不死なる少年 終
すみません、もう少し生前の話を続けようかと迷っていて投稿が途切れました。
楽しんでいただければ幸いです。
「……ようやく、完成した」
巨大な〝それ〟に、男は歩み寄ってそう呟いた。男の前にある〝それ〟は190を超す男の優に1.5倍を超える大きさを誇っており、全身を金属の鎧で覆っている。
〝それ〟は、一言で表すならば男の故郷である東和国の剣士である〝侍〟に非常に酷似した見た目をしていた。とはいえ、酷似しているだけで禍々しい見た目をしているのだが。
甲冑のような見た目の真紅の外装に鬼のような顔、黒い金属糸製のマフラーと全身角部に取り付けられたブレード。それが、男の作り出したものの全容だ。
このとてつもないものを、男は五年の歳月をかけて作り上げたのだ。その感慨深さはより一層深いだろう。
思えば、随分と長い間〝それ〟を作るのに熱中していたものだ。寝食も忘れ、ずっと没頭している。だがそれほどの執念と精神力が男にはあった。
〝それ〟の属する鉄人形……今では人々に〝ドール〟と呼ばれるそれを作ったきっかけは、別にそう大したことではなかった。
ただ、男が貴族として使えた国の王都にいた頃からよく知っている孤児院の者たちが自分の寮にいて、子供たちが増えてきたのでそれに比例して大きくなった畑の世話をするものが不足したから作った。それが始まりだ。
それからはあれよあれよと言う間に国中に、やがて大陸中に、果ては世界中にへと広がっていき、人々の生活の中に自然と収まってしまった。
ドールという名称にしても、男が数少ない信頼するとある一国の王が決めたものを採用したまでのこと。最終的に決めたのは男であっても、考えたのは人だ。
そうして男が製造方法の一部を解放したことで今では世界中で作られているドール。五年前までならば唯一秘匿しているドールのコアとそれを動かすプログラムしか作らない男が、今この世界にあるどのドールよりも強いドールを作り上げた。
それはなぜか。もちろん、今更創始者である自分が一番優秀だと示したかったわけではない。無論、何かを害する目的で作ったわけでもない。
そもそも、男は世界中の者にドールを通常時は対人用に使うことを禁止していた。ドールに生物への殺害許可があるのはモンスターや賞金首にのみだ。
それはドールの原点……人の助けとなるものとしての本質を消して失わないようにである。誰よりも悲惨な人生を体験した男だからこそ、その苦しみを知っているから。
とまあ、それはともかく。ある目的のために男はそのドールを作り上げた。自らの使えるものを全て使って。金も、権力も、それを作り上げるためにあらゆるものを駆使した。
そしてーー
「ーーカハッ」
ーー自らに残された、数少ない時間でさえも。
男は唐突に、その口から大量の血を吐き出す。既に相当弱り、男の強靭な精神力と気力、そしてその体の特異性でなんとか支えていただけの体に吐血は堪えた。
どさり、と床に崩れ落ちる男。
体を尋常ではない感覚が蝕み、酷くだるくなる。
吐血した拍子に血に濡れた白衣にしみていく血が、男の残りわずかな時間を示しているようであった。
「がふっ、ま、だ……!」
だが、死ねない。まだ、まだ最後にやるべきことがあるのだ。最後の仕上げが。
まだ、終われない。そう心の中で呟き、男ーーゼロ・ルフィネは、震える手を〝それ〟に伸ばした。
「ぐ、ぉ……!」
しかし、とうの昔に感じなくなったはずの痛みが曖昧な感覚でして襲い掛かり、うまいように動かせない。
「があ、ぁあああ……ッ!」
床に飛び散った血で服を濡らしながら、這いずってゼロは進む。
なんという気迫、なんという執念。既に死に体の体であるのに、その姿はいっそ修羅のようにも思える。
そのゼロの執念に、死に体は答えるようにほんの少しの活力を湧き起こした。それを頼りに、ゼロは〝それ〟に手をかけてなんとか立ち上がる。
段々と感覚が薄れてゆく手を伸ばし、〝それ〟に無数につながるコードが連結されたコンピュータのボタンを、懸命に押していった。
「これ、で……!」
そして最後のボタンを押し込んだ瞬間ーー低い駆動音がそのドールより鳴り響く。
コンピュータに無数のプログラムが表示され、一つ一つ生まれたてのドールの機能を目覚めさせ息吹を与えていく。
「やっ、た……!」
だが、そこで限界が訪れた。
「ごほっ、ゲホッゲホッ!」
再び崩れ落ちるゼロ。仰向けに倒れた拍子にしたたかに背中を打ち付け、再び血を吐く。
ガシャンッ!
「父さんッ!!!」
そんなゼロに、何かを取り落す音とともに誰かが駆け寄ってきた。
その誰かの声は、ゼロが他の誰よりも知っている声だった。自らの愛娘の声を聞き違えるはずもない。
本当ならばゼロへ食事を運んできた娘ーー〝アイリス〟は黒と金が見事に調和した長髪を振り乱し、血まみれのゼロに駆け寄る。
そして自らの手が血に濡れるのも構わず、ゼロの体を起こして必死に呼びかける。
「父さん、目を覚まして!父さん、父さんっ……パパッ!」
「……………あ、いり、す…?」
「っ! 父さん! 良かった……!」
安堵の表情を浮かべるアイリス。その顔は母親譲りの美貌で、とても美しかった。
だがそれも一瞬のこと、アイリスはキッと真剣な顔をしてゼロの体を軽々持ち上げて背中に背負う。
「邪魔……!」
重りになる腰の剣をベルトごと投げ捨て、階段を登りて上へと向かう。
「誰か!お医者さんを呼んで!父さんが死にそうなのっ!」
階段を走り抜け、大声で使用人たちに呼びかけながらアイリスはなおも走り続ける。その足が向かう先は……ゼロと、ゼロの妻がいつも一緒にいる部屋。
バンッ!
「ママ!」
扉を蹴り壊す勢いで開いたアイリスは、部屋のテラスでお茶を飲んでいた女性に怒鳴りかけるように話しかける。
すると、女性はアイリスのほうを振りむいた。その美貌はおおよそアイリスのような年頃の娘を持つにしては若々しく、二十代前半と変わらない。
当然といえば当然だ。なぜなら彼女……リリアは、不老の存在であるのだから。
「どうしたの? ママって呼ぶなんて珍しーーっ!?」
にこやかに微笑んでいたリリアはアイリスの手の中、血に濡れたゼロを見て一瞬にして血相を変える。
手の中から取り落とした紅茶入りのカップがテラスの床に落ちて割れるのも構わず立ち上がり、アイリスに走り寄った。
「酷い……!アイリス、何があったの!?」
浅い息しかしていないゼロの頭を撫で、アイリスに荒い口調で問いかけるリリア。
「わかっ、わかんない!い、いつも通りご飯を届けにいったら、た、倒れてて!」
だがアイリスにもそれは分からず、ただ目尻に涙をためて首を振った。
リリアは手をかざし、回復魔法をかける。それに込める魔力は通常の最上級回復魔法の約十倍だ。
「……治らない?どうして?」
しかし……ほんの少ししか、ゼロの状態は良い方へは転向しなかった。訝しげに顔をしかめるリリアだが、すぐに寝室へと向かう。
アイリスはリリアについていき、寝室へと移動した。そしてベッドにゼロをそっと寝かせ、血まみれの白衣を優しく脱がせる。
それを見届けたリリアが手をかざし、再度回復魔法をかけようとして……震える手が、その華奢で白い手を掴んだ。
「……リリア…………」
「ゼロ!」
ゼロは、うっすらと目を開けていた。あまりの歓喜にリリアは手で口を覆い、涙ぐむ。彼女の回復魔法が功を奏し、ゼロにわずかながら時間を与えたのだ。
「ゴホッ、ゴボッ!」
「ぜ、ゼロ!大丈夫!?」
が、またゼロは激しく咳き込み、血を吐いたのを見て慌ててその手を強く握った。
少しして、落ち着いたゼロはかすかに力ののこもるようになった手でリリアの手を握り返す。それだけでリリアは花が開くような笑顔を浮かべた。
だが……ゼロの顔を見て、すぐに懐疑的な顔をした。ゼロが普段は無表情なその顔に、いっそ鮮やかなまでの微笑みを浮かべていたからである。
「…どうして、そんな顔してるの……?」
「…………リリア……最後の願い、聞いてくれるか……?」
「嫌っ!!!」
「っ!?」
大きな声を上げて否定するリリア。後ろにいたアイリスはびくりと驚きに身を震わせる。生まれてから十五年、初めてこれほど大きな母の声を聞いた。
「いや、そんなの絶対に嫌よ!絶対に認めない!」
「ママ……」
〝最後の願い〟。その言葉の意味を理解できないリリアではない。いや、むしろ聡明な彼女はすぐに気が付いてしまった。
最愛の男との別れが、近づいてきていることに。しかし、それを認めない。認めたくはない。
けれど…ゼロの穏やかな微笑みを見て、リリアはもうゼロが覚悟を決めていることがわかった。
ゼロがあのドールを作った理由。
それは、自分の命がそう長くないと察した故。だからこそ、自分が死んだ後に自分の大切なものを……リリア達を守るために、あのドールを作った。
本来ならばその特異性により、通常の人間より遥かに長く生きられる。しかし、かつてリリアを救うためにゼロは命を縮めた。
そして、五年前に自らの命の限界を唐突に悟った。それは……悲しくも、愛娘であるアイリスの十度目の誕生日の日であった。
己の持つ全てをかけて、ゼロはあのドールを完成させることに必死になった。
だんだん弱っていく己の体から感じる刻々と迫る、いつかは訪れるタイムリミットに焦りながら。
そしてドールは完成し、先ほど最後の仕上げは終えた。あとは起動したあのドールにある命令を下せれば、本当の意味で終わりだった。
だが……どうやらもう、時間切れならしい。
タイムリミットが来る時の心構えは既にしていた。けれどまさか、あのドールを完成させたこの日はゼロも思いたくはなかった。
しかし、来たしまった以上、もう覆すことはできない。ならばせめて、最後は家族の前では穏やかに笑い命を終えよう。
その微笑みは、そういうものだった。
「頼む……」
それを悟ったリリアは、涙を流して唇を噛み締める。
「……任せて!」
それでも、もいつもの屈託無い笑顔を浮かべてゼロを見た。
「……ありがとう」
ああ、相変わらず彼女は強い。その強さに、自分は憧れたのだとゼロは笑う。
「俺の…ゲホッ……俺に関わりのある、人達を、集めてくれないか……ゲボッ!」
血の塊を吐き出すゼロ。本当に時間がないと思ったリリアは、それが気休めでしかないことをわかっていながらも回復魔法をかける。
「アイリス」
「うん、わかった!」
その傍らでアイリスにアイコンタクトを送り、ゼロの最後の願いを果たすための仕事を頼んだ。
アイリスは頷き、寝室を飛び出して父の願いを叶えるために走り出していく。
「……間に、あうかな…」
「大丈夫だよ……だから、みんな来る前にお別れなんて絶対ダメだからね……!」
そう言って、リリアは弱々しく呟くゼロの手を握り締めた。
それから十分後。
寝室には、ゼロに特に関わりの深い人間たちが集まっていた。
リリアがその無尽蔵の魔力で懸命に回復魔法をかけ続けていたおかげもあって、なんとかゼロは持ち堪えている。
全員が全員、彼がゼロという名になってから二十五年もの間人生に深く関わってきた、恩人とも呼べるものたちだ。
彼らは全員、ゼロが余命残り少ないと聞き、せめて最後は共にいようと己の仕事も放って駆けつけてきてくれたのである。
ゼロは力を振り絞って首を動かし、全員の顔を見渡す。そしてその死に体のどこにそんなものがあるのだというほど、涙を流す。
「みん、な……来て…くれたん、だな…」
「当たり前だろう?君に何かあったのなら、たとえ政務を放り出しても駆けつけるさ」
「あり、が、とう、レオン、さん……」
ゼロは正気のこもっていない、しかしどこか安堵のこもったような声で呟いた。レオンと呼ばれた男はシワの刻まれた顔に笑みを浮かべる。
「……奇妙な、ものだ」
まさか自分が、こんなにたくさんの人間に囲まれるとは想像すらしていなかった。
「……ふふ、沢山集まったね、ゼロ?」
「……ああ」
優しく語りかけるように微笑むリリアに、ゼロはいつも通り短く返す。
かつてこの体のせいでニンゲン達の悪意の限りを受け、絶望していた自分がまさか、と恥ずかしくなり、どうしても端的になってしまう。
思えば、随分と波乱万丈な人生だったものだ。
五歳の時にこの体の異常性に気がつき、それから十年、地獄よりなお辛い人生を生きた。
それがどうだ、リリアに手を掴まれ、救われて……ここまできた。
愛する妻と娘、そして家族とも呼べる人々に囲まれている。
本当に、こんな自分がとゼロは笑うこともままならない体を震わせた。
嗚呼……これ以上に、幸せな最後はないだろう。
だが、まだだ。全員にせめて、言葉を残したい。
ゼロはこの五年で衰えた自らの魔力や気力を振り絞り、止まろうとする命の鼓動をつなぎとめ声を発する。
「……レオン、さん」
「…なんだい?」
「…ありがとう、ございました。あなたがあの時……受け入れてくれた、から……今の…俺がある……あの時……許してくれたから、リリアを救えました。フィリオも、テティも……あなたにはたくさんの、優しさをもらいました……だから、ありがとう……〝義父さん〟」
「っ……最後にそう呼ぶのは、卑怯ってものじゃないかい……!」
ポロポロと涙をこぼすレオンにすみません、と言い、ゼロは次に隣にいる彼の妻である女性目を向ける。
それからゼロは、必死に一人一人に感謝を伝えていった。思っていることを、少ない時間で伝えられるよう言葉を絞り出して。
そして、最後まで残したリリアとアイリスには……
「……リリア。ありがとう。あの時救ってくれて。俺を、人間にしてくれて。愛してくれて。笑いかけてくれて。
他にも、数えきれないほど言葉は溢れ出てくる。しかし、それは声にならない。
「誰よりも……愛してる」
だから、一言だけで表した。
「うん……っ、うん…っ!」
「…アイリス……お前にも、ありがとう……生まれて来てくれて、本当にありがとう……」
「パパ……!」
「正直……お前には……父親らしいことをしてこれたか……不安だ……でも、きっと……お前が剣を握った……時、俺は……そばにいるから……だから……強く……誰よりも…強い心を失わずに……な」
「………っ!」
涙を堪えるアイリス。優しい愛娘に、ゼロはまた微笑む。
「……強く生きろ。それと、誕生日おめでとう」
「ばかっ……パパの、ばかぁ……!」
泣いていた。一人の例外なく、ゼロ自身も話しながら泣いていた。
(ああ……最高に幸せだ)
全てのものに話し終えたゼロは体から力を抜き、穏やかに笑いながらそう思った。
それまで張り詰めていた意識が緩んだからか、それまで押さえつけていた喪失感が一気に増していく。
「……怖い、な」
怖い。これまで無数に体験して来た死の中で、初めてそう思えた。
それはきっと、自分に大切なものができたから。
数えきれないほど繰り返した死。その最後が多少悔いの残るものであっても、まあ、そう悪くはあるまいーー。
少しずつ、自分の命の灯火が小さくなるのを感じた。かなりの眠気を感じ、瞼が重くなる。
ドガァァァァァァァンッッッ!!!
その時ーー〝それ〟は現れた。
『っ!?』
いよいよか……そう思われた瞬間部屋の壁を突き破り、〝それ〟は現れた。驚いて全員がそちらを振り向く。
やがて、壁が粉々になったことにより朦々と立ち込めていた土煙が晴れていく。
そうして姿を現したのは……大きな、鉄の人形。その首に巻かれた布を剣にして、壁を砕いて現れた。
驚きに目を見開いて唖然とする一同の中で唯一、ゼロはその口元に笑みを浮かべた。
「ーーああ、そうだ……まだ……お前が残っていたな」
そのゼロの声に応えるように、剣を金属布に戻した鉄人形がその鮮血色の双眸を輝かせ、床の上を滑るような動きでゼロの枕元へと移動した。
一瞬のことで反応できないリリア達。だが鉄人形がゼロに向かい片手を伸ばしたところで、ようやく我に返って各々の武器を引き抜こうとした。
「……平気、だ」
だが、それをゼロはかろうじて動く手で制する。そのまま、その手をこちらに近づけられた鉄人形の手の甲に重ねた。
……ピ、ピピ。
『機体への接触を確認しました。指紋認証開始……終了。創作者〝ゼロ〟と判断。 ご命令を、創造主よ』
それから発せられた機械的な声に、これまで喋るドールなど見たことのないリリア達は驚いた。
だが、今この瞬間だけはどうでもいい。ゼロは全身全霊をかけて鉄人形の顔に手を伸ばし、その地で濡れた手で面頬に触れた。
「……これが、さいしょで、さいごの、めい、れい、だ……〝シュキ〟」
シュキ。それが、このドールにゼロが与えようとしていた名前だ。その名前には三つの意味がある。
その灼熱のように赤い姿から〝朱鬼〟。
どんなドールよりも強く、全てのドールを統べるほどの存在という意味を込めて〝主鬼〟。
そして、自分が己の命をかけて作り上げたものとして、〝執鬼〟という意味を。
もはやほぼ聞き取れないようなゼロの声に反応し、鉄人形は解析を始める。
『……創作者の音声の強調より、限定的な単語を特殊なものと判断。 現在存在するその単語の意味として、機体への正式名称と判断いたします。 設定完了。 今後この機体の名称は〝シュキ〟となります。 マスター権限を持つ者のみが変更可能です。 再度命令の受理を開始します』
そう言って、跪くようにそこにいる鉄人形……否、シュキに向かって、ゼロは一体どこにそんな力があるのだというほどにその面頬を握りしめる。
「ーー守れ」
そして、いっそ修羅にも見間違えるような形相で、己の生み出した最高のドールに激白した。
「ここにいる全員を。
俺の家族を。
その身の全てをかけて、壊れるその日まで何があろうと守り切れッッッ!!!!!!!」
室内に、ゼロの声が木霊する。魂の叫びに、誰もが身を震わせた。
『……命令を受理』
その叫びに、鉄人形は答えた。
『声音の強度、脈拍の上昇、瞳孔の動き、本来の肉体の限界を超えた音量より非常に優先順位の高い命令と判断。 以降、シュキの行動原理の第一優先事項に設定。 固定、ロック完了。 命令の高優先度より、この命令は同質の魂を持つ人間以外は変更できません』
それを聞いて安堵したように、ゼロはするりとその面頬を握っていた手を落とす。するとシュキの黒い面頬の表面に、まるで痣のように血が残った。
今度こそ本当に、全く体に力が入らなくなった。指先すらピクリとも動かない。だが、ゼロは満足げに微かに笑っていた。
(これで本当に、やるべきことは終えた……)
未練は……正直なところかなりあるが、自分が命をかけて作り上げたものを完成させられただけでも、十分だ。
いきなりの展開に他の面々が気圧される中、リリアとアイリスだけはすぐに我に返り、ゼロの手をそれぞれ左右から取った。
「まったく、昔からいつも突然なんだから……」
「……こいつ、なかなか……かっこ…いい、だ、ろ……?」
「もう……」
「……あい、りす。パパ、からの……最後の、誕生日……プレゼントだ。気に……いったか?」
ああ、かすかな笑顔を浮かべるのすら一苦労だ。そんなふうに思いながらも笑うゼロを見て目元を歪めながらも、二人は笑う。
どうやら三人とも、思うことは同じなようだ。せめて最後は、笑顔で。
「……パパ、もう喋らないで。辛いでしょう?」
「そうだよ……お疲れ様。もう、休んでいいんだよ」
「「だから……おやすみなさい」」
涙をこぼしながら、それでも優しい声で語りかけてくれる最愛の妻と娘に……ゼロは。
「ああ……おやすみ」
そう言って……その意識を、暗闇の中に落としていった。
そうして、〝偉大なる魔工師〟と呼ばれ、英雄と称えられた男はその四十年の人生に幕を下ろしたのだった。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。心から感謝いたします。
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