第207話 「守護の誓い」
セイリムリ男爵の正体が魔物だと発覚し、王都に多大な被害をもたらした事件。
それから数日が立ち、僕たちは復興作業に明け暮れていた。
陽キャやエルフたちも頑張ってくれている。
王都のみんなと協力して、連帯感が生まれていた。
僕の取り柄である土木工事が役に立つなら、これ以上誇らしいことはない。
「…………」
愁いを帯びた表情で、コテージに佇む麗しき女性。
セインセス様は夜になると、一人で考え込むことばかりだった。
彼女の心境を想うと心が痛む。
彼女の戦いはこれからなのだから。
「体が冷えますよ。中へ」
「マノワール様……」
僕は上着を手渡して、着ることを促す。
彼女はそれを羽織って、薄く笑みを浮かべる。
「心配をさせてしまいましたね。あなたに負担をかけてしまい、我が身を恥じるばかりです」
「そのようなことはございません。セインセス様のためとあれば、惜しむ労などございません」
本心からそう思う。
不敬かもしれないが、もう仲間だと思っているから。
「王太子ではなく、ダイフラグお兄様が生きて王位に就いてくださればと。過ぎ去ったことばかりを想ってしまうのです」
「セインセス様」
「やるせない気持ちばかりです。生まれた順番さえ違えば、いや私がもっとうまくやっていたなら。こんなことにはならなかったのかもしれない。そう思うと私は……」
揺れる声には、どれほどの悲哀が詰まっているのか。
王族としての責任。
彼女の小さな肩に背負わされているのだ。
望むと望まないにもかかわらず。
それはなんて辛い事なのだろうか。
「王太子にとって、私が対抗馬になるのは目障りだった。それはわかります。でも―――――」
透明な雫が墜ちる。
彼女の悲しみを封じ込めた、その水滴は留まることがない。
どれほど心が傷つけば、これほどに流れ出るのだろう。
とうの昔に涙など枯れ果てた自分位は、もう共感できない事なのかもしれない。
「―――――家族に殺されるのは、辛いです」
彼女の気持ちはわからない。
僕は家族には虐められてはいたが、本物の殺意を受けたことはない。
この人は孤独なんだ。
僕以上に味方がいないんだ。
それでも国のために、民のために戦っていたんだ。
「セインセス様。あなたを一生お支えします。僕の魂に誓い、今度こそあなたを守り続けます」
「え?」
「あなたの心も、僕は守ります」
セインセス様は呆けた。
涙を流すことすら忘れてしまったようだ。
どうしたのだろう?
まさか頼りないと思われているのか?
当たり前だ。
こんな冴えない風貌のオッサンが、いくら気障なことを言ったって失笑されるのがオチだろう
でも言葉を尽くして伝えたい。
頼りなくとも味方がいるのだと知ってもらいたい。
もう彼女は大切な人なのだから。
「私は至らないところばかりの、冴えないダメなオッサンです。何も得意なことがなくて、何もかも平均以下で、そんな自分が何より嫌で……若い頃から斜に構えて世の中を見ていて、諦観と共に腐っていました」
自分で言っていて情けなくなる。
僕は自堕落に、本当にやるべきことを見つけようとせずに。
そうやって生きてきたダメ男だ。
でも本当に大切なものを見つけられた。
そのためになら、何だってやれるってようやく気付けたんだ。
「でも精進を怠ったことはありません!!! 人生を通して長らく本当の無能でしたが、少しでも仲間を、人々を守ることができました。今はダメでも、きっと本当に強い男に!!! セインセス様に頼って頂ける人間になっていく所存です!!!!!」
「あぅ」
口に手を添えて、俯くセインセス様。
ほおを紅潮させた彼女には、分不相応な願望を口にする痛い人間だと思われたのだろう。
ダメだったようだ。
これでも信用してもらえないか。
僕はつくづく評価が低い、ダメ男らしい。
思った言葉は言い尽くしたが、伝わらなかったのか……
やっぱり僕は……でも……!
「セインセス様!!! どうか―――――」
「―――――不束者ですが、よろしくお願いいたします」
…………ん?
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