第182話 「反魔王勢力の胎動」
エルフの森を支配し、魔王城に戻った魔王マオ。
人間の居城とはスケールが違い過ぎる、縮尺が余りにもかけ離れた巨大な廊下。
ハイヒールにて高い反響音を鳴らして向かう先は、巨大なる黄金の玉座。
マオが座っても、彼女の腰幅なら10人以上は座れるほどに大きい。
「魔王様。一度失敗したようですが、ご戦勝おめでとうございます」
臣下であるのであろう、山のように巨大な魔物。
サイクロプス。
単眼の巨人。
分厚すぎる程の重厚な鎧を着こんだ、殺戮兵器そのもののような生物。
凄まじい筋肉量を誇る神話の生き物は、己の主君を嫌味たらしく祝福した。
魔王が座る玉座の間において、数人の殺気が立ち込める。
この無礼な魔物の言動に、反感を覚えたのだろう。
しかしこの部屋にいる者たちの大半は、意に介さない。
薄笑いしている者さえいる。
魔王軍は一枚岩でない事の証明といえよう。
「しかし……私の戦力はひどく削られましたな。あれだけ事前準備をしたにもかかわらず、魔王様の親征はそれほどまでに過酷だったようで」
「言ったはずだ。エルフを甘く見るなと、お前の手勢を先鋒に使っても、ほとんどのエルフを取り逃した。結局は私が出て、エルフの長老を殺す羽目になった。私はお前の要望を極力汲み取ったまで」
魔王も狸だ。
こうなる事すら予測し、いやむしろ歓迎していた。
額に青筋を立てながらも、自身が熱烈に推した部隊と策であるので糾弾できない。
笑みを取り繕い、慇懃無礼に頭を下げた。
「ここは引き下がりましょう。先日ですが王宮内部にも、我らの手の者を忍ばせました。時機にカース王国は崩壊するでしょう」
傲慢にも恩を押し売るように、魔王に対して挑発的に報告をするサイクロプス。
彼の言葉が真実ならば、すでに人類の中枢へと魔の手は伸ばされていた。
マノワールとセインセスたちを待ち受けるものとは何か。
彼らは最悪の形で、すぐにそれを知ることとなる。
「そうなれば当然、勲功第一と認めて頂けるのでしょうな」
「勲功には適正に報いる」
「それは喜ばしきことにございます」
不服であったのだろう。
単眼の巨人は、さほど喜ばしくもなさそうに言葉を返した。
魔王マオは無感情に退出を促した。
「功をあげてから、ものを言うがいいタフモンオス。下がれ」
「……わかりました。失礼いたします」
静かに退出するタフモンオスと呼ばれた魔物。
しかし怒気は立ち込めている。
魔王の城から出ると、決して晴れる用のない事のような暗雲が空には立ち込めている。
しきりに雷が鳴り、物々しい空気が立ち込める場所。
その雷鳴すら吹き飛ばすような轟音が、地下より鳴り響いた。
この魔物が地面を殴りつけたのだ。
岩盤ごとめくれ上がった、大地の残骸。
それに向かってサイクロプスは吠える。
「チッ! あの小娘が!!! 先王の娘というだけで、この俺に命令をしやがって!!!」
魔王マオに向かって、汚い愚痴を漏らしたタフモンオス。
先程の謁見の内容のみならず、彼女の存在すら気に食わない様子だ。
「弱いメスは、オスの奴隷だろうがっ! 子どもを産むだけの肉便器が、この俺様に指図するなど! 先王の娘というだけのバカ女が!!!」
醜悪な表情で、差別的発言を繰り返す単眼の巨人。
その巨大な一つ目は、充血しており瞳孔が開ききっている。
余程に怒り狂っている証拠だろう。
「マオ……見た目だけは極上だからな。俺が魔王になった暁には、無理やり犯して妻にしてやろう。ハーーーーーハッハッハッハッハ!!!!!」
邪悪なる高笑いするタフモンオス。
その野望を露わにし、それに向けて行動しているようだ。
魔王軍内部ですら、闘争を辞さないほどの派閥対立はある。
人類との戦争の行く末には、どんな結末が待ち受けているのだろうか。
それを知る者はいないが、誰もが己の目的を果たそうと影に日向に力を尽くしていた。
第8章終了となります。
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