第180話 「同胞愛」
「しかし目の前に迫る死を前にして、恐らく私は怖気づいた」
「僕はあなたたちを愚かとは思いません。僕だってそうしていたと思います」
何が正しいのだろうか。
僕たちはいつだって、正解がわからないまま未来へと進む。
種族として迫害されるという懸念は、孤独だった僕にはわからない。
だが世界から追われるような、あの苦痛はわかる。
だから長老の言葉も、僕は痛いほどに共感できたのだ。
迫害されたことのある者にしか、あの気持ちはわからない。
「マノワール様。申し訳ございませんでした。我らのために……きっとあなたは王都へ行きたくはなかったのでしょう」
「それは違いますよ。魔王たちの行動を見て、少しでも出来ることをしなければならないと思った。あなたの言う通り、逃げ続けていくこと、それ自体がリスクです」
自分で言っていて、理解できたのかもしれない、
言葉にするうちに、自分の考えが確固たるものになっていた。
僕はセインセス様の申し出を受諾し、伯爵になることに決めた。
戦争を止めなければ僕たちはいずれ、どん詰まりに陥るかもしれない。
余力があるうちに、やるべきことはやらないといけないんだ。
自分に課された、他者が期待する仕事から目を逸らし続ければ、不利になるのは自分だけじゃすまない。
僕を好きでいてくれる女の子たちのため、僕は果てが見えなくても戦いに身を投じようと思った。
「あんなことを言ったのに、長老は選別を渡してくれたんです。追放といったくせに、里の資産は全て持っていかせて」
「……」
「何も計画がない私を、結局は後押ししてくれたんです。それがなければきっと私たちは、人間の住む地で生きていく糧さえなかったかもしれない」
何も言えなかった。
それきり黙りこくったエルリフォムさんは、静かに涙を流した。
僕はそれを見ないようにして、いや見ることができなかった。
顔を背け王女殿下に話しかける。
「セインセス様。これから彼らをどのように遇するおつもりなのでしょうか?」
「エルフを引き込んだ功績から、私も権限を得ることができるでしょう。それをもって領地を与え、戦力としたく」
つまりは僕と同じような立場。
セインセス様の私兵。
僕は仲間たちを守るつもりなのは変わらないけど、それでも怖かった。
40になるまで、ろくに命のやり取りをしてこなかったオッサンだ。
喧嘩だって数えるくらいしかしていない。
一般人に毛が生えたような精神しかしていないだろう。
色々なことから逃げ続けてきた幼稚な僕が、ここで何を為せるのか。
思う悩むうちに、時間は経っていた。
仲間たちも表情が暗い。
しかし新たな門出の時は訪れる。
「王都が見えてきました」
面白い、または続きが読みたいと思った方は、
広告下↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓の☆☆☆☆☆から評価
またはレビュー、ブックマークしていただけると、モチベーションに繋がりますので執筆の励みになります!!!!!!!!!!




