第20話 「ショワジの末路」
事故による工期の遅れと、元受けからの厳しい追及。
旧態依然とした多重下請け構造は、どんな厳しい命令にも従うほかなかった。
委託業務が下請けへ流れるほど中抜きが発生するため、下請けは受け取る利益が少なく工期が厳しくなる。
工期の長さはコストに直結するので、必然的に厳しい過密スケジュールになってしまう。
そこに天候や気温の影響を大きく受ける職業柄、今年の異常気象が無情にも追い打ちをかけた。
だがこれだけ欠員が出れば、職人不足により仕事も取れない。
大事故を起こしたという風評も逆風となった。
つまり詰んでいた。
ショワジ組の労働者が吹き飛んだことで、遺族などへの損害補償は莫大な者。
それで会社の代表である親方が、膨大な借金を抱えることになる。
「お前らを見ていなかった、俺の責任だ」
病院にて拳を握り締め、集中治療室にいる組員を見つめているショワジ親方。
社員を守るために、彼は会社を畳むことはできなかった。
ここで放り出してしまえば、悪評から再就職もままならないことを知っていたからだ。
「なんでだマノワール。お前さえいれば……お前のことを面倒見てやった恩義は、教え込んだショワジ組の心意気はどこにいっちまった……いや、いなくなった奴のことを考えても仕方ねぇ」
借金返済に追われ、資金繰りも覚束ない。
こんなことになってしまった元凶であるマノワールがいれば、少しはマシになったかもしれないが。
彼を追放したこの男は、今でも自分が悪いとは思っていないようである。
「やべぇぞこの町の借金取りは、この町を仕切ってるあのパーティの傘下だ。荒くれなんてもんじゃねぇ。昔からこのザマーバッカー町を生き抜いてきた、俺にはわかる」
冷や汗をかくショワジ組のトップの男。
肩を落として帰途に就く。
もはや闇社会そのものである、半グレの金貸し達。
恐ろしい噂ばかり聞く、冷酷非道な取り立てを行う悪徒らしい。
「―――――おいゴラ! 天下のラグニアに舐めた真似するとは、上等くれたじゃねぇか! あぁっ!」
その途中で3人組の若い男たちが、ショワジを取り囲んだ。
彼らは刺青とピアスだらけの身体を露出させており、いかにも反社会的勢力といった風体である。
「借りたもんは返す。常識だろうが。オッサン。お前その年まで生きて、社会常識ってもんを知らねぇのかよ?」
「あぁ。その通りだ。借りた金は絶対に返す。頼む。もう少し待って欲しい」
「おいおいおいおい! まさか死ぬ寸前に返しますとか言うんじゃねぇよな!? お前みたいな汚い真似する野郎がいるから、返済期限決めてるんだろうがっ!」
腹を蹴り飛ばすチンピラ。
体格のいいショワジ親方だが、反撃しようとしない。
自分が金を返さないのが悪い、そしてここで殴り返すのはマズいとわかっているのだろう。
歯を食いしばって、甘んじて攻撃を受ける。
「ったくこんなジジイに金貸した担当者誰だよ?」
「つっかえねぇ~俺らの仕事が増えるだろ。若いバカ女に貸しておけよカスがっ!」
「今日はレイプできると思ったら、こんなクソ仕事かよぉ~テンション下がるわぁ~」
壁を蹴り飛ばして鬱憤を晴らす、ならず者たち。
それでも額に青筋が立ち、我慢ならないと言った様子だ。
「こいつ家族居るんだっけ? そいつら適当に詰めるか」
「いるいる~! オッサン。お前の奥さんと娘さん。死ぬより辛い目に遭うと思うから~よろしく!」
軽い調子でチンピラたちは、凶悪な無頼を試みようとした。
当然別れた妻子に被害が及ぶとは思っていなかったショワジ親方は、抗議する。
その迫力は一つの組織を率いるのに十分なものだ。
「なんでだ!? 妻と娘は関係ないだろう!!!」
「知らねーよ。お前が金ないのが悪いんだろ」
ショワジの非難に対して、興味なさげに吐き捨てる破落戸。
こんなことは日常茶飯事なのだろう。
「目の前でこのオッサンの指でも落とせば、女どもはいう事聞くだろ。バカだったら借金丸ごと引き受けてくれるかもな!」
「お前鬼畜じゃん~! 一生ついてくわ!」
「儲け儲けウェーイ!!!」
人畜生たちは興奮してきた様子で、金銭収入に目算をつけた。
何が面白いのか爆笑し始めた。
「つーわけだ。この町じゃ俺らが法律だから。んじゃ死んで来い」
「あ……あぁ……あぁぁぁあぁぁあぁぁあ」
蹲りながら呻くショワジ。
一体どこで失敗してしまったのか。
自分はなぜこんな目に合うのか。
諦念と共に、彼は考えることをやめた。
「あっ! アイツに見せしめ担当させようぜ! オッサン犯してバラすの好きな変態野郎! 高い金で買ってくれるっしょ!」
「名前忘れたけどあの超キモいやつ!? お前マジ天才だろ! ギャハハ!」
「俺らはオッサンが死んでバラバラになった金で、ヤクキメて焼き肉でも行くか!」
ショワジをひとしきりタコ殴りにしてから、ぼろ雑巾のようになった足を引きずっていくチンピラたち。
彼らはどこに向かうのか。
その行く末はまだ誰も知らない。
第1章終了となります。
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