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匹夫の勇と言われても

俺と村田技術少佐は連名でミハイロフ艦長に面会を求めた。勿論非常識な時間帯ではない。


地球連邦のスペースコロニーや艦船と同じく艦内時間は地球標準時間が採用されている。今は午後15時、艦長のおやつ時間だったら申し訳無いけど、艦長ならば17時15分までは正規の勤務時間内なはずだ。


面会の申請はすぐに通り、俺と村田技術少佐は副長の李中尉に士官室へと通された。


「どうしました?お二人揃って」


和かな笑顔で俺と村田技術少佐に尋ねるミハイロフ艦長だけど、その目は決して笑ってはいない。あからさまではないけど、明らかに警戒している感じだ。


「貴重なお時間を割いて頂きまして誠にありがとうございます」


先ずはお礼だよな、人として。


村田技術少佐の方が俺より階級が上な訳だけど、この作戦の言い出しっぺは俺な訳だから口火を切るのも俺からだな。


村田技術少佐はいつの間にかすっかり作戦推進派になっていて、まるで決死隊のような面持ちだ。艦長が警戒しているのってそのせいじゃないかって思ってしまうよ。


「実は村田技術少佐と私の方から艦長へ意見具申がございまして」


「意見具申ですか。聞きましょう」


艦長から発言の許可が出たので、俺はこの半月の長距離偵察で得た情報から分析した今後の展開と必要な措置について艦長に説明する。


「火星地上軍戦力の主力が敵の大型空母からの航空攻撃により壊滅したため、火星上空から地上を制圧する敵の大型空母を無力化しないと友軍の火星奪還を待たずして地上軍司令部も全滅するでしょう。その対策案がこちらです、ご一考下さい」


それは立案した作戦案の概要を記した物で、謂わばエッセンスのような物だ。ミハイロフ艦長は差し出されたそれを手に取る。そして作戦案の概要に一通り目を通すと、更にそれを副長の李中尉に手渡し俺と村田技術少佐に剣呑な視線を向けた。


「このような無謀な作戦、とても許可出来ません」


ですよね。知ってました。だけどここからが本番だからな。


ミハイロフ艦長に続いて作戦案概要に目を通した副長の李中尉もこちらに咎めるような視線を向ける。


試験艦キャスパリーグの副長の李月梅中尉は肩まで伸ばした黒髪を七三に分けたちょっとキツめな目つきの理知的な雰囲気の美人さんだ。彼女が地球連邦軍の士官である事から出身が台湾か日本の台湾系華僑だとわかる。


え、何でわかるのかって?それは第三次世界大戦で大陸中国がやらかした結果に因るためだ。


第三次世界大戦で大陸中国は世界の各地で現地に潜伏させた組織や自国民を使って残虐な大規模テロを起こし、更に大戦末期で全世界に向けて無差別核攻撃を行った。死なば諸共って感じだったのかな。


核攻撃は日米英印によってほぼ迎撃されたものの、大規模テロにより世界中で何百万人もの命が失われた。大陸中国は日米英印を主力とする海洋同盟(後に地球連邦の母体となる)による報復攻撃により敗戦国となる以前に消滅し、かつての大陸中国の地は呉だの燕だのと名乗る幾つもの小国に分裂して地球連邦内における最貧国となっている。


その後、大陸中国の遺民達は元より世界中の中華系対する排斥運動が世界中で起きた。その結果、中華系は公然の被差別民俗となり、現在でも地球連邦では公職に就く事は出来ず、地球連邦軍でも士官への道は固く閉ざされている。


台湾は第三次世界大戦の前に日本と同君連合となっていたため当然戦勝国側であり、差別の対象とはならなかった。台湾軍は損害を恐れず、大陸中国軍に対して勇猛果敢に戦ったというしね。


従って、士官となり試験艦とは言えその副長となっている李中尉は大陸系ではなく、台湾か日本の台湾系華僑であると推測される訳だ。


それぞれ違いタイプの美女から咎められるとか、人によってはそれどんなご褒美かと思うところだけど、生憎と俺にはそんな属性は無い。


「全く、お二人のどなたが考えたのですか?こういうのを匹夫の勇と言うんです」


李中尉はどなたが?と言いながらも明らかに俺を見ながらそう言ったね。その通りだけど。


匹夫の勇ねぇ、意味わかって言ってるよな、確実に。俺、予備役とはいえお前より階級上なんだぜ?


というのは心の中に留めた俺だけど、李中尉の言葉にカチンと来たのは村田技術少佐の方も同様だったようだ。少佐もそっちの属性は無いようだね。


「匹夫の勇とは何だ!言葉を慎め中尉」


「いいえ、言わせて貰います。あの大型空母に特殊部隊を送り込んで核爆弾仕掛けるとか、出来る訳無いじゃないですか。やりたいならあなた達だけでやって、キャスパリーグを巻き込まないで下さい!」


「中尉、君の意見は求めていない。我々は艦長の意見を求めいるのだ」


「艦長なら先程これ見て言いましたよ?「このような無謀な作戦、とても許可出来ません」ってね」


李中尉のにべもない言葉にムッとした表情となる村田技術少佐。確かに艦長はそう言ったから痛い所を突かれたか。


睨み合う二人はそのままにして、俺はミハイロフ艦長に静かに再考を促す。


「確かに今までに無い作戦内容です。ですが、このキャスパリーグと新型パワードスーツと私達特務隊が揃った今しか出来ないシチュエーションです。成功率もこの嵐と“台風の目"のお陰で当初より上がって25%となりました。そして仮に戦死者が出たとしても特務隊員の10人だけで、決して許容出来ない損害では無いと思いますが?」


案にあなたの艦も部下達も傷付く事はありませんよ、と匂わせてみた。


「犠牲になるのが誰なら良いという問題ではありません。所属がどこであろうともこの艦にある限り、私には乗船者を守る義務があります」


やはり反対か。ここで手を引いても良いのだけど、俺にはこのキャスパリーグの行動について引っ掛かるものがあるのだ。


「しかし、このキャスパリーグはずっと敵の大型空母を追尾していますよね?それは艦長も何かしら反撃の機会を狙っているという事なのではないですか?」


さあ、ミハイロフ艦長。あなたはこれでどう出るか?





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