第191話 「聖女の演説」
王城前広場という舞台にて。
大観衆の下で、全く物怖じせず。
明朗たる声調で語り掛ける女性。
お祭り騒ぎの中で彼女は設営されたステージに進み出ると、微笑むだけで誰もが圧倒される。
次第に歓声が鳴りやむと、静かに話し始めた。
天性のカリスマ。
場の空気を飲み込む程のオーラが彼女にはある。
「カール王国に住む皆様。我々は未曽有の国難に襲われております」
その始まりからネガティブな語り口は、大衆を揺るがした。
どよめきが広がり、不安そうな表情が幾つも散見される。
普通は王族の演説は、いい事しか言わない者だ。
完全無欠の権力者というイメージのため、少しでも悪いことは言わずに何でも誇張して話す。
この世界は情報伝達技術が発展していないので、庶民は誰も真偽などわからないからだ。
「先日、私の愛する兄ダイフラグが凶刃に倒れ、その命を落としました。私たちは対抗することができなかった。彼の無念を思うと胸が張り裂けそうになります」
胸を押さえた王女は、沈痛な面持ちで感情を吐露する。
そして人類が直面する、最悪の予想を問いかけたのだ。
「そしてそれは皆様も同じです。今でさえ皆様が顔を知る隣人は、その尊き命を落としております。このまま手をこまねいていては、魔物たちに国は。いや世界は蹂躙されて、我々は滅びるでしょう」
誰かが息をのむ声が上がる。
小さな悲鳴が聞こえると、それをきっかけに誰もが恐怖にざわめきだし。
次第に恐怖による喧騒となっていった。
「しかしここには聖女である私と、英雄マノワール様!!! そしてダンジョン攻略と魔王幹部打倒を成し遂げたパーティたちがおります!!!」
それを押さえつけるように、突然と声を張り上げるセインセス様。
聖女に任命された彼女は、多くの暗い感情に希望の光を差し入れることができる説得力を有している。
「マノワール様の剣が魔を浄化し、世界に安寧を齎すのです!!! 彼の英雄の活躍にこそ、平和と希望が懸かっているのです!!!」
彼女が僕の名前を引用するとともに、僕は進み出て剣を掲げる。
儀礼用の煌びやかな鎧を身に着けた僕。
役者不足感がものすごい。
気恥ずかしいが、王女殿下に恥をかかせるわけにはいかないと全神経を集中させる。
表情を引き締めれば、幾分がマシなオッサンになると信じたい。
「英雄マノワールだ!」
「ダンジョンボスを倒し、魔王幹部まで倒したとされる大冒険者!」
「なんて精悍な顔つき……ステキ……」
「伯爵にまで上り詰めたなんて、マジで最新の伝説だぜ!」
民衆から賛辞が寄せられる。
中身は大したことじゃないんだけどな。
大歓声が鳴りやまない中を、僕達はアピールを続ける。
横から見ても綺麗な顔をした仲間たちは凄い存在感なんだけど、僕は場違いすぎる……
「兄貴カッケェーーー!!!!」
「っパネェーーーー!!!! マジヤベェーーーーー!!!!」
「流石っス兄貴――――!!!」
陽キャたちも群衆に紛れて祝福してくれている。
彼らは護衛も兼ねている。
何千人もいるのだから、滅多なことは起きないだろう。
「ニンメイちゃーーーん! 可愛いよーーー!」
「エルマージさん! 昔見たことがあるわ! とっても親切でカッコいいの!」
「やっぱりエルフはすげぇなぁ……あんな美人で」
「ミーニャさんスタイルすげぇ! それで強いんだからファンになっちまうよ!」
「っぱコックロ様っしょ! 爆乳剣士とか推すしかない!」
皆おずおずと手を振る。
エルマージとコックロは手慣れたように、愛想を振りまいている。
未目麗しい女性陣達。
彼女たちは大人気のようだ。
女性が大半を占めるパーティ。
よって王都の女性たちも、熱烈に支持している様子。
「エルマージさんをはじめとしたエルフの同胞たち、そして獣人であるミーニャさんもパーティの一員として協力してくれております。我らには良き隣人が降ります! 皆の力を合わせれば、魔物たちに勝てると確信いたします!!!」
群衆の中心部へ至ったころ、セインセス様は魔道具のマイクで演説する。
そしてこの演説の趣旨について、いよいよ言葉を形にする。
「カース王国の民よ!!! 聖女として私はここに、魔王打倒を宣言いたします!!!!」
魔道具にて多くの視覚効果が齎される。
魔法の煌めきが空に多く打ち上がり、祝砲とする。
荘厳な曲が奏でられ、まるで映画のワンシーンのようだ。
新たなる聖女を支持する声が、空まで響き渡った。
人類の希望として、王国の民はセインセス様を認めたのだ。
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