作戦前の作戦成功
「正気か?」
俺は美濃部を伴って村田技術少佐を彼が与えられた個室に訪ねた。アムロイ軍の大型空母を撃破する作戦を村田技術少佐に持ち掛けて説明した際に彼が発した言葉がこれだった。
俺が立案した作戦とは、簡単に言えば敵の大型空母に乗り込んで中から破壊してしまおう!というものだ。
勿論、普通なら無理だと思う。だけど今の俺達にはまだ試験段階とはいえ探知されない艦と同じく探知されず空も飛べるパワードスーツがあり、且つそれを熟知して使いこなせる特殊部隊がいるのだ。これらのどれ一つ欠けても不可能だ。
この説明に考え込む村田技術少佐。お、ちょっと乗って来たね?ならもう一押しだ。
「これによってこの新型パワードスーツを用いた新しい戦術が生まれるでしょう。少佐が立ち上げた陸戦兵器開発部門が生み出した新兵器が新しい戦術の道を切り開くのです」
「まぁそうだが、それは飽くまで成功したらの話だろう?」
「勿論その通りです。ですが、我々も徒に出来もしない作戦を立案した訳ではありません。美濃部、お見せして説明して差し上げろ」
ハッ!と勢いよく態とらしい返事をした美濃部は、携帯端末を操作して作戦のデータ画面を開き詳細を村田技術少佐に説明した。
「と、まぁざっと作戦はこんな感じです。因みにAIが弾き出した成功率は20%。特務作戦としては高い方だと思いますよ。それに大型低気圧を避けて標的が大気圏外に退避する可能性もありますから、その場合は実施しません」
この作戦の不安定要素は赤道付近で発生して現在発達中の大型低気圧だ。火星はテラフォーミングによって今やその表面積の半分近くを海面が占める"水の惑星"になっている。当然そうした気象現象も起きるわけだ。
そもそも、テラフォーミング以前の火星にも嵐は常に発生していた。20世紀末から21世紀初頭にアメリカ合衆国やソビエト連邦が送り込んだ複数の無人探査機が大規模な砂嵐を観測している。海がある今も時折り極めて強い熱帯低気圧が発生して北半球や南半球開発の阻害要素となっている。
この度発生した熱帯低気圧、これに火星上空に滞空する大型空母はどう対応するのか。反重力エンジンで飛行する艦艇に嵐はさほど影響を与えない。翼なんか無いしね。だけど強い暴風雨に艦体は揺れるだろうし、低気圧の勢力が落ちるまで大気圏外へ退避するかもしれない。
「まて。だがこの勢力の低気圧の場合、かなり大きな目が出来るはずだ。目の中は無風状態になるからそこにいれば大気圏外まで逃げる必要はない」
「なるほどぉ」
「その手があったかぁ」
俺と美濃部が声を上げて態とらしく感心して見せると、村田技術少佐は気分を良くしたのか微かにドヤ顔をして見せた。
勿論俺も美濃部も台風の目については認識済み。だけど村田技術少佐をこちらの陣営に引き込むため、敢えて作戦から台風の目の要素を抜いたのだ。
「台風の目に敵大型空母が退避する可能性も加味するなら作戦の成功率は更に上がるかもしれませんね。少佐はどう考えますか?」
俺がそう尋ねると村田技術少佐は我が意を得たりとばかりに自らの端末画面で台風について計算を始め、この作戦計画の立案にのめり込んでいった。
俺と美濃部はそんな村田技術少佐の様子に互いに顔を見合わせ「作戦成功」と頷きあった。




