第215話 「狂喜するゲースリンス」
セインセス様が傷つくであろう言葉を、的確に選ぶように。
王太子はその内心を曝け出した。
セインセス様の顔は青ざめている。
彼女の唇は真っ青で、目を見開いて呼吸を荒げる。
僕の妻となった彼女に、王太子の言葉を聞かせてはならない。
そう直感したのに、でも有意な言葉は見つからなかった。
「頭のいいセインセス! 優しいセインセス! 理想的人間をなんとか模倣しようと頑張ったセインセス! 結局お前はできない人間のことがわからない!!! だからお前は人と行動がズレている! お前の価値観は誰も理解できない! だから恐れられていつも一人だ! お前に縋りついてくるのは、お前の力に守ってもらいたい者や、お前に与して旨い汁を吸いたい者だけ!!!!!」
「やめろぉぉぉぉぉっっっっっ!?!?!? ゲースリンスぅぅぅぅぅっっっ!!!!!」
「間抜けのダイフラグくらいしか騙せない!!! お前に仕える侍女や、あるいは父上すら! お前がヒトモドキだと気づいて、心が離れていく!!! なんでお前は一国の王女なのに、腹心の部下一人すらいない! 皆気づいているんだよ!? 汚職役人を粛清する度に顔色一つ取り繕う配慮もない、お前みたいな冷酷な奴とは関わりたくもないんだよ!!!!!」
「…………ぁ……ぁ」
ついに立っていられなくなり、地面に膝をつく王女。
それを見てますます嗜虐心を強めた、兄王子。
歯を剥き出しにして、セインセスという人間のアイデンティティを抉り出す。
「お前は一人だセインセス!!! 誰もがお前を理解せず嫌悪する! 永遠に孤独に生きていくことが定め! なぜならば――――――――――」
このゲスは笑いながら追い詰めてゆく。
言わせてはいけない。
これ以上彼女の心を気付付けたら、もう二度と。
そう思ったが遅かった。
「――――――――お前は人の心がわからない!!!!!!!!!!」
「うぅ……うぅぅうぅぅぅうぅぅ」
顔を覆い隠して蹲った聖女。
彼女の悲嘆は如何程の者か。
「アハーーーーハッハッハッハッハ!!!!! ヒィーーーーーッッッッハッヒィアーーーーー!!!!!! イヒヒヒヒヒヒィ―――――!!!!!!!!!!」
大笑いしながら、腰を曲げて膝を叩くゲースリンス。
見るからにゲスそのものといった表情。
鼻につく下品な笑い方が、特大の嫌悪感を催させる。
だがあるものを見つけるとすぐに、豹変し行動に出た。
眉間に皴を刻み込んで、飛び出しそうな目になりながら。
「――――――――何をしている無能女!!! ステータスを閉じて、安全な場所へ戻れ!!! 私の言う事が聞けないのか!!!」
「あぁんっ♡ オラオラ系王子様ステキですぅ♡ フヒヒ♡」
自らの婚約者である聖女を平手打ちして、ドスの効いた声で強引に連れ出す。
赤く染まった頬を、愛おしそうに撫でた聖女は喘ぎ声を漏らして去る。
そしてこの場の支配権はゲースリンスが手にしてしまった。
「一丁前に悲しんだ振りをしてるんじゃないサイコパス女!!! いつもみたいに意味の分からないタイミングでケロッとしながら、感情を切り替えた振りをしろ!!!」
「うぅ」
「セインセスを!!! 僕の妻を蹴るなぁぁぁっっっ!!! ゲースリンスぅぅぅっっっ!!!!!」
無抵抗の妹を足蹴にして、満足そうにしているゲースリンス。
僕たちは怒りを呈する
そして貴族たちはだんまりを決め込む。
ここまで趨勢が決しても、王太子に同調しようとする者はいなかった。
そこまでこの王太子は一連の行動で信用を失ったのだろう。
「どうする……どうすればいい……この状況をどうやって打開すれば……」
「お兄様! 一旦逃げよう! 状況が悪すぎる!!!」
「でもその後は!? 僕たちはどうなってしまうんだ!?」
「このままだと仲間皆が捕まってしまうぞ!? そうなればボクたちは勝ち目がなくなる! 生きてさえいれば再起は計れる!!!」
今すぐみんなを助けないといけないが、その後に僕たちはどうなる?
僕たちだけではない、陽キャや集落のみんなの人生も僕の行動にかかっている。
そう思うと思考が滅茶苦茶になる。
アクレイの意見は正しいのかわからない。
判断がつかない僕は、彼女を信じた。
それしかできない僕が情けなかった。
「あ゛~~~~~? やらせるものかよ! オーエラに剣を突きつけろ! 早くしろ愚図共! 指の一つくらい落としてやれ!!!」
「オキャルンさん! オーエラさんを全力で救出してくれ!」
「わかりました~!!!」
当然この会話は聞かれているし、王太子はすかさず反抗の目を摘もうと試みた。
だがアクレイは冷静に指示を出す。
そしてオキャルンさんはホウセンカを足元で爆発させ、植物の蔓を広範囲に流しだした。
オーエラさんに集中していた、兵士たちごと絡めとる。
そして器用にオーエラさんを救出して、脱出する。
「きゃああああああ!?」
「どうなっている!? 我らはどうすれば」
「マノワールにも魔物がいるし、王太子たちも怪しすぎる! 貴族たちの中で魔法が使える者は、防御を!」
昔ヴェンリノーブル侯爵と話していたのを見た、恐らく軍務官僚である貴族が音頭を取って。
僕たちに対抗してきた。
やはりゲースリンスに与することも選ばないらしい。
混迷を極める玉座の間。
それでも虚ろな視線を空に向ける、国王だけが場違いだった。
「今の内に逃げるぞ!!! セインセス様! 失礼ですが運ばせて頂きます!!!」
「……う……ぁ」
「皆行こう!」
そうして僕たちの逃避行が始まった。
面白い、または続きが読みたいと思った方は、
広告下↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓の☆☆☆☆☆から評価
またはレビュー、ブックマークしていただけると、モチベーションに繋がりますので執筆の励みになります!!!!!!!!!!




