第192話 「生まれ始めた誓い」
その後はしきりに手を振っていた観衆の中を、白馬が引く巨大な馬車の上から手を振っていた。
もちろん僕も似合わない行動をとらねばならず、なんだか疲れた。
でもセインセス様にあれだけ大口をたたいたのだから、何でもしないとならない。
後世への恥になるかもしれないが、それくらいは度量をもって受け入れるのが約束をした時の男だと奮起する。
「素晴らしい演説でありました」
「ありがとうございますマノワール様」
水を飲んで一息ついていたセインセス様。
飲料を口にする姿すら絵になっている。
飲み終わるのを見計らい、賛辞の言葉を述べに行く。
雑談で少しでも気が紛れれば。
僕なんかと話しても楽しくはないだろうけど、でも何もしないでいれば不安や恐怖が湧いてくるのかもしれないのだから。
「改めましてドレスがとてもお似合いですよ。聖女としての立場は大変かと愚考いたしますが、セインセス様に相応しきお立場とお姿でございます」
「嬉しいですマノワール様」
少し頬を染めて彼女は返答した。
聖女と言われるのは、流石のセインセス様も照れるのかな?
まだ学園生の女の子だ。
それがこんなに重責を背負わされるとは。
僕がこの子くらいの年の時であったなら、とても引き受けられなかっただろう。
「…………」
「学園時代とはお互いに立場が変わってしまいましたね。色々なことがありました。思い出せば、まだ昨日のことのようで」
「御身はまだ学生の身でいらっしゃったのに」
僕の悲し気な表情と無言を見て、気を遣わせてしまったようだ。
彼女も学園生活に未練があるはずだ。
なのにこんな命がけの役割を果たすことになってしまった。
こんなことは王太子がもっとしっかりしていれば、ないはずだったのに。
黒い感情が首をもたげてくる。
「それが立場の責任というものです。元より王族として果たさなければならない務めでした。そんな世界を忌み嫌うマノワールさんを引きずり込んでしまい、私こそ申し訳なく思います」
目を伏せて、小さな声で内心を表す王女。
彼女が滅多に表に出さない、弱い一面。
今は普通の女の子にしか見えなかった。
僕だって元貴族だ。
強がらないといけない彼女の立場を理解できる。
「いえ。僕はもう逃げたくないんです」
拳を握り締め、宣言する。
弱かった自分から、脱却すると。
「僕はずっとろくでなしで、うだつの上がらないオッサンでした。未来のことを考えているようで考えていない。自分のことなどおろそかにしていた、そして周りのことがまるで見えていなかったバカな中年です」
「そんなことは……」
「いえ。僕は本当に仕事も出来なかったし、何の取り柄もない。日々を漫然と生きるオッサンでした。飛んで湧いてきた幸運のおかげでここに立っているだけの、どうしようもない凡人です」
過去を思い出せば、なんて僕は惰弱だったことか。
スキルを磨くと言って色々な資格を取ってきたけれど、それは目を逸らすだけの行為だった。
僕の幸せに何ら寄与しないことを延々と続けていたのだ。
誰にも認められない努力を、自分が幸せになるためだと妄信し。
二十年以上を無為にしていた、
「そんな僕にも信頼できる仲間ができた。セインセス様。僭越ながら僕は、何度も助けて頂いた貴女のことも大切だと思っております」
「マノワール様」
指をくんで俯いてしまったセインセス様
少し臭い台詞だったかな。
カッコ悪いオッサンでもいい。
それでも味方がいると思って欲しい。
仲間がいると信じてほしい。
「セインセス様。あなたには苦難があり、これからも辛いことが起こるかもしれません。でもこれからは僕がお守りいたします」
「は……い……マノワール様」
頬を染める彼女は夕焼けに照らされて、幻想的に容姿が映えている。
潤んだ瞳はなにを想ってのことか。
僕の言葉を少しでも信じて、そして頼ってくれれば嬉しい。
辛い思いをしてきた彼女をこれ以上悲しませたくない。
僕の心にはそんな誓いが生まれ始めていた。
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