第188話 「ダイフラグ死す」
早朝から僕はいつも起きている。
土木作業員だったことからの名残だ。
「ふぅ……今日もいい汗かいたな」
「マノワールさんも剣術が凄く上手くなりましたニャ! この調子でもっとうまくなれば、もう勝てる人はいませんね!」
「元が悪かったから、でも感慨深いよ」
ミーニャに日課の訓練指導を受けている、下手くそ中年剣士マノワール。
だが僕の剣技も一端の剣士を名乗れるくらいにはなった。
一流の剣術家にはなれる気がしないけど。
でも僕はステータスでごり押しするスタイルだから、最低限でもできれば恩の字と考える。
素人から成長していけば、戦闘でもかなり変わるはずだ。
お世辞だろうけどミーニャさんとコックロには、達人の域って言ってもらえているけどね。
僕なんかが剣豪扱いされるなら、彼女ら二人は伝説の戦士だろうと言いたくなる。
僕なりに修練に励んではいるけど、最近は貴族の仕事で忙しくて……
レベルの伸びも殆ど無いし、スキルも貴族社会に使うものばかり伸びている。
魔王以外には負けるつもりはないけれど、彼女に勝てるかどうかは怪しいのが気がかりだ……
―――――――――――――――――――――――――
【マノワール・オッサツイホ】
職業:自宅警備員
Lv :81
HP :855/985
MP :744/868
攻撃力:1854(×3) 実数値618
防御力:2463(×3) 実数値821
魔法力:2067(×3) 実数値689
素早さ:1815(×3) 実数値605
スキル
数学lv47
科学lv51
社会学lv45
礼法lv43
芸術lv38
舞踏lv37
製作lv67
建築lv80
土魔法lv85
投擲lv69
剣術lv67
体術lv66
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「マノワールさん! 大変です!?」
「どうしたんだいオーエラさん? そんなに慌てて」
「ここではとても言えませんので、急いで屋敷の中へ!」
血相を変えた元ギルド受付嬢の女性が、緊急事態を告げに走ってきた。
彼女は早起きして誰かと会っていたようだが……
僕たちを集めると、深刻な様子で話し始める。
それは全員の心をひどく乱した。
「本日未明、ダイフラグ殿下が暗殺された模様です」
「なんだって!?」
衝撃の事実。
僕達の言葉は止まった。
「そんな」
「セインセス様」
王女も取り乱している。
当たり前だ。肉親の訃報なのだから。
まさかこんなことになるなんて思ってもみなかった。
僕たちも驚愕と焦燥を隠せない。
「なぜセインセス様に連絡が来ていない? どこでそれを知ったんだ?」
「マノワールさんの男爵時代、懇意にしていた商人から耳にしました。ダイフラグ殿下に商品を届ける手筈だったようですが、多くの騎士から取り調べを受けたとかで」
冷静に情報分析に努めるエルマージ。
今や伯爵である、僕の家の家宰のような仕事をしているオーエラさん。
その伝手から、情報を得たようだ。
しかし違和感がある。
「いくらなんでも有り得ない。そんなことがあればセインセス様を、早馬で保護するはずだ。他の王族が暗殺の危険があるという事なら、それが最も自然なはず」
「それをしないって何か理由がある……つまり―――――」
コックロの指摘に、猛烈に嫌な予感がした。
いやそれは確信に代わる。
「―――――昨日訪問した私が疑われているという事ですか」
「セインセス様……」
毅然とした態度のセインセス様。
しかしそのお心は深く傷ついていることだろう。
許せない。
王太子は肉親の死すら利用して、彼女を陥れようとしたのだ。
「わざわざ私が疑われるように仕向けた、何者かの策謀でしょう」
「セインセス様」
「ゲースリンス王太子に取って、ダイフラグお兄様は政敵であると同時に、王権を守護する利益共同体。まさか自分の予備を殺すほどに、判断力を損なっていると思いたくはありませんが」
ゲースリンス王太子を兄と言わなくなった、セインセス様の変貌に気づく。
いつも慈愛に満ちているその声は、ひどく冷え込んでいる。
つまり疑っているという事だ。
実の兄が、弟殺しをしたという事を。
「何にせよ危ないな。ニンメイ。すまないが屋敷の防諜を最大限に願いたい。エルマージもそのサポートを頼みたい」
「わかりました!」
「了解した」
コックロがテキパキと指示を出す。
現役騎士の子爵は違うな。
「オーエラ。殺害方法はどうだったか聞いているか?」
「すみません、そこまでは」
一商人に告げるはずもないか。
だが情報収集をしなければ、危うい。
「この事件の真犯人が誰かはわからないが、恐らく王太子は何かしら手を打って来るだろう。それはセインセス様を嵌めることを可能とするものに違いない」
コックロの視線は鋭く、声色も固い。
一体何が待ち受けているのだろうか。
ゲースリンスの考えを推し量ろうとしたが、僕にはとてもできないことが恨めしかった。
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