第89話 「パワハラ悪徳貴族たちの末路」
マノワールが出ていってから数日が経った頃。
ヴェンリノーブル侯爵は急遽帰投していた。
般若の如き怒りを、その面貌に宿し。
そして縛られた貴族たちを見据え、厳しい折檻を加える。
「きっっさまらぁぁぁぁっっっ!?!?!? ヴェンリノーブル領の恩人に何という仕打ちを!?!?!? 愚か者共がぁぁぁっっっ!?!?!?」
「ひぃぃぃぃ!?!?!? どうかお許しください!?」
縛られて転がされた汚職貴族の胸ぐらをつかんで、彼は執拗に殴る。
ボコボコに腫れ上がった悪徳貴族たちの顔は、原形を留めておらず。
血や歯が転がっている。
それでも怒りは収まらぬようで、ヴェンリノーブル侯爵は怒りを呈した。
「我らが領地は子孫累々に至るまで、恩知らずの汚名を被ることになったのだぞ!?!?!? いくら謝ってもマノワール殿に申し訳が立たん!!!」
何度も身を救われた形になるヴェンリノーブルは、恩人を裏切ったことになる。
マノワールという戦力に愛想をつかされ、恨まれることだけでは済まないと考えるのが普通だ。
それに恩知らずと名が広まってしまえば、もうヴェンリノーブル家に恩を売ろうとする者はいなくなる。
余りの痛撃になる、想像もしていなかったレベルの愚行。
しかも部下からそれを受けたのだから、憤激冷めやらぬのが当然だろう。
「もういい。貴様は死ね。後ほど処刑を執り行う。民衆の前で裁かれ、最後の奉公をすることを許そう」
「なんでぇぇぇぇぇ! へぎょ」
最初から主犯格は殺すつもりだったのだろう。
この期に及んでなにも理解していないようだ。
「お前たちは鉱山奴隷となる。逃亡の可能性がある戦争奴隷すら許さん。確実に息の根を止める。だが働くならば、その日だけは生きることを許してやろう。触書きを出す」
「それだけはぁぁぁぁ!?」
戻ってきた領主により首謀者は斬首。
そして残る貴族たちも、奴隷に堕とされるという罰を受けた。
鉱山では有害物質中毒になる者も多い。
その環境内の最底辺として働く者は、憂さ晴らしとしてこき使われるだけでは済まないだろう。
最悪な苦しみ方をして、その身は果てることになる未来が確定した。
マノワールたちをギルドから追放していたオツボッネたちも、そのような責め苦を現在受けている。
もう死んでいる者もいるだろう。
「サンシータ。長きにわたる忠勤への褒美に、お前だけは治療してやろう」
「ありがとうございますヴェンリノーブル侯爵様!」
一人だけ折檻されなかったサンシータは、土下座しながら感謝を述べる。
彼は上司にはいい顔をする人物。
自分の身を弁えた態度をとり、少しでも反感を買わない術に長けているのだ。
だが彼の期待は裏切られることになる。
サンシータにとっての最悪の形で。
「お前は国境線にて、永遠に魔物を狩る人生を送っているがいい」
「え?」
「ハンバーガーも女性ともお別れだ。今まで搾取した分を労働にて領民に返すことで、罪を洗い流すがいい」
「なんでぇぇぇぇぇ俺のハンバーガァァァァァ」
絶望的な表情を浮かべて、ハンバーガーと一生会えないことを悲嘆するサンシータ。
彼は戦争奴隷と同じだ。
クビに起爆装置を取り付けられて、戦うしかない一生を送ることになる。
逆らったら死。
サンシータは自分が虐めていた奴隷たちと同じ境遇になることを想像し、絶叫した。
「貴族の風上にも置けぬ。なぜこのような者たちのおかげで不利益を被り、足りない時間を取られなければならんのだ」
愚痴りながら、拷問部屋を後にするヴェンリノーブル侯爵。
それも仕方ないことだ。
王国各地では魔物の大侵攻が立て続けに起こっていた。
それを考えれば、マノワールと決裂してしまう事は愚策である。
彼は領の安定のために、国家の安泰のために身を粉にしているのだから、嘆き余る事だろう。
「何かが起こっている。今まで起きたことのない、恐ろしい何かが」
厳しい視線で窓の外を見る。
雄大な大地の国境線が広がっている。
その先には魔王の支配する、人類が生きるには厳しすぎる世界が存在した。
「だが痛快なこともあった。今日はそれを肴に、晩酌としようか」
ワインを開けると芳香な匂いが、部屋に広がった。
グラスを傾けながら、機嫌がよさそうにヴェンリノーブルは虚空へと語り掛ける。
優秀な騎士を失ったことになる彼。
それでも何故だか笑みを浮かべている。
「コックロ。真の騎士になったようだな」
その成長を祝っていたからだ。
この渋い男性は、空に向かって祝杯を挙げた。
その前途に思いを馳せ、芳香な香りの液体を口にする。
理想の騎士コックロにして、この主君ありということである。
「あの小娘が立派になって、感慨深いわい。広い世界を見てこい。コックロ」
第4章終了となります。
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