表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/241

第183話 「マノワール伯爵」




 貴族だった頃も一度も入城しなかった、荘厳なる石造りの王宮。

 尊き血が流れるものだけが入ることを許されるこの場において、僕はある儀式を執り行っていた。






「――――――マノワール男爵を伯爵位に叙す」




 淡々とした口上。

 見るからにやる気がない表情をした、法衣貴族の宣言。


 前回の男爵位叙爵式よりは、はるかに形式ばったやり取りが為されている。

 しかし今回も王はいない。

 王太子が僕に貴族位を、代理で授与していた。




「「「「「…………」」」」」



 貴族たちの視線は冷たい。

 成り上り風情が高位貴族の末席を汚すなど、不遜にも程があると思っているのだろう。


 家の恥だとまったく社交界に出されなかった僕は、ほとんど貴族に伝手がない。

 孤立無援とまではいかないが、かなり苦境に立たされていた。






「マノワール伯爵。伯爵への襲爵おめでとう」



「ヴェンリノーブル侯爵。ご祝福を賜り、誠にありがとうございます。改めましてその節は申し訳ございませんでした。なのに関わらず、このように出向いて頂きまして……」



「何度も言っているが、あれは儂が悪い。謙遜も過ぎれば嫌味だぞ」



 叙爵式が終わり、早速王女殿下セインセス様がヴェンリノーブル侯爵と連れ立って声をかけてきた。

 気を使ったのもあるのだろうが、自派閥であるのだと積極的に広めるためであろう。




 勝手に領地から出ていった僕を咎めることなく、侯爵は迎えてくれた。

 心が広いな。

 とういか僕を男爵のままにしてくれるため奔走してくれたとは、聖人だ。


 まぁ打算もあったのだろうけど、頭は上がらない。

 彼の後援のおかげで、何かにつけて僕も動きやすくなっているのだろう。




「マノワール伯爵。この度はおめでとうございます」



「セインセス様。わざわざお声掛け下さり、光栄の至りにございます」



 細やかな意匠が施された、優雅なドレス姿の金髪美女。

 その豊満な肢体が豪華に彩られ、本物の貴人とはかくあるものかと感嘆させられる。


 柔和な笑みを浮かべ楚々とした仕草で話す姿は、社交界の華と称するに相応しい。

 カース王国の至宝と名高い、尊き女性。

 今までは見る事さえも叶わなかった王室関係者が、僕に会うために来ることは未だに信じられない。






「マノワールだったか。以後も誠心誠意励むがよい」



「ゲースリンス殿下。王国、ひいては王族の皆様に忠義を捧げる所存にございます」



 黄金の長髪を上品に後ろで結った、背の高い貴公子。

 この国の正統後継者たるゲースリンス王太子が声をかけてきた。

 無表情のままに、愛想もないが。


 あまり好かれてはいない、むしろ嫌われているようだ。

 でも露骨に無視しない、感情を取り繕うくらいの人物ではあると見受けられる。




 しかしセインセス姫に対しては、悪感情をむき出しにしている。

 彼女の功績を褒めることもなく、邪険な口調で対している。




「セインセス。エルフの取り込みについては、よくやった。だが女の分際で出しゃばりすぎではないか? 少し分を弁えることだ」



「ゲースリンスお兄様。お気を悪くさせてしまったなら申し訳ございません」



「あのっ……!」



 自分が悪くないのに、深く頭を下げる王女殿下。

 しかしそれでも溜飲が下がらないのか、王太子は更に苛立ちを深めて眉間に皴を寄せていた。


 あんまりな言葉じゃないか。

 セインセス様は王国のために頑張ったのに。

 僕は王太子の言葉に抗議しようとしたが、ヴェンリノーブル侯爵に肩を全力で掴まれ制される。




「……っ」


 項垂れて拳を握り締める。

 ここで王太子を完全に敵に回したら、むしろ王女殿下に迷惑をかけることになる。

 でもそれでは彼女が我慢し続けることになるのではないか?


 こんなにも頑張っている彼女を、女性というだけで評価せず。

 家族であるのにも関わらず、冷たく当たるなど許されていいのか?




 ここで見る限りでも、物凄い対立しているみたいだ。

 僕はセインセス様の派閥に入らざるを得ないし、どうなってしまうのだろうか。






「そうだ。お前に言う事があるのだった」



「なんでしょうかゲースリンスお兄様」



 口にするのも面倒臭げに、投げ槍に伝言をする王太子。

 聖女について、動きがあるとのことだ。




「教会がうるさくてな。かねてからお前が調べていた聖女について。詳しく話を聞きたいとのことだ。そして何より―――――」



 もったいぶって王太子は、ゆったりと言葉を口にする。

 口角を歪めたその表情は、実に楽しげなものだ。


 何か嫌な予感がする。

 そして僕たちの意識を揺るがす言葉が発された。






「―――――お前をセイリムリ男爵に嫁がせることに決まった」









面白い、または続きが読みたいと思った方は、


広告下↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓の☆☆☆☆☆から評価


またはレビュー、ブックマークしていただけると、モチベーションに繋がりますので執筆の励みになります!!!!!!!!!!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


旧作も読んでくださると嬉しいです!

 『異世界神様チート貴族転生したら、女装して女学園に通って悪役令嬢を誑かして婚約破棄させるように言われた。クラス転生していた悪役令嬢に男バレして追放されたがもう遅い。聖女(?)として復讐だざまぁ!』

テンプレ末期戦異世界チート転生女学園潜入もの書いてます。
こんなタイトルですが、神々の争いに主人公が巻き込まれるシリアス戦記です
 

 『追放ザマぁジャンルの研鑽について、また個人的対策案の成否に関する所感』

初エッセイです。本作品を基に書きました。
また初創作論です。
追放ザマぁジャンルを執筆する作者として、自分なりに反省点を交えた考察。
追放ザマぁの構造的問題への解決につながるかもしれないアプローチ。
新追放ザマぁシステム『連続追放』を通して分析することで、違和感なく楽しみながら完読できる小説を目指すという、ジャンル全体における質の向上を目標とする文章です。
皆さんの目で、お確かめ頂ければともいます。


一日一回投票いただけると励みになります!(クリックだけでOK)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点]  王女を男爵に嫁がせる!?  ここに独身の伯爵がいるじゃないか!  相変わらず巧みな展開ですね(๑•̀ㅂ•́)و✧
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ