第236話 「魔王の奥義」
世界が消滅するかのような闇が、敵をすべて飲み込んだ。
原初の混沌は暗黙のうちに、裁きの破滅的暴威をもって尽くを蹂躙する。
あらゆる存在を終焉へと導く、カタストロフィが顕現した。
この超ステータスがなければ、余波で吹き飛んでいたかもしれない。
僕はほとんど崩れかけた巨大要塞に掴まり、破砕した壁の隙間から外界の様子を探っていた。
砂煙が晴れると、ほとんどの魔物は原形を留めていない。
ケルベロスの頭が一つだけ転がっていた。
ぬらりひょんは魔法職であり、防御力の乏しさから消し飛んだのだろう。
「―――――――認めてやろう。人間。いやマノワール。貴様は強者の一人である」
体中血濡れで、満身創痍のはず。
あれだけの魔法が直撃してなお、立ち続けている。
あの流血量では絶命してもおかしくはない。
行動など不可能なはずだ。
だが生きている。
尋常でない生命力。
生物としての格の差があると、人間の物差しでは測れないのだと実感する。
これが強者男性か。
丸一日戦って、この怪我で動けるとは、どんな体力をしている……!
不死身かと疑う身体性能。
オスの頂点に位置する、生物や職業すら超越しているのだという存在格が伺える。
「だが魔王も満身創痍!!! 我らが負けると決まったわけではない!!!!!」
魔王幹部を二体殺した。
タフモンオスの手勢を大勢滅した。
だが新手が次々とやって来る。
ここまで層に厚みがあるか。
無尽蔵とも思える物量に、焦りを強める。
僕はもう肩で息をしていた。
魔王も無表情だが、ここで何もしないのは疲れを堪えているのだろう。
丸一日戦いが続けられようとしており、そしてこの大魔法だ。
魔力の残量も、恐らくは底を尽き始めているはず。
「まずはマノワールを殺せば、魔王。貴様への道が開ける。根競べと行こうか」
不敵な笑みを浮かべ、サイクロプスの魔王幹部は更なる闘争を欲する。
地獄の消耗戦の始まり、僕は気を引き締めて死地へと―――――
「――――――――お互いに戦力的にもうマズい。ここで相討って死ぬことは避けたいはず。お前が勝っても、戦力的にはただでは済まないだろう。このままお前という魔王幹部が一体でも死ねば、人間との勢力バランスは大いに崩れる。お前はそれが計算できないとは思わない」
交渉か。
漁夫の利を人間にされるより、ここで停戦を目論見るという事。
だが条件はどうする?
魔王を狙うタフモンオスとは相いれないと思うが。
「私は罪のない魔物たちが死ぬことは避けたい。お前たちも死ぬことは避けたいはずだ。ただでとは言わない。私は魔王の座から身を引こうと決めよう」
「お姉さん!?!?!?」
「いい」
ここまで戦っておいて、まだ言うのかと耳を疑った。
思わず叫んでしまったが、魔王は笑った。
僕を揶揄う時のじゃない。
初めて柔らかく微笑んだのだ。
まるで初めて重圧から逃れたのだとでも言うように。
「ここまで求心力に欠ける私が上に居ても、弱い魔物たちが犠牲になるだけ。だからこれでいい」
「わかっておるな! そうだ! 雑魚を楯にすれば、お前は動きが鈍る!!!」
「そうしなければ私に勝てない分際でよく言う」
お互いに牽制し合い、視線を交差させる魔王の座を賭けて戦った両者。
一触即発の空気が漂う。
どうなる。
もう終わってくれ。
そう願い、それが悟られないように睨みつけた。
タフモンオスたちと視線が激突する。
人生最大級の緊張の瞬間、永遠にも等しい時間だと錯覚した。
「南国の島に移住する。私たちはもう、そこから出ないことを誓おう」
「チッ 約定を違えたら、わかってはいるだろうな?」
「私から申し出たことを違える気はないが、元より確約など不可能。そうなってもお前を殺すだけ」
火花が散る両雄。
そしてお互い威勢を張り合い、優位を見せつける。
ようやく停戦合意が成された。
脂汗を掻いている僕は固唾を飲みながらも、最後まで油断せずに見守る。
「一週間で引継ぎや移住をする。この城は好きに使え」
「小さな島で永遠に閉じ籠っているがいい」
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