな事を考えてたら、この御剣大尉があんな荒唐無稽な作戦を考えて成功させる気満々でいるじゃない。初めは何を馬鹿な事をって思ったけど、そんな大尉を見ていたら悩んでいた事が馬鹿馬鹿しく思えたのよ。きっとこの人はどんな戦闘もへっちゃらな顔して楽々とやってのけるんだろうなってね」
ミハイロフ艦長はそんな彼女に語りかけるように自身の内心をそう吐露した。だけど何気に俺の事随分酷く言ってるな。いいんだけど、別に。
「だから大尉、例えあなたが失敗しても総員退艦させて私がキャスパリーグで体当たりしるからね」
「いや、作戦は成功させますから、そんな物騒な考えは捨てて下さい」




