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不死なる英雄  作者: 熊吉
10/11

不死なる少年 10

楽しんでいただければ幸いです。


ゼロが長い旅を終えてゼディアを倒し、フィリオを連れてエレメティア王国に戻ってきてから、早いもので一ヶ月が経過した。


その間、ゼロは極力リリアと共にいることにしていた。単純に三年間もいなくなっていたことからその時間を取り戻したいというのもあったが、それよりもリリアの体調が優れなかったからだ。


〝血の加護〟。究極の呪法とも呼ばれるその加護を生きながらえることの代償に受けたリリアは、しばしの間体がその加護に適応するため相当弱っていた。


師匠に頼み込んで作ってもらった技術の粋を集めた車椅子がなければ移動もままならないほどだったリリアに、ゼロはこの一ヶ月間の間一生懸命寄り添っていたのだ。


ほかのブレイブ家の面々も全身全霊をかけてサポートした結果かリリアはみるみるうちに回復し、そして元のリリアと同程度の状態に戻った。


その間ずっと一緒にいたことにより、ゼロとリリアの仲がそれまで以上に深まりもはや夫婦と変わらないレベルに達しているのはご愛嬌だろう。


ついでに言うと、弱っていた間使われていた車椅子はリリアの寝室の隅に飾ってある。一ヶ月も自分を助けてくれた物なので、かなり愛着が湧いたリリアである。


弱っていた身体能力も戻ったことにより、ゼロが無理をしないようにずっと付き添っているとはいえリリアは精力的に政務に勤しむようになった。


度々見舞いに来ていた聖騎士団員達も、傷が癒えた上にゼロが戻ったことにより以前の明るいリリアに戻ってくれたことを心の底から祝福した。


ちなみに王城の近くにある聖騎士団の駐屯所に顔を出した際ニコニコとしながらゼロと腕を組んで現れたリリアにすぐに何かあったと察して別の意味でも祝福されたのは言うまでもないであろう。


ともかく、そうしてリリアは以前と同じ……いや、以前以上に満ち足りた幸せな気持ちで生きていた。もちろん、その側にはゼロがいつもいる。


一方そのゼロはといえば、リリアが弱っていた間はほぼつききっきりだったので必要最低限にしか外出はしなかったが、彼女が回復したので王城に足を運んだ。


それはなぜか。当然、ジェムズに謁見し、今回のことの例やその他諸々のことを伝えるためである。


あの時……リリアをゼディアの凶刃から守りフィリオを人間にした日。あの時、ジェムズが来て話をしてくれなければ、戻る決心をすることができなかったかもしれない。


もちろん、いつかは必ず戻るつもりだったし、あの時ジェムズに言ったことは偽りではない。自分が居るべき場所はリリアがいるところなのだから。だが同時に、拒絶されるのではという恐怖もあった。


あれだけのことをして黙って消えたのだ、嫌われていてもおかしくない。それでもリリアのそばにゼロはいるつもりではあったが……しかし、それでも足がすくんだ。


結果的に、フィリオのこともあったとはいえすぐに帰る決心をして良かったであろう。そのおかげでリリアを救えたのだから。


だから、発破をかけてくれたともいえるジェムズにゼロは心の底から感謝していた。


数日して謁見が叶った際ゼロがその感謝を伝えれば、ジェムズは笑って自分は何もしていない、動いたのはゼロだと言った。その結果リリアを救えたのも全て、ゼロの決心あってこそと。


また同時に、ジェムズは以前よりゼディアの過去を知っており、いつかその本性を暴こうと密かに思っていたらしく、今回のことでいずれ王国にとって毒になり得る要素も排除できたと言った。


それを聞いた時、ああ、この老人には敵わないとゼロは思った。確かに自分も賢い。しかし賢くても、いくら力があっても、この〝王〟には決して敵わない、と。


とまあ、そんなこともあったが、ゼロは無事にジェムズに感謝を伝えることができた。だがしかし、ジェムズの方にはまだ話があったのだ。


その話とは……まあ要約すれば、陞爵だ。その理由としては、魔王の甘言に従い、聖騎士団長であるリリアを殺害しようとしたゼディアを討伐したこと。


次に、〝邪神に邪石を使って操られ〟、魔王に仕立て上げられていた無垢な少女…フィリオのことを救い〟、〝魔王の存在をこの世界から消したこと〟である。


もちろんこれは、レオンから報告されたフィリオについてのことをジェムズがうまく使った結果こうなったのである。


三つ目は魔王の存在が消えたことにより攻撃的になっていたモンスター達が大人しくなり、魔族領の奥に引き返し平時に戻ったことについての功績。


ほかにもいくつかあったが、大きなものはこの三つだろう。この功績をまとめた結果、ゼロは公爵位を与えられることとなった。


ついでにその凄まじい実力を評し、『剣聖』という称号も与えられることになる。まあ、これは名ばかりの称号で何かあるわけでもない。


その授与式が行われたのは謁見してからほんの数日後のことである。その手の早さにゼロは思わず苦笑してしまった。


当然のごとくほんの数年で高位の貴族になったゼロに不満を抱く一部の貴族が反対したが、密かにフィリオが記録水晶に残していたゼディアの狂言が公開されたこともあって無事に?陞爵された。


その勢いで、ようやく並び立ったと内心歓喜したゼロは大勢の貴族が集ま中、聖騎士団長としてその場にいたリリアに近づき、改めてプロポーズをした。


もちろん、リリアはそれを快諾。涙ながらにゼロに抱きついた。その光景に一部の令嬢や貴族の息子が絶望し、一部のブレイブ家派閥とも呼べる貴族達が歓声を上げたのはいうまでもない。


ちなみに、ゼロがリリアにプロポーズした時の二人の会話がこれである。


「……リリア。俺はあの日、貴方を守りたいと、ずっと隣で支えたいと願い、そしてそのための力をつけることを決意した。それからだいぶ時間がかかったけど……でも、ようやくここまで来れた」

「ゼロ……うん、ありがとう。私もね?実はテティちゃんを助けた時のゼロの笑顔を見てから、ずっとあなたを見てたいなって、そう思ってたの。一緒に生きていけたらなって」

「……リリア」

「…うん」



「ーー俺と、結婚してくれ。リリアに、妻としてずっとそばにいて欲しい。俺の、生きる理由になってくれないか?」



「あはは、責任重大だね…うん、こちらこそ!ずっと一緒にいようね!」


これほどにお互いのことを想う二人の間に、誰が入り込める。


そこにあったのは世界最強の男と国の誇る聖騎士団長ではなく、ただお互いを愛している二人の男女だったのだから。


そうしてゼロは長年の努力の末にリリアと結婚し、生涯共にいる権利を勝ち取ったのだった。


それからはトントン拍子にことが進んだ。結婚の報告を聞いたレオンは即座に式場の手配、式の時のドレスやタキシード、参加する人間などいっそ鮮やかなほどの手際で用意していった。


往生際悪く騒ぎ立てる親類や以前から付き合いのあった貴族達を片手間に叩き潰しながら着々と準備は進んでゆき、そして二人は盛大な結婚式を挙げることができた。


参列したものは中々壮観なメンバーであった。まず、聖騎士団が全員にジェムズをはじめとした王族、ブイレブ家の面々、リリアの友人の女貴族やゼロが信頼する何人かの貴族などなど。


しかしそれはほんの3割ほどで、あとはほとんど平民だ。もちろん、ゼロに縁のあるもの達である。あのスラム街の孤児院のメンバーも参列していた。


そうして大勢の人に祝福されて、ゼロとリリアは結ばれ夫婦となったのだった。


そして、今。


「ーーター、ースター、マスター」

「…!?」


声によって、じっと深い思考に陥っていたゼロは我に返った。そして声の主……壁に寄りかかっている自分の隣に直立している女性を見やる。


「マスター、ご緊張なさらずにリラックスを」

「……別に、緊張はしていない」


淡々とした口調で話す無表情な女性にそう言って、ゼロは異空間に手を突っ込んで本を取り出そうとする。


「マスター、それは本ではなく刀です」

「……………」

「緊張していると、いざという時ミスを犯します。平静を保ってください。なにせーー








ーーあと少しで、マスターは父親になるのですから」








ゼロは、父親になろうとしていたーー



●◯●



 時間は遡り、約6時間前。ちょうど昼時のその時、ゼロは畑にいた。というのも、領民とともに田畑を耕していたためである。


 今まではただ世界を旅する中で挙げた功績がそのまま貴族としての実績に変換され、特に貴族らしいことはていなかったのだが、公爵になった以上そうもいかない。


 そういうわけで、ゼロはジェムズよりそれまで王族が管理していた領地のうちの一つを下賜された。それこそが今ゼロのいる場所である。


 王都からある程度近いその場所は、王族が国の政務に疲労した際に休息の地とされていた場所であり、ジェムズも結婚した際に新婚旅行として来たことがあるらしい。


 ちなみにそこを任せるという話をしたときジェムズの浮かべたニヤリとした笑いに、ある程度のことをゼロは察した。


 要するに、自分たちも行ったことのある場所でお墨付きだから、新婚旅行も兼ねてそのままそこに住めということだろう。つくづく、気の利く王様である。


 そんなジェムズ一押しの領地は確かに美しかった。初めて見たときの感想を一言で表すと、絶景だろうか。


 透き通るような川に、多くの鳥や小動物が住まう緑豊かな森。気候はちょうどよく、暖かな日差しがとても気持ちよかった。


 加えて、領主の屋敷のすぐそばには大瀑布と言っても過言ではない滝がある。滝の裏側には秘密の場所があるらしい。こんないい場所を下賜してくれたジェムズにゼロは再び心から感謝した。


 そういうわけで、領主となったゼロ。しかし領民がいなければ領主というのは成立するかと言われれば、それは少し難しい。


 なので、ゼロは王都から領民となる民達を連れて来た。そう、スラム街の住人達だ。明日への希望もない彼らをゼロは自らの民として受け入れた。


 もちろん、全てではない。国一の大きさを誇る王都のスラム街もそれに比例して凄まじい広さであり、そこにいる全員を招き入れることはできない。


 なのでゼロは女子供を主として、あとはその家族やゼロ自身がその目で見て信用できると思ったもの達を働き手として招き入れた。


 結果は上々。領地運営のためにジェムズより預かった資金を元手に、まず最初にゼロは領民達が暮らせる環境を整えた。


 その次は、ゼロが旅する中で集め、異空間の中に死蔵されていた穀物や野菜の種で畑を作り、森の中から家畜となる動物を集め領民に管理させる。


 ゼロの魔法で成長が促進され、すぐに成熟した食料を使い世界各地で学んだ料理を作り出して領民達にそれを作れるように教育。そうすることで料理人を生み出した。


 他にも薬剤師、宿屋、服飾人、鍛冶屋……などなど、多岐にわたる職種へのスキルを非常に手際よく領民達に高めさせた。


 なぜそのようなことをしたか。それは、ゼロがこの領地を観光地として生まれ変わらせようと考えたからである。この美しい景色、ただあるだけではもったいない。もちろんジェムズの許可はとってある。


 結果から言えば、そのゼロの目論見はビジに成功を見せた。元王族御用達の場所ということもあって、完全に観光地として生まれ変わってからほどなくして一気に有名になった。


 そこまでこぎつけるまでに諸々の小さな問題はあったが、しかし初めての領地経営にしてはゼロは優秀すぎるほどの成果を見せた。若くして優秀な領主が経営している観光地、というのも今の領地の人気に一役買っていると言えるだろう。


 そうして領主としての仕事も生来の異常なほど賢い頭脳で完璧にこなし、リリアとの夫婦仲も普通よりもずっと円滑にこなしているゼロ・ブレイブ改めゼロ・ルフィネ。この領地から取った名だ。




ゼロは今、畑仕事を手伝っていた。


 すでにここに来るまでにデスクワークは終わらせて来たため、息抜きの意味も兼ねてゼロはこうして汗水を流しながら領民とともに働いている。


 今は何の因果か領主という立場に収まっているが、元は底辺の中のさらに底辺にいたゼロ。もとより泥にまみれていた方が居心地がいいというのもあり、デスクワーク以上に楽しくやっている。


 そんなゼロと一緒に畑仕事をしているのは、かつてスラム街の孤児院にいた子供達とシスターイリナである。こちらに来てから新しく建てられた孤児院の畑を耕しているのだ。


「…んっ」

「おお、りょーしゅ様すげえ!一気にザクっていった!」

「お上手ですねえ、ゼロさん」

「…そういうイリナさんだっていい筋をしてますよ」

「いえいえ、私なんかまだまだです!」


 そんな風にキャーキャーと騒ぎながら泥だらけで畑仕事をするゼロを、畑のすぐそばの休憩所でリリアは微笑ましそうに見守っていた。


 出会ってから十年と少し。元は石橋の下で見つけた一人ぼっちの少年が、今や自分の最愛の夫だ。昔は今にも折れてしまいそうだったその後ろ姿はとても逞しいものになっている。なんと感慨深いことだろうか。


 そんなリリアのお腹は、大きく膨らんでいた。あれだけ仲が良いのだ、もちろんやることはやっているわけで。


 リリアは、30歳にして初めてその身に新しい命を宿していた。もういつ産まれてきてもおかしくない状態だ。初めて妊娠を知った時のゼロの慌てようと言ったら…一生リリアは忘れないことだろう。


この領地に住み始めてからすでに三年たっており、その夫の後ろ姿を見守る姿はどこからどう見ても領主の妻だ。


 それでいて10代としか見えない見た目を未だに保っているのは、これから母となる彼女の生命の強さを指し示しているかのようだ。むしろ、ゼロと出会う前よりもずっと彼女は美しくなっているだろう。


 ゼロの好きな穏やかな笑顔を浮かべるリリアと共に彼を見守るティティアナやフィリオもまた、同じ気持ちでゼロを見ていた。彼女達もまた、名無し時代のゼロを知っているが故に。


説明すると、ブレイブ家から特に二人に縁の深い従者達はこの領まで二人についてきた。全部でざっと二十人ほどだろうか。特に重度のブラコンであるフィリオなどゼロに泣きついたほどだ。

 

 その従者一同もまた、今の生活を心から楽しんでいた。何年もずっと見てきたリリアとゼロがいて、ゼロが必死になり作り上げたこの暖かな地がある。そんな場所で従者として働けるのは幸運以外の何物でもない。


その中で今この場にいるのは三人。ティティアナ、フィリオ、そして……無表情のロングドレスの女性。名をレシィという。


彼女は人間ではない。かといって魔族でもないし、テティのような人の姿をしたモンスターでもない。では何か。答えは、剣だ。


その〝剣〟は代々受け継がれてきた名言であり、ダンテもまた数十年もの間愛用し、弟子となったゼロに受け継がれ、そしてゼロが旅をしている中でも常にその手の中にあり、ゼロの行く末を切り開き続けた。


結果、その剣にはいつしか魂が宿った。それがレシィだ。ゼロの故郷の東和国で言う所の、いわゆる付喪神というやつである。


その性格は極めて冷静かつ何千年も使い手達と共に世界を見てきただけあって深い叡智を持っており、いつもゼロを手助けしてきた。難点は無表情な上に無口なので感情が読み取りづらいことだろうか。


ちなみに、いつも無表情で屋敷の中をさまよう彼女が、ルフィネ邸の七大不思議に数えられているのは秘密だ。


そんなレシィを含めた主人+従者三人がしばらく見守っていると、やがて仕事を切り上げて全員でこちらに向かってきた。それを見て従者トリオは動き始める。


「あー疲れたー!」

「お腹減ったよー!」


彼女達の予想通り、休憩所にきた子供達は口々に疲労と空腹を訴えた。テキパキと大量のおにぎりと唐揚げなどのおかず、飲み物を用意していくトリオ。


それを手伝いながら、ゼロはリリアへ声をかける。


「……なんともなかったか?」

「うん、心配しなくても大丈夫だよ♪」

「…いつ生まれるのかわからないんだ、見てくれているのは嬉しいが、あまり無茶はしないでくれ」

「ふふ、ありがとう旦那様♪」


桃色の空間を作り出す二人に、準備をしながらフィリオは今にも砂糖の滝を吐きそうな顔をしていた。妊娠してからさらにラブラブ度が上がり、流石に少し参っている。


そんなフィリオに苦笑しながらティティアナが肩を叩き、おにぎりの山が築かれた大きなお盆を木の机にどんと置く。その次はレシィが唐揚げ山の盆を持ってきた。


目をキラキラとさせ、よだれを垂らす子供もいる中全員が手をきれいに洗い、集まったところで神に感謝の言葉を捧げると我先にと食べだした。


その様子に苦笑しながら、リリアと隣に座ったゼロもゆっくりと食べ始めた。すでに片手は重ねている。苦笑するフィリオ。


唐揚げの争奪戦などが起こっていたが、しばらくすると途中でイリナの喝が入ったのもあり和気藹々と食べはじめる子供達。それをぼーっとゼロは見つめた。


「…ふふ、どうしたの?」

「……いや、幸せならいいなと思った」

「いいな? 幸せそうだな、じゃなくて?」


リリアの問いにゼロはかぶりを横に振り、ゆったりとした口調で語る。


「……時々、わからなくなる。俺のしてきたことは正しいのだろうか、あいつらのためになっているのかって」

「ゼロ…」

「…だって、俺がしてきたことは全部リリアのためで、あいつらのためだけじゃない。だから不安になるんだ、俺はちゃんと上手くやれてるのか、とな」

「………」

「だからか、ああやって笑顔を見ると…安心する。少なくとも、今は楽しそうだなって。だから正しいのかわからないけど、でもあいつらが笑っている間は頑張ろうって、そういう気になるんだ」

「……なーんだ、そんなことか。それなら、答えは決まってるじゃん」


首をかしげるゼロに、リリアは微笑みながら言う。


「正しいよ。ゼロがしていることは、正しい。だって、あの子達が笑ってて嬉しいから頑張りたくなるんでしょ? その気持ちが原動力になってやってることなら…きっとそれは、正しいことだと私は思うよ」


そう言ってにっこりと笑うリリアに、しばらくゼロは考えるようなそぶりを見せる。やがて、緩慢な動きで頷いた。


「……そうか。ならもっと、笑ってもらえるように頑張らないとな」

「そうそう、そのちょうーーーーゔっ!?」

「!? どうした!」


不意に顔をしかめたリリアが、お腹を抑えてうめき声をあげた。即座に反応するゼロと従者トリオ。子供達も何事かと目を向ける。


ティティアナが背中をさすり、フィリオが痛みを和らげる魔法をかける。すると幾分か顔色は良くなったものの、まだまだ辛そうだ。


今まで見たことのない状態にゼロ達が困惑していると、不意にそれまで黙っていたレシィが歩み出た。そしてリリアのお腹を触る。


手をつけること数秒間、手を離したレシィはゼロを見上げてこう言った。


「……マスター、破水しています」

「ーー! それは本当か!?」

「間違いないかと。私は何回かこういった場面を見たことがありますので。早急に出産の準備をした方がよろしい、と判断致します」

「……わかった。ティティアナ、フィリオ、頼む」

「ま、任されましたぁ!」

「義姉上、無理せずゆっくりと立のじゃ」


ティティアナとフィリオに支えられ、リリアは馬車へと乗り込む。後を追いかけるように剣状態になったレシィを腰に差し、ゼロは走り出そうとした。


が、しかし立ち止まって振り返り、心配そうな表情のイリナ達に深く頭を下げる。そうすると踵を返して馬車へと走った。その後ろ姿を見ながら、イリナと子供達はどうか上手くいきますようにと祈る。


ゼロが乗り込んだ瞬間、馬車につながれていた翼の生えた白馬が嘶いて飛んだ。魔法が込められている馬車はその麻酔長に浮き上がり、白馬にひかれるがまま領主の館へと向かっていく。


「大丈夫だ、すぐに着く!後少しの辛抱だ!」

「……ぜ、ゼロ…手、握って……そしたら、ちょっ、と、安心できる、かも」

「ああ、わかった」


そっとリリアの細く白い手を取り、ゼロは祈るように自分の額にそれを押し付ける。そして目をつぶり無事に上手くいくことを願った。


ゼロが祈る間も、五人を乗せた馬車は空を飛んでいくのだったーー



●◯●



ーーそして時間は戻る。


屋敷の中の、リリアが従者に手伝われ出産をしている部屋の近くに置かれているソファでゼロはその時を待っていた。すでに分娩が始まっており、中には入れない。


待ち始めてからかれこれ6時間は経っている。レシィの話によれば出産するまでの時間は個人差があり、早ければ3時間ほど、長いと1日ほどかかるそうだ。


となると、6時間は普通といったところだろうか。しかし、ゼロにはその6時間が永遠とすら思えた。貧乏ゆすりをしてじっと一点を見つめるその姿は常に冷静沈着なゼロにしては珍しい。


時折聞こえてくるリリアの苦しそうなうめき声が、ゼロの神経を逆なでするように耳に残る。今にも不安で胸が張り裂けそうなゼロだった。となりにレシィがいて定期的に声をかけてくれなければ、そこらをウロウロとし始めそうだ。


まだか、まだか、と焦る中、やがてその時は訪れた。部屋の中から微かに、おぎゃあ、おぎゃあという声が聞こえてきたのである。ゼロは縮地法を使って即座に扉の前に移動した。無駄に洗礼された動きだった。


そのまま、恐る恐るといった様子でノックをする。すると扉が開き、憔悴しきった様子のティティアナが顔を出した。その表情に一抹の不安を覚える。


しかしそのゼロの不安を打ち砕くようにティティアナは笑い、グッと親指を立てた。どっと押し寄せてきた安堵に崩れ落ちそうになりなる。


だが、そうもいかない。ゼロは覚悟を決めてティティアナに部屋の中に入れてもらった。すると、視界にベットの上で背中を壁につけ、手に白い包みを抱いているリリアが映る。即座にゼロは駆け寄った。


「リリア!」

「あ、ゼロ」

「大丈夫だったか?」

「うん、ばっちり…かな」


リリアはこれまで見たことがないほど優しい笑顔を浮かべながらそう言い、白い包みをゼロに差し出す。


ゼロは困惑しながらもそれを受け取り…予想以上の重さに一瞬驚いた。だがすぐに気を取り直して、その白い包みを覗き込む。


そこにはーーー一人の、赤ん坊がいた。しわくちゃで、まるでサルのようであったが、確かに人間の赤ん坊である。



ーーードクン



赤ん坊を見た瞬間、ゼロの心臓が大きく脈動した。そして悟る。この子こそが、自分の子だと。


(……ああ、そうか。この子が、そうなんだ。こいつが……俺の、子供なんだ)


顔をうつむかせて震えるゼロに、まだ疲労の残る体を動かしてゼロの頭を撫で、なるべく優しげな声で語りかける。


「……その子が、私達の子だよ、ゼロ。私と、あなたの」

「…ああ」

「女の子だってさ。よかったね、私達の望み通りだよ♪」

「…ああ……」

「……ふふ、嬉しいなら泣いてもいいんだよ?」

「……ああっ…!」


ゼロは、泣いていた。理由は定かではない。それでも自分の子を見た瞬間様々な思いが全身を駆け巡りーー気がつけば、涙を流していた。


床に膝をつき、静かに泣くゼロをリリアは母性に満ちた眼差しで見つめていた。が、すぐに驚いたような顔をする。


なぜなら泣きながらも、ゼロがとても優しい笑顔を浮かべていたからだ。それは、リリアが一番好きなゼロの顔だった。


「ぁ、ぅ……」

「あ……」


そんな父親の思いに応えたのだろうか、まだ生まれて間もない赤ん坊は手を伸ばし、ゼロの手に触れた。目を見開くゼロ。しかしすぐにまた泣き出してしまう。


結局、ゼロは赤ん坊を抱いたまま泣き続け、泣き止んだのは十分後のことであった。ようやく涙を拭ったゼロは立ち上がってリリアに赤ん坊を渡す。


そうするとしゃがみこんでリリアと目を合わせると、真剣な目をした。


「……リリア、ありがとう」

「こちらこそ、旦那様……いや、お父さん♪」

「…そう、だな。今日から、父親か……こんな、こんな俺が」

「実感がわかない?」

「……まあ、な。昔がアレだったし」

「でも……それでも、今あなたはここにいる。そしてこの子の父親よ」


(……そうだな、それが事実だ。昔は関係ない。問題は今俺がどうするか、だが……まあ、そんなもの決まっている)


今一度決意を固めたゼロはグッと表情を引き締めてリリアの目をまっすぐ見る。そして自分に言い聞かせるように、強く宣言した。


「俺は今日、父親になった。だからより一層努力して、この子を、お前を守ろうと思う。だから……これからもよろしく」

「ふふ……うん。期待してるね、旦那様」


二人は自然と微笑み合い……そして、ごく自然に顔を近づけてキスをした。お互いへの、溢れんばかりの愛を込めて。


そうしてまた一つ、かつて不死身の怪物だった少年は大切なものをその手に入れるのだった。








ーーゼロ・ルフィネは父となる。

今回で不死なる少年は終わりです。

次回からは不死なる英雄へとサブタイが変わります。

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。

ここまで書いてきましたが、お楽しみいただけましたでしょうか?教えてくれると嬉しいです。

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