第79話 「魔王軍幹部」
名乗り上げた魔物。
体高は人間の数倍、横幅はそれ以上の牛の頭をした人型。
ミノタウロス。
人間ならば誰もが知る、特級の脅威。
数々の災厄を人類社会に生み出した、忌むべき存在。
喋るという事は、相当に高位モンスターという事だ。
間違いなくAランク級の怪物。
それが目の前にいて、侵略しに来たと言っているのだ。
「魔王軍幹部……だと……?」
「なんでそんなやつがここに!?」
「アース!」
エルマージとニンメイちゃんが、焦燥を秘めた疑念を呈した。
僕はあまりの圧迫感から、反射で魔法を唱えた。
ステータスは激増するが、まだ警戒心が止まない。
それだけのプレッシャーが、目の前の牛頭の生物から発せられている。
僕は確かに強くなった。
Aランク下位の実力は、確実にあるとみていいだろう。
しかし果たしてこの強大な魔物に勝てるのか、そう僕は内心で恐れていた。
「みんな応戦しろ! 民間人が逃げる時間を稼がなければ!」
「人間どもには冥途の土産すら、くれてはやらん。ここで死ね」
「なっ!? 早すぎ―――――――」
作業員たちの逃走のため、時間稼ぎをしようとしたコックロ。
死の宣告と共に下された、巨大な斧の一振りで吹き飛ばされた。
辛うじて剣で直撃は防いだものの、足を踏ん張る時間すらほぼ一瞬しかなかった。
あまりに高い膂力と敏捷性。
僕の動体視力で追うのが精いっぱいだった。
ニンメイちゃんですら、何が起こったのかわからなかったようだ。
「アース! エルマージ加護魔法を! クソっ! コックロがやられだと!? ニンメイちゃん! 彼女を連れて下がって! エルマージはオーエラさんを!」
「ああ! 頼むマノワール!」
僕はその瞬間、すかさず指示をする。
悲鳴ともつかない返答をエルマージは出した。
そしてニンメイちゃんが再起動した。
彼女は親しくなった女騎士へと、全速力で駈け寄る。
「…………え……? ……コックロさん!?」
「逃げろ……ニンメイ……ガハッ……」
大量に吐血する、人類トップクラスのはずの女騎士。
マズい。早く医者に連れて行かないと。
でもこの魔物は僕たちを殺すため、すかさず追撃をしてくる。
仲間たちには絶対に近づけてはならない。
僕は恐怖を抑え込んで、ミノタウロスへと土魔法を連射した。
「アース! みんな逃げてくれ!!!」
「ほう。貴様から処理せねば危ういな」
地面がめくれ上がり、土とは思えない轟音を立ててぶつけられているというのに。
ただのパンチで相殺される。
いや僕の方の土魔法が押し勝っているが、ダメージを負っていない様子だ。
魔王軍幹部の後方にいる魔物たちは吹き飛ばされ、次々と原型をとどめない形状へと変化した。
だがコイツを倒さないと、この領は確実に蹂躙されてしまうだろう。
「マノワール! 皆が逃げる時間は稼げた! すまないが私達では足手纏いだ! 後は頼む!!!」
「ありがとう! 任せてくれ!」
よかった。みんな無事に逃がせたようだ。
エルマージも離れてくれた。
一人になると恐ろしいほどの圧迫感を、この身一つだけに受ける。
瞬時に湧き上がる恐怖と孤独感。
でも僕が逃げてしまえば、犠牲となるのはかけがえのない仲間たち。
僕はクズだ。そんな男を慕ってくれる女の子たちなんて、二度と現れないだろう。
こんなオッサンだけれど、みんなを助けるために。
ここにいる心ある人々を護るために、戦うんだ。
「ミノタウロス!!! 僕が相手だ!!!!!」
「少しは歯ごたえがありそうだ。時間に余裕はある。肩慣らしに少し遊ぶとしよう」
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