第212話 「兄王子の宣言」
今回のセイリムリ男爵の乱を受けて、貴族の重鎮たちは集められていた。
僕たちパーティのみんな、いや妻たちもドレス姿で参加している。
ようやくオーエラさんも治療が完了し、外出できるようになった。
やけに多い衛兵たちが、防御している。
この前の反省をいかした、万全な警備体制なのかな?
みんなよく鍛えられている。
「何を話されるんでしょうね~」
「僕たちの功労を祝すことが主題とのことだが……油断はできない」
「王太子は最後のチャンスと何か仕掛けてくるだろうな」
僕たちは意見を一つにしていた。
悪足掻きをしてくることだろう。
ゲースリンスがここから挽回できる見込みなど、全く見えない。
「王太子はもう求心力もない。ここで宮廷からは退場いただきます」
「魔王から渡されたあの密書を?」
「はい。これほどいい機会もないでしょう」
セインセス様と会話しつつ、玉座の間へと辿り着く。
そこには国王とみられる老齢の、ひどく痩せた人物が至高の座に座っていた。
落ち窪んだ目。
とても正常な意識をしているとは思えない、それでも王冠を被ったこの国の頂点に坐すもの。
「お父様……!?」
「あれが……国王陛下」
威厳と貫禄はある、白髪の長身の男。
しかし病的に痩せており、健常者にはとても見えない。
まともに話せるとは思えず、ハッキリ言って関わり合いになりたくない雰囲気がある。
「本日はお集まり頂きありがとうございました! まず先日の混乱とご迷惑に、謹んで謝罪を。あのような魔物を引き入れたことは、我が身の不明です」
「僭越ながら王太子殿下。このことについて補償は頂けるのでしょうな?」
「ええ。もちろんですとも教皇猊下。しかし皆様に最初にお聞き頂きたいことがございます」
愛想よく歓待の言葉を述べるゲースリンス王太子。
その様子に困惑する貴族たち。
だが少なからず警戒感を強めた貴族たちもいる。
ヴェンリノーブル侯爵もその一人だ。
貴族たちも王太子が真犯人ではないかと疑っている。
教皇に関しては、王太子を排除すると息巻いているらしい。
「――――――――真の聖女はその王女ではない!!!!!」
唐突の大声。
ゲースリンスの主張に、一堂は騒然とする。
「その証拠にこの女性のステータスを見てください!!!」
隣に引き攣れた矮躯の女性へと手を向け、にこやかに告げた。
半透明の板。
神から与えられたという、神聖不可侵たるステータスが映し出される。
「何を言うかと思えば……どういうことなのですか?」
「ならば自分の目でご確認いただきたい」
それに対して大貴族の一人が苦言を呈する。
だがゲースリンスは気を害する風もなく、再度促す。
「これは! 職業は聖女!?」
「なっ!? どういうことだ!?」
「聖女が二人?」
僕たちと共にいるドレス姿のコックロが、大きな声で疑問を呈した。
予想もしていなかった事態に、僕は思考が止まる。
僕らに顔を向けて、ゲースリンスは一瞬ニタリと笑い。
確信犯だ。
どうやってかは知らないが、この短期間をもって対抗手段を用意したのだ。
しかし盲点だった。
こんな方法で僕たちを陥れようとしてくるとは。
ステータスの数値は弄れないはずだが、何が起きている?「
「どうぞ皆様も! ステータスとは神聖なる賜物! 人が介入できる存在ではありません! 見間違えることのなきように、己の目で確認して頂ければ幸いです!!!」
意気揚々と観覧を進めるゲースリンス。
どんなトリックを使った……!
ステータスを改竄などできるのか……!?
称号としてではなく、職業に聖女が存在するとはまるで思わなかった。
まさか本物の……!
「まさか本当の聖女がいたとは……」
教皇も驚きを隠せないようだ。
そして冷や汗を掻いている。
すでにセインセス様を聖女に認定してしまったのだから。
彼が国内外に伝えてしまった言葉は取り返しがつかない。
だからこそ挽回しようと、王太子に擦り寄るかもしれないという、最悪の事態が脳裏に浮かんだ。
「……」
そしてセインセス様だ。
彼女は無表情で事の推移を見守っている。
何を考えているのかはわからない。
だが動かないという事は、現時点ではいい方法が実行できないという事だ。
「察しのいい皆様なら、私の言いたいことが分かったかと思います」
まずい。
だがこうなっては、どうしろというのだ。
この場にいる全員に、聖女であるという確定的証拠を掴まれた。
ここで密書を出したところで、どこまで信じて頂けるものか。
「セインセス!!! この毒婦め! お前がセイリムリと共謀し、あろうことか聖女を僭称し、我らを騙したな!!!」
僕たちを指さして、憤怒の面持ちで糾弾する王太子。
別に僭称したわけではなく、教会がセインセス様を選んだのだが……
だが教会すら敵に回そうという魂胆なんだろうか。
そう思った次の瞬間。
衝撃的発言を金髪の王太子はした。
「私はこの真の聖女と結婚する!!!!!」
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