第38話 「拘留されしパラフィリオ」
目に見えて焦りだしたパラフィリオ。
だが素早く表情を消して、周囲の人間の反応を観察した。
優れた状況判断能力と感情制御能力。
それができるからこそ悪行の数々が、ここまでバレなかったのだ。
「なぜマノワール君が生きているのにもかかわらず、お前は死んでいると主張した? お前がマノワール君を落としたという彼の主張は、どう説明するつもりだ」
「おいおいおい! 俺を信じないって言うのかよ!?」
ギルド長の詰問に、食って掛かるパラフィリオ。
無理筋だが、認めたら身の破滅。
潔白を証明するため、彼はそうするだろう。
だからこそギルド長は奥の手を提示する。
彼の権力の正しい使い方を熟知していた。
「高ランクパーティ内部での諍いは、ギルドとして座視しかねる。国家より身辺調査を開始する」
「ちょっ!? 国家調査って!?」
「何か都合の悪いようなことでも?」
見る見るうちに青くなっていくパラフィリオの顔。
絶対に後ろ暗いことを、僕の件以外にも抱えている。
身辺調査をされたらマズいという事だ。
多くの人間を見てきたギルド長にはわかったらしい。
「国家から派遣されたギルド長として赴任してきたばかりの私に、やけにお前の情報が上がってこないと思っていたが。何か重大な疑義を隠されていたかもしれないとは、私の勘も鈍ったものだ」
「でたらめを言うな! そんなの偶然だ! とんでもない言いがかりだぜ!」
国家から派遣されるギルド長直属の暗部が動き出す。
彼らはこの場での闘争を許さないため、容疑者を取り囲んだ。
パラフィリオは余裕など消え失せている。
その様子を見て、ギルド長は確信を得たらしい。
彼の視線は罪人を見るような冷ややかなものだった。
「これより証拠を収集したのち、私は本国に戻り報告をする。元より魔物たちの被害から増援を送ってもらうように、要請しなければならなかったところだ」
「ぐっ……!?」
「ここにいる者たちも掃除が必要だな。事務員の補充も申請しておかなければ。前任のギルド長とは仲良くしていたのかもしれない。それも同様だな」
目を剥いて言葉が詰まるパラフィリオ。
この処遇は彼にとって効果覿面だったらしい。
脂汗が滴り落ちた。
そして一瞬、僕に殺意の籠った目を向ける。
「取り調べを受けさせる。抵抗するようならば実力行使も認める。被疑者を拘束して連れていけ」
「ご同行を願います」
「くっそぉぉぉぉ!? マノワール! エルマージ! お前ら覚えておけよぉぉぉ!!!!!」
捨て台詞を吐きながら、パラフィリオは連行される。
傍聴席にはもう囚人を見る目ばかりだ。
その中には怯えた表情をしている者も散見される。
中々にギルドも腐っていたようだ。
ギルド長はそれを目に焼き付けるように観察していた。
きっと彼ら汚職者も追求しなければならないからリストアップするのだろう。
「脅迫罪も追加かな。そろそろ黙った方が賢明だと思うぞ。下衆にしては慎重なお前らしくもない」
「てめぇぇぇぇぇっっっ!?」
腕を組んで薄笑いしながら、物凄い煽るエルマージさん。
パラフィリオは青筋が幾つも浮き出て、暴れ出そうとするが動きようもない様子。
屈強なギルド暗部の者たちに制圧されては、流石の彼も敵わないようだ。
そのままどこかへ消えていった。
「―――――さてマノワール君。君にも偽証の嫌疑がかかっているが、魔物たちを倒してくれるなら、私の全権限を持って拘束しないことを約束する。ほぼ確実に君は無罪なわけだしね。もちろん褒章もこのくらい用意しよう」
「こんなに! いいんですか!」
「仕事には適正な報酬あってこそだ。それだけは徹底させている。この状況を把握していない私が言えることではないがね」
ナイスミドルの渋い壮年の男性は、自虐交じりに依頼と報酬を提示してきた。
まるで先程の一件がなかったかのように、商談に移る。
手慣れた様子だ。権力者怖い。
でも凄い金額だ!
これなら冒険者なんてやめて、建築士として働ける!
それどころか自分の家まで建てられるのでは!
「是非お願いいたします!」
「君の実力は聞いている。あのダンジョンから足を骨折しながらも単独で脱出できるなど、Aランク並の実力はあるとみている。期待している」
「僕のような新米冒険者に、期待のし過ぎだとは思います」
Aランクだなんて、国の英雄だ。
僕みたいな普通の冴えないオッサンには、過大な評価だよ。
だがギルド長は苦笑いした。
僕の話なんて、つまらなかったからかな。
「新米……? ははは面白い冗談だ。君にはすでに歴戦の風格が備わっている。数々の冒険者たちを見てきた私の目は、確かだと自負している。君を差し置いて新米の冒険者たちは、何を名乗れと言うのか」
「いえ。私は冒険者歴こそ長いですが、活動を本格的に始めたのは、二か月前です」
「何っ!? それは本当か! 君、資料を」
秘書の方に指示して、何か資料を持ってこさせてものすごい速度で読み込んでいる。
彼の表情は次第に驚愕のものへと変貌した。
冷静沈着な印象しかない彼が、こんな表情をするとは。
そんな驚くことなのかな……?
Aランクの人達なんて、怪物ばっかりって聞くよ?
「どうやら本当のようだ。手元に欲しくなってきた。どうだマノワールくん。私の元に来ればギルド長直属の地位を与える。貴族への道も開けるだろう」
「いえいえそんな。私はしがないオッサンで、過分な地位は分不相応です」
「君のような普通のオッサンとやらが、いてたまるものか……」
貴族なんて堪ったものじゃないと遠慮するが、呆れた様子を醸し出された。
この会話なんかミスった感じあるな。
言うべきでないことを言ってしまったかもしれない。
僕、冒険者辞めれるよね?
国の英雄なんて似合わないよ。
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