第197話 「下衆王子の策謀」
そしてすぐにヴェンリノーブル侯爵も到着する。
息を切らしながら、大汗を掻いている。
みんなの無事を聞くが、その表情は険しいまま。
何かあったのだ。
この場にいる全員が固唾を飲み干した。
「マズいぞ!? 王太子一派が今、セインセス様を迎えに来ている! 結婚式を急遽明日執り行うとのこと!!!」
このタイミングで?
ヴェンリノーブル侯爵暗殺に失敗した結果、早められたか!
「暗殺が失敗したから、強硬手段をとってきたのだ! おそらくは暗殺失敗時のために予め仕込んでいたのだ! 先手を取られた! この襲撃は陽動作戦の側面もあったのだ!?」
「クソッ! 王太子の明確な証拠が掴めていないのに!?」
なんという策謀を練っていたのだ。
だが予想して然るべきだったかもしれない。
襲撃の予測はしていたが、それ自体を隠れ蓑にした卑劣な謀略。
セイリムリに逃げられたことがマズかった。
倒してさえいれば、こうはならなかったはず。
いや倒していても、それを口実に僕達を攻撃してきたのかも。
なんて男なんだゲースリンスは。
「止めることはできないのですか!?」
「無理だ。すでに大諸侯たちは王都に到着している。昨今の情勢を鑑みて、秘密裏に召集されたようだ。短縮された予定日を、本気で真であると思い込んでしまっていた」
「ボクの失態だ。王城に運ばれる物資から、結婚予定日を算定していたが……あんな少ない結婚道具の量で、結婚式を挙げるとは……婚礼家具なんて全くないぞ? あの王太子の浅はかさを見誤っていた」
肩を落として嘆くしかなかった。
アクレイも悄然として歯噛みしている。
でも彼らが任される役割は膨大であり、決して彼らの責任ではない。
手筈としては短縮された三週間後に控えている結婚式までに、王太子とセイリムリの明確な犯行証拠を確保するつもりだったのに。
それすらも欺瞞情報だったとは。
何よりそんな待遇でセインセス様を嫁に出すとは、何という下劣な男だ。
それではセイリムリの家からも冷遇されるだろう。
妹の不幸をそこまで願うとは、
「―――――王太子殿下の特使です。セインセス様をお迎えに上がりました」
「セインセス様は渡さないぞ!」
やってきてしまった。
王太子の特使たちだ。
「ふむ? 王太子殿下の御威光に背くと? あなた方には昨今の連続殺傷事件の疑いがかけられておりますが? ついさっきも事件が起こったようで。そんな危ない場所に結婚を控えた姫を留め置くなど、正気の沙汰ではございませんな」
「なんだとっ!? 僕たちに罪を擦り付けるとは! 仲間がやられたんだぞ!? 一生消えない傷まで追って!」
僕達からすれば屁理屈だが、体裁は取り繕われてしまっている。
この事件は綿密に仕組まれた策謀であったのだ。
「そんなものは捨て駒と思えば論理は通ります。それに口ぶりからすると無事に逃げられたようで、下手人は暗殺には成功していないようですね? 客観的にみると仲間だから手心を加えたというのが、妥当かに勘ぐってしまいますが?」
「貴っ様ァァァァァッッッ!?!?!?」
「ダメだお兄ちゃん! ここで暴れては王太子に与えるだけだ!」
頭に血が上り、剣を抜こうとする。
コックロに羽交い絞めにされて、止められた。
「マノワール様。いいのです」
「セインセス様!? しかし!!!」
「私が少し嫌な思いをするだけ。すぐに殺されはしないでしょう。そうすれば王太子が疑われるだけ。その間に彼らの悪事の証拠を掴んでみせます」
儚い笑みを浮かべて、彼女は僕の横を通り過ぎていった。
行ってはいけない。
ゲースリンスは嵌めようとしているのだ。
「あなたに祝福して頂ければ嬉しいです。マノワール様」
振り返って扉から出ていった時、光る雫が目元に煌めいたのは幻影ではないだろう。
無力感。
僕は仲間を守れなかったのだ。
膝をついて、彼女を見送るしかなかった。
「くっっっそぉぉぉぉぉ!?」
「マノワールさん」
玄関の扉が閉まり、僕は情けなく叫んだ。
彼女を守ると言った口で、何をしているんだ自分は。
まるで道化だ。
彼女は僕に裏切られたと感じただろう。
いや見放されたのだ。
「マノワール。まだ終わってはいない」
「……!」
「結婚式まであと少し。お前は諦めるのか?」
違う。
僕は守って見せる。
誓ったんだ。
あなたを守ると。
僕は諦めない。
絶対に救って見せるんだ。
「結婚式で正体を暴く!」
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