第42話 「ギルドのお局」
「マノワールさん達がご無事でよかったです! 私、本当に心配して」
「大丈夫でしたから!泣かないでください!」
オーエラさんに泣かれてしまう。
彼女にも心配をかけてしまったようだ。
「あのパラフィリオ。本当に気に食わなかったんですよ! いつも私たち女性職員のことを厭らしい目で見て、断ってもしつこく口説いてきて……いつも他の冒険者たちの方に暴力を振るって、最悪の男でした!!!」
「もう捕まったんだ。心配するようなことはない」
「エルマージさんもありがとうございました! マノワールさんがいなくなってしまったら、私どうにかなってしまいます」
本当に悪行三昧で、嫌われていたようだ。
これでもう女性たちと冒険者が、あのクズたちに思い悩むことはなくなるかな。
少しは社会の役に立てたなら、僕は嬉しい。
「―――――――オーエラさん。仕事をさぼって雑談とは、良いご身分ですね? それにまだ確定してもいない刑罰が、パラフィリオさんに下されるなどと嘯いて。なんて性格の悪い娘なのかしら」
「あっ……オツボッネさん……」
「あなたは部署を移動して頂きます」
「えっ!? 横から失礼。オーエラさんに向けて、正式な辞令はあるのでしょうか?」
「お黙りっ!!! 私の存在自体が辞令よ!? 私がエビデンス!!!!!」
ヒステリックに叫んだ、眼鏡をかけた謎の中年女性。
他の職員は耳を抑えている。
金切り声も主張内容も耳障りだからだろう。
こんな非道は見過ごせない。
真面目に働いているオーエラさんに、そんな仕打ちは許せない。
「少々お待ちいただきたい。あなたはそもそもどのような職位の方なので?」
「私はこのオーエラの直属の上司で、私の弟はギルド幹部です!」
「いやそれって禄に説明になってないんですが……つまりあなたには人事権がないということでよろしいですね?」
「さっきから何だこいつは? ギルド長に報告されたくないなら引っ込んでいろ。彼がギルド内の問題職員を一掃しようとしているのは、知っていての狼藉か?」
不快感を示したエルマージさんが一睨みすると、オツボッネは一瞬怯んだが。
それでもギルド長不在による業務委託を根拠として、言い返してきた。
「ギルド長が本国にいる間は、ある程度の業務を委託されております! なんせ二か月はここにいないでしょうからね!」
「いやだからどのような権限があなたに付与されているかで、越権行為かどうかが決まるわけなんですが……」
ここから王都へと向かって、手続きを踏めばそのくらいにはなってしまうだろう。
勝ち誇ったようにほくそ笑む中年女性。
ダメだ。話が通じないタイプだ。
僕の周りには面倒見のいい女性しかいなかったが、こんな困った人もいるんだな。
同じ職場では絶対働きたくないタイプだ。
男社会で生きてきたから、何というか新鮮だ。
「ちょっと顔とスタイルがよくて男受けがよくて仕事ができて後輩から慕われているからって、舐めてんじゃないわよ小娘! 貴方なんて私のさじ加減で、いつでもクビにできるのよ!」
「ごっごめんなさい」
「それは脅迫ですか? そして業務妨害諸々が衆目の前で起きているわけですが、ご自身の進退についてどうお考えで?」
余りにも無体な言い草に、僕もムッとして普段ないような厳しい追及をする。
薄々思っていたけど、それは素敵な女性であるオーエラさんへの嫉妬なのでは?
白い目で見ている周囲の冒険者。
それに気づいたのか顔を真っ赤にして、オツボッネは野次馬を睨みつけている。
「とりあえず依頼をお願いしたい。こうしてギルド職員として依頼をするのは最後になるかもしれないのだから、晩節を汚さないように心身を清めて仕事に臨めよ」
「まぁまぁエルマージさん。汚職の嫌疑をかけられている余裕がない方に、真実を突きつけてしまうのは酷ですよ」
「そうだなニンメイ。私まで品性を貶める必要はない。だが人生の先達として、どうにも口を挟みたくなってしまってな。オツボッネとやらの年でも矯正できると信じているんだ」
「きぃぃぃぃぃっっっ!? 年は関係ないでしょう年は!? 見た目が若いからって調子に乗るんじゃないわよエルフが!」
エルマージさんはわざとらしく神妙に、大声で叫ぶギルド職員に依頼用紙を差し出した。
彼女って実は相当煽るの好きなのかな?
オツボッネは奪い取るように依頼用紙を取り上げ、殴るように書き込む。
そして受理手続きをして、くしゃくしゃになった依頼用紙を投げるように寄越す。
彼女の分厚い化粧は、怒りのあまりか罅割れていた。
「それでは行ってらっしゃいませ!!! 精々お早いお帰りを願っております!!!」
「自分が捕まることが決まったからって、開き直ったタイプか? それは私にも救えない」
「行けって言ってるだろ冒険者風情がぁぁぁぁぁっっっ!?!?!?」
「エルマージさんの慈悲を受け取らないとは、最初から救えませんよ。面と向かって職業差別をするような、ギルド職員としての資質が深刻な方なのですから」
度重なる皮肉の応酬に、狂乱し始めたオツボッネという熟練のはずの受付嬢。
まるで落ち着きのない幼稚な年長者の態度に、辟易としてしまう。
「まぁまぁ。依頼があるんだから、そっちに集中しよう」
「聞きましたかオツボッネさん! 冒険者歴実質二か月のマノワールさんのプロ意識は、あなたを凌駕しておりますが!!!」
「うるさいのよ小娘ぇぇぇぇぇっっっ!?!?!?」
「やめてぇニンメイちゃん!?」
面白い、または続きが読みたいと思った方は、
広告下↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓の☆☆☆☆☆から評価、またはレビューしていただけると、執筆の励みになります!!!!!!!!!!




