第183話 「マノワール伯爵」
貴族だった頃も一度も入城しなかった、荘厳なる石造りの王宮。
尊き血が流れるものだけが入ることを許されるこの場において、僕はある儀式を執り行っていた。
「――――――マノワール男爵を伯爵位に叙す」
淡々とした口上。
見るからにやる気がない表情をした、法衣貴族の宣言。
前回の男爵位叙爵式よりは、はるかに形式ばったやり取りが為されている。
しかし今回も王はいない。
王太子が僕に貴族位を、代理で授与していた。
「「「「「…………」」」」」
貴族たちの視線は冷たい。
成り上り風情が高位貴族の末席を汚すなど、不遜にも程があると思っているのだろう。
家の恥だとまったく社交界に出されなかった僕は、ほとんど貴族に伝手がない。
孤立無援とまではいかないが、かなり苦境に立たされていた。
「マノワール伯爵。伯爵への襲爵おめでとう」
「ヴェンリノーブル侯爵。ご祝福を賜り、誠にありがとうございます。改めましてその節は申し訳ございませんでした。なのに関わらず、このように出向いて頂きまして……」
「何度も言っているが、あれは儂が悪い。謙遜も過ぎれば嫌味だぞ」
叙爵式が終わり、早速王女殿下セインセス様がヴェンリノーブル侯爵と連れ立って声をかけてきた。
気を使ったのもあるのだろうが、自派閥であるのだと積極的に広めるためであろう。
勝手に領地から出ていった僕を咎めることなく、侯爵は迎えてくれた。
心が広いな。
とういか僕を男爵のままにしてくれるため奔走してくれたとは、聖人だ。
まぁ打算もあったのだろうけど、頭は上がらない。
彼の後援のおかげで、何かにつけて僕も動きやすくなっているのだろう。
「マノワール伯爵。この度はおめでとうございます」
「セインセス様。わざわざお声掛け下さり、光栄の至りにございます」
細やかな意匠が施された、優雅なドレス姿の金髪美女。
その豊満な肢体が豪華に彩られ、本物の貴人とはかくあるものかと感嘆させられる。
柔和な笑みを浮かべ楚々とした仕草で話す姿は、社交界の華と称するに相応しい。
カース王国の至宝と名高い、尊き女性。
今までは見る事さえも叶わなかった王室関係者が、僕に会うために来ることは未だに信じられない。
「マノワールだったか。以後も誠心誠意励むがよい」
「ゲースリンス殿下。王国、ひいては王族の皆様に忠義を捧げる所存にございます」
黄金の長髪を上品に後ろで結った、背の高い貴公子。
この国の正統後継者たるゲースリンス王太子が声をかけてきた。
無表情のままに、愛想もないが。
あまり好かれてはいない、むしろ嫌われているようだ。
でも露骨に無視しない、感情を取り繕うくらいの人物ではあると見受けられる。
しかしセインセス姫に対しては、悪感情をむき出しにしている。
彼女の功績を褒めることもなく、邪険な口調で対している。
「セインセス。エルフの取り込みについては、よくやった。だが女の分際で出しゃばりすぎではないか? 少し分を弁えることだ」
「ゲースリンスお兄様。お気を悪くさせてしまったなら申し訳ございません」
「あのっ……!」
自分が悪くないのに、深く頭を下げる王女殿下。
しかしそれでも溜飲が下がらないのか、王太子は更に苛立ちを深めて眉間に皴を寄せていた。
あんまりな言葉じゃないか。
セインセス様は王国のために頑張ったのに。
僕は王太子の言葉に抗議しようとしたが、ヴェンリノーブル侯爵に肩を全力で掴まれ制される。
「……っ」
項垂れて拳を握り締める。
ここで王太子を完全に敵に回したら、むしろ王女殿下に迷惑をかけることになる。
でもそれでは彼女が我慢し続けることになるのではないか?
こんなにも頑張っている彼女を、女性というだけで評価せず。
家族であるのにも関わらず、冷たく当たるなど許されていいのか?
ここで見る限りでも、物凄い対立しているみたいだ。
僕はセインセス様の派閥に入らざるを得ないし、どうなってしまうのだろうか。
「そうだ。お前に言う事があるのだった」
「なんでしょうかゲースリンスお兄様」
口にするのも面倒臭げに、投げ槍に伝言をする王太子。
聖女について、動きがあるとのことだ。
「教会がうるさくてな。かねてからお前が調べていた聖女について。詳しく話を聞きたいとのことだ。そして何より―――――」
もったいぶって王太子は、ゆったりと言葉を口にする。
口角を歪めたその表情は、実に楽しげなものだ。
何か嫌な予感がする。
そして僕たちの意識を揺るがす言葉が発された。
「―――――お前をセイリムリ男爵に嫁がせることに決まった」
面白い、または続きが読みたいと思った方は、
広告下↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓の☆☆☆☆☆から評価
またはレビュー、ブックマークしていただけると、モチベーションに繋がりますので執筆の励みになります!!!!!!!!!!




