第70話 「三下騎士への怒り」
「あの外面ばかりいいクソ野郎が! 絶対に証拠を暴いて、クビにして頂く!」
「災難だったね。あの騎士さんは……」
「見ての通りのゲスだ。立場の弱いものに負担を押し付けて、その上前を撥ねて評価されている真正のクズだよ」
何とか窘めて、一触即発の二人を引き離すことができた。
仕事前からどっと疲れた……
吐き捨てるようにコックロは、サンシータという騎士を罵倒した。
謹厳実直を絵にかいたような性格の彼女でさえ、そこまで嫌悪するとは余程の人物らしい。
「私は外様で発言力がない。でも騎士として誰よりも鍛錬を積んできたはずだ」
昔と同じだ。
抱え込んでいて、パンクしそうになると涙を浮かべる。
体格は大きくなったが、打たれ弱いことは変わらないのだ。
この領地でもずっと苦しい思いをしてきたのだろう。
「いざとなればあの不忠者を成敗し、同胞殺しの汚名を被ってでも、主君に殉じる覚悟だ」
「思い詰め過ぎだよ!? 昔からのそれ直しなさい! そして人に頼ることを覚えて! 僕が一緒に侯爵に報告するからさ!」
「……すまない」
ばつが悪そうに顔を背ける彼女。
しかし心の底ではそうするつもりなのだろう。
妹分にそんなことをさせたくはない。
昔はとても世話になったのだから、今度は僕が助ける番だ。
「しかしコックロ殿は今までも、あのサンシータの勤務態度を報告してこなかったのか? 調査などはしていなかったのか?」
「何度もした。だが私は書類作業がどうにも苦手で……証拠を集めるというのも、既に隠滅されていたり。何よりアイツは仲間が大勢いるんだ。やつの親戚もこの領に大勢いるのだし。お互いにアリバイをつくったり、書類を煩雑にして、調査を妨害したりされて。何よりヴェンリノーブル侯爵様が見ているところだけは、よく働く要領のいい奴なんだ」
「それはまた想像以上の規模だな。あのザマーバッカー町ギルド並みに腐敗していると見える」
「ホント最悪だったですから! 今思い出しても腹が立ちます!」
「どこも同じなのかもな。この世界は。はぁ……」
女性陣はため息を吐く。
本当に腐った社会ばっかりで嫌になる。
世知辛い世の中だ。
「悩んでも仕方ない。ヴェンリノーブル侯爵が戻ってくるまでに、少しずつ証拠を集めよう。外部の人間から見れば、何かわかることもあるはずだ」
「ありがとうお兄ちゃん……! でもいいのか? お兄ちゃんたちに何も得はないし」
「妹分の窮地を放っておくような、情のない男じゃない。今までの借りを返させてくれ」
「私だって放っておけません!」
「かつての自分を見るようだしな。マノワールが世話になった方でもあるのだし、困った時はお互い様だ」
仲間二人も協力してくれるみたいだ。
彼女たちがいれば、きっとできるはずだ。
「三人とも……! ニンメイもエルマージもありがとう! うぅ……」
「って泣くほどか。泣くのは成功してからだ」
「大きくなっても、泣き虫は変わらないな」
「あうぅ……お兄ちゃん恥ずかしいよ……」
頬を赤らめる成人女性。
凛とした美女が羞恥する姿はなんだか……!
すごくイケない気分に……
っといけないいけない。
今となっては身分違いの、そして妹分を厭らしい目では見れないよ。
「むっ! コックロさんにはマノワールさんは渡しませんからね! それとこれとは話は別です!」
「なななな何を言ってるんだ! 私は恋愛などは騎士を目指したときに捨てたのだ! 決してマノワールお兄ちゃんがいなくなって、恋愛を捨てたのではない!」
「お前それは誤魔化しているつもりなのかコックロ……」
呆れたようにエルマージは視線を向ける。
コックロの反応わかりやす過ぎる……
昔は恋愛なんて興味もなさそうで、僕とばかりと一緒に居たけれど。
大人になるうちに理想がとんでもなく高くなっちゃったのかな?
そんな慌てて恋愛に興味がないなんて言うのは、無理があるよ。
妹分の成長が嬉しくもあり、寂しくもあるが幸せになってくれたらいいな。
それとは関係ないけどニンメイちゃんが言うような悪い冗談は、流石に辞めさせないと。
「って恋愛関係のことで揶揄うのはよくないよ。今までも思ってたけど、こんなオッサンだからって言い過ぎなところがあると思うんだ」
「「「…………」」」
「えっ!? 何その目!? なんか変なこと言った!?」
やりたくないけど、一度強く言わないとダメなのかなぁ。
人の気持ちを余りにも察さない人は、良く思われないよ。
例えば皆にいい人ができた時とかにこんな態度をとれば、別れ話の原因とかになりかねない。
僕は枯れ果てたオッサンだけれど、恋人さんが可哀そうだ。
「いつも通りのマノワールさんは置いておいて、出来ることからやっていきましょう! まずはお仕事です!」
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